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世界最強観察記  作者: みるの
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第十一章 『力の種類』

 ⒒ 『力の種類』

 

 それは、見るものすべてを魅了し、言葉を失わせる圧倒的な光景だった。

『我を見よ』。そう言わんとする勢いで、初めに目に飛び込んできたのは、海の地平線に身を溶かしていく半円の太陽。その姿はちょうど、目線の高さで広がり、半身でありながら尚有り余る巨体から、熱く力強い黄金色の輝きを放っている。

 そんなエネルギーの塊を一身に受け入れる海は、金色の輝きをキラキラと反射させ、夕日の輝きをより高貴な存在へと押し上げている。

 世界の宝すべてを集めても決して届かないであろうその輝きは、オレの全身までも強大な眩しさで包み込み、無限の活力を流し込んでくれているように思えた。

 太陽を中心として、オレを吹き抜けていく風は、黄金色に染まる草原を優しく揺らす。それと同時にサラサラと流れていく音は、オレの中に芽生えた不安の闇をすべて溶かし、次第に心を落ち着かせていく。

『太陽の力強さ』と『風のやさしさ』、その二つが見事に重なり合い、神にも等しいとさえ思えるその光景に、オレは、目を、身体を、そして心を奪われていた。

 それを見透かしたかのようなタイミングで、ヒモルが口を開く。

 

「これも『力』なんだよ」

 

「へ?」

 いきなりの事で、その言葉の意味がよく分からず、オレは隣りに座る男に視線を向ける。

 ヒモルは、そのまま言葉を続ける。

「今、君は、この光景を見てガラリと気持ちが変わっただろう? 人の心を一瞬で大きく動かす。君風に言えば、“うるさいモノ”を“黙るモノ”に変化させる。それはつまり『力』なんじゃないかな?」

「それは……そうかもしれないけど……だから何なんだよ?」


「“暴力”以外の力もあるって事だよ」

 

「!!」

 それは、オレの中にはなかった新しい価値観。その圧倒的衝撃に出会ったオレの反応に構うことなく、ヒモルの話は続く。

「他には……そうだな。ボクは世界最強だけど、そのボクを『Aさん』という人がお金で雇ったら、ボクは使用人という立場だ。だとしたら、雇い主であるAさんが、世界最強という事にならないかい?」

「な? でもそれは一時的なことだろ! そんなの強さじゃ……」

「じゃあ、『B』という人が僕に向かって、Aさんは嘘つきで、働いてもお金はもらえないという情報を教えてくれて、ボクが世界最強のAさんを殺したとしたらどうだろう? 『情報』で、ボクの行動を操った『B』が、世界最強といえるんじゃないかな」

「……」

 何も言い返せない。力で、暴力ですべてを屈服させるのが世界最強というオレの価値観すべてが崩れていく。

「……じ、じゃあ、オレはどうすればいいんだよ? 今までやってきた事が絶対の正解じゃないとしたら、オレはこれから一体……」

 真っ白になりつつある頭で、ほぼ自動的につぶやくオレに対し、ヒモルは、

「だから、世界をしっかり見ればいい」

 と、優しく告げた。

「世界を……しっかり……」

「そう。この世界には色んな力が溢れてる。君の言う『暴力』、さっき言った『お金』や『情報』」

 そして、と前置きを入れ

 

「普段、力とは関係ないものが、とんでもない爆発力を生み出すことだってある」


 と、よりハッキリした声で言葉を続けた。

「? 力とは関係ないものが力を生み出す?」

「じきにわかるよ。今はとにかく世界に目を向けてごらん。まっすぐだけじゃ、一方向だけじゃ、見える角度が小さすぎる。だから色々試すといい」

「……試す?」

「そう。そうやって世界を知って、自分を知って、それから」

 ヒモルはそこで言葉を区切ると、オレに向けて人差し指をビッと向け

「君に()()()の『世界最強』を決めるといい」

 そう得意げに言い放った。

 なんて奴だ。ヒモルの言葉に対しオレが受けた印象は、戸惑いだった。

 ただひたすら、前へ前へと走ってきたオレに対して、ぐねぐね曲がって回り道いっぱいして、それから決めろとか、価値観ブレイカーにも程がある。

 時間だって、いくらかかるか分かったもんじゃない。

 はっきり言って、このアドバイスに納得はできない。

 でも……。

 不思議と可能性に満ち溢れていて。

 ワクワクさせるものであって。

 だからオレは、大切な約束を確認するかのように、真剣な表情でヒモルに問う。

「それができれば、オレはアンタに勝てるのか?」

 それを聞いた世界最強の男は、全身をオレに向き直り、答えを告げる。

「少なくとも、パンツ一枚に負けることはなくなるよ」

「!」

 まさかの珍回答にオレはバッと立ち上がり、恥ずかしさを紛らわすように叫ぶ。

「そ、それはお前が勝手にやったからだろ! せっかく人が真面目に聞いてるのに。大体これ、一体誰のパ、パパ、パン……」


「ひ~も~く~~ん!!」


『!?』

 オレ達の会話を遮る、ほぼ悲鳴に近い大声をあげながら、こちらに向かってくる人影が見える。

「セ、センカさん?」

 そう。声の主は、家の中で夕食の準備をしているはずのセンカさんだった。なぜかその顔は熱を帯び、今にも泣き出しそうな表情に見える。

 彼女は全速力でオレ達へ近づき、地面を蹴ると、一直線にヒモルへとダイブする。

 そうして世界最強の男を押し倒すと、両手をグーに握り締め、彼の顔面をポカポカと殴り始めた。

「バカ、バカ、バカ、バカ~! また人の下着を能力で剥ぎ取って! びっくりして料理が、ポンドコピョインって灰になっちゃったんだよ! 掃除大変だったんだよ! さあ、早く返しなさい! 履いてないとスースーして落ち着か……」

 そこまで言って言葉に詰まるセンカさん。その理由は、ヒモルの指が弱々しくもオレを指し示してるからであり、そのオレの手には――センカさんの探さんとする――ソレが握られてるからであり……。

「――――」

 センカさんは目を見開きオレを凝視すると、今にも爆発しそうなくらい顔を赤くする。

「いや、オレは、これは、その違くて――いきなりカブらされただけでって……いやいや、それは事故で!決してわざとじゃ……」

 なんとか状況を説明しようと、脂汗に身を包みながら必死に言葉を並べ立てるオレだったが、全く思うように口がコントロールできない。

 そうしてる間にセンカさんはズンズンと早歩きでオレに近づき、問答無用の高速手さばきで、オレの手から目標物を奪い取った。

「……」

「……」

 オレ達の間に沈黙が走る。センカさんの顔は地面に向けられてるため表情は見えない。

 オレの方も、かける言葉が見つからず、ただボーゼンとセンカさんを見つめることしかできない。

 そんなオレに対し、センカさんは――目の前をガードするように、手に戻った下着を広げ、ただ一言、口にする。


「見ないで……恥じゅかしいから」


風景描写は、私が『内浦』に行き、海を見た時の心情が元になってます。

本当、落ち着くんだ、観光案内所前の海の風景。

内浦に、お絵かき用のアトリエほしい!

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