第五章 最強になりたい理由
⒌ 世界最強になりたい理由
「(なぜ……どうしてこんなことになっている!?)」
目の前で起きていることに納得がいかず、オレは心のなかで強い悪態をついた。
ちなみに今の現状だが、ヒザは地にへばりつき、手は腹の前で拘束され、動かすことが許されているのは両の指達のみ。
たしかにオレは、奴の……ヒモルの提案を捌くことができず、ヤツのペースに乗せられてしまった事実は否めない。
しかしな、だからといって、なぜ……なんで
「なんで、アンタと一緒にテレビゲームしなきゃなんねーんだよ!?」
オレの宣戦布告に、ヒモルがOKサインを出した数分後の現在。
俺達は、場所を玄関前から家の中、リビングへと移動させ、テレビゲームの対戦に勤しんでいる。
座りながらテレビ画面を見続け、コントローラーを両手で固定し、無数のボタンをランダムに押し続けてる状態だ。
「え~、だから言ったじゃん。君の決闘には応じる。でも、その前にボクとゲームで遊んでって」
「そりゃ、言われたけどさ……」
そう、なんでかよく分からないけど、ヒモルの出した条件とはこの事だった。
「それに君だって、ノリノリでOKしてくれただろ? あの時の『やります、やらせていただきます』という君の紳士な叫びを、ボクは一生忘れない」
「あれがノリノリに見えるなら、今すぐ病院で検査受けてこい! オレは、しっかり断っただろうが! なのに、お前がしつこいから……」
今思い出しても身の毛がよだつ。よだれと鼻水をまき散らしながら「やだよ~、一緒にあそんでよ~」と抱きついてくる成人男性をバッサリ切り落とす方法があるなら誰か伝授してほしい。
「大体、あの人、センカさんに頼めばいいじゃねーか」
「セ、センちゃんは強すぎて、心くじけるから……ダメ、絶対!」
恐怖で顔を青く染め上げ、ブルブルと身体を震わす世界最強。どうやら本気の主張なようだ。
そんなトラウマ指定を受けたセンカさんはと言えば、オレらの後ろでテレビ画面を見ながら「ほっ、よっ、そこっ、あう~」と一人独特な盛り上がりを見せてる始末である。なんなんだ、お前らの関係性は!
「くそっ! 大体にして、このソフトも古すぎだろ。たしか五年前くらいに発売したヤツじゃねーか?」
「え~、今でも名作だよ、『ジヘータイ ~守れ、ニホンの平和~』」
「どこがじゃ! 架空の国『ニホン』の設定がエグすぎるって酷評の嵐だった記憶しかねーわ!」
「あ~、忙しすぎて過労死か精神病む人が多い国なんだよね~。でもでも、突如現れた異星人が、それを救うべく、ニホンを侵略し始めるってストーリーは感動的じゃないか」
「その異星人達を防衛組織『ジヘータイ』の『コークーキ』でなぎ倒していくお話なんだけど!」
「ニホンって国にもゲームがあれば、幸せなのにね~」
「科学が発達した国なんだからゲームくらいあるだろ! 案外、オレ達みたいなヤツが、モンスター倒して強くなるゲームとか流行ってるんじゃねーか? そんでもって、プレイした奴が『この世界観で、機械やテレビゲームがあることに違和感を感じる』とか言ってたり……って、電子機器くらいあるわ。なめるなよ、ニホン!」
もはや怒りの矛先は、対象を選ばず拡大していく。
それに呼応するように、パワーアップアイテムを手に入れたオレの操るコークーキは、その攻撃範囲を拡げ、敵を一斉になぎ払っていく。
そうだ、とっとと終わらせればいい。力ですべてを圧倒して、思い通りの道に戻せばいい。
こんなゲーム、速攻でクリアして、世界最強を決める勝負に軌道修正すればいいんだ。
それに気づいたオレは、自身の操る機体を前進、今まで以上のスピードで敵機を撃墜していく。
「そういえばさ~」
となりでコントローラーを動かすヒモルが、突然、話かけてきた。
せっかくの追い上げムードに水をさされたようでイラッとする。
「なんだよ?」
「オレオは何で、世界最強になりたいの?」
「!!」
突然の衝撃だった。
その質問はオレにとって想定外のものであり、先程、一つにまとまりかけていた心の内をいとも簡単に粉砕した。
思考と同時に体も動きを止め、ゲームのコントローラーが手の内から滑り落る。
舵を失ったコークーキが、鉄機の集中攻撃を浴びて空中分解し、黒煙へと変わる。ゲームオーバーというやつだ。
しかし、そんな事を気にする余裕もなく、オレは呆然としながらヒモルへと首を向け、こう告げた。
「か、考えたことなかった……」
『へ?』
男女二人がそう驚くと同時に、ボンという爆発音がテレビからとどろく。
ヒモルの操るコークーキが、空の藻屑へと消えた音だ。
画面には「ゲームオーバー」の文字が点滅するものの、それを見るものは一人としてこの場にいない。
『……』
まるで、珍種の生物に遭遇したかのように、オレを見つめるこの家の住人達。
恥ずかしい、なんだかよく分からんが、非常に恥ずかしい。
そんな思いを掻き消すように、オレは立ち上がって大声を上げる。
「そ、そんな事は世界最強になった後に決めればいいんだよ! ほら、ゲームはもう終わりでいいだろ、とっととオレと勝負しろい!」
二人に向かって、ビシッとポーズを決めるものの、なんの反応も返ってこない。
「頼むから何かリアクションしてくれ~!」
そんな悲痛な叫びを救い上げるように、センカさんがヒモルに視線を向け、口を開いてくれ……くださる。
「……し、勝負してあげたら?」
「え~、なんの理由もないのに戦えとか、だるいよ、眠いよ、働きたくないよ~」
床に寝そべり、イモムシみたいに身体をくねらせ、駄々をこねる世界最強。
「う~ん」
センカさんは、自身のこめかみに人差し指を突きつけ、真面目に考え始める。
……そして一分ほどたった頃だろうか。
彼女はポンと手を叩き、笑顔を見せると、「じゃあさ」と前置きを入れた上でこう答えた。
「一歩も動かないで戦えばいいんじゃない?」
序文は「生徒会の一存 八巻」を参考にしてます。
何が起こっているか分からない状態を記述した後、状況説明。
いざやってみると……カァアアア、難しい!!




