第四章 『ヒモル・スグタカール』
⒋ 『ヒモル・スグタカール』
「新聞は『売国新聞』以外とりませんよ~」
現れた男は、開口一番、朗らかな声でそう言った。
「……」
目が点になる、という現象をオレは生まれて初めて経験したかもしれない。
そう思えるほどに、目の前の男の姿……世界最強の猛者の容姿は、爆発的に意外なものだった。
身長はオレより二十センチ以上高いものの、猫背のせいか全く威厳は感じられない。なんの変哲もない黒髪は、所々に寝癖を作り、印象をマイナスにするのに一役買っている。さらに目だが……細い、とにかく細い! 眼光が鋭いという意味での細さなら、まだ格好もつくのだが、この男の場合、垂れていて締まりがないという意味での細さなので、もはや褒めるところがない。
そう、つまりこの男、目の前にいる世界最強の男を印象づける一語を選ぶとしたら
『究極的にショぼい』 だ。
自身の想像からあまりにかけ離れた世界一の姿に疑問を感じ、オレは彼を指差しながらセンカさんに視線をおくる。
「さ、最強?」
「うん、最強!」
「サ・イ・キョ~?」
グッと親指を立て、肯定の意思を示すセンカさん。
「……ウソだろ、おい」
「ウソじゃないよ。彼の名前は、ヒモル君。本名は『ヒモル・スグタカール』。君が探していた世界最強の男だよ!」
「どうも~」
頭の後ろに手を回して、ペコペコとおじぎする世界最強。
「ッ――」
オレは、言葉にならない落胆を覚え、頭を抱えながらその場にしゃがみこむ。
そんなオレの反応に、いまいちピンときていないのか、ヒモルはセンカさんに「彼は何、どうしたの?」 と尋ねかけているが、そんなことはどうでもいい。問題は……。
「(オレ……、こいつと戦う意味あるのか?)」
仮にオレが戦って、この男に勝ったとしよう。しかし、それでオレが世界最強だと誰が信じるだろうか……。むしろ弱い者イジメのレッテルを貼られて、笑いものにされるというのが現実的だ。まさか、誰も手を出す事がないから世界最強ってオチじゃないだろうな? ってか情報屋、金貨三枚返せ~!
様々な考えが頭をよぎり、ウンウンとうなり続けていると、ヒモルの奴が後ろから、スッとオレの肩に手を置き、話しかけてきた。
「センちゃんから話は聞いたよ。なんかボクと戦うために、ここまで来たんだって?」
「……」
「でも、ボクの姿を見るなり怖くなっちゃって、戦うかどうか悩んでる最中ってところかな?」
は?
頭の中で、《ピキッ》という音がしっかり聞こえた。
「けど安心してよ。ボクは鬼でも悪魔でもないからさ、戦えないことを恥だとは思わないし、追いかけ回したりもしない。な~に、大丈夫さ。君はまだ小さい子供だなんだし、挑戦するチャンスはいくらでもある」
《ピキピキピキ》
ほ~う、小さい子供ですか、パンパースですか、なめているんですか?
「とりあえず、今日は泊まっていくといい。センちゃんのご飯は美味しいよ~。フカフカのベッドもあるよ~。それから、大戦ゲ――」
バチッという音が空にとどろき、ヒモルの言葉はその終わりを見ることなく宙に消える。
音の正体は、オレが、肩に置かれたヒモルの手をはじき飛ばしたものだ。
もう黙ってはいられない。
「オレは、最強になるためにここに来たんだ。お前にビビってるって? 誰だよ、そいつは! ガキだからって舐めてねーで、とっとと勝負しろい!」
ビッと勢いよく、突き刺すように人差し指をヒモルへと向ける。
それに対し、世界最強の男は、フッと軽くほほえむと
「いいよ~」
と、なんとも間抜けな声で返答し、
「ただし、一つ条件がある」
そう言って、人差し指を天に向けた。
セリフの掛け合い増やしまくりました。《ピキッ》の擬音で読者の皆様に通じると、私は信じている!




