第十章 『復活』
⒑ 『復活』
「プハァ!」
目を開き、体を起こし、そして、顔面に張り付いている『異物』を右手で取り払う。
「し、死ぬかと思った……。ってか、生き返った?」
オレは、息を整え、手足を動かすことにより、自分の身体がまだこの世に存在していることを確認した。その運動で、手足についた草や葉がパラパラと下方に落ちる。
どうやらオレは、決闘した草原の上で気絶していたらしい。
「やあ、おはよ~」
「!?」
突然声をかけられたことに驚き、となりを見てみると、そこには先程まで敵として戦っていたヒモルが、憎たらしいほど変わらない様子で座っていた。
「あのまま渾身の一撃を放ってたら君、間違いなく死んじゃってたからさ、ちょっと手近にあったもので息を塞がせてもらったよ~」
「は、はぁ? ちょっと待て! 息を塞いだって……アンカーで超強い攻撃したとかじゃ……」
「アンカーは使ったけど、攻撃系ではないね。ただ、物体を移動させただけ~」
「ち、ちくしょー………」
さっきまで、アンカーを使わせて万々歳だとか思ってたオレが馬鹿みたいじゃねーか! 物を移動させただけって……攻撃ですらない。いっそ、大爆発起こすレベルの攻撃で負けた方が、百倍マシな現実だ!
「まあ、君が悔しがる理由もわかるけどさ、アンカーに殺されなくてよかったじゃん」
「? アンカーに殺される?」
全くピンときてないオレに対し、ヒモルがしてくれた説明はこうだ。
アンカーの使用には『身体エネルギー』の他に、安定した『酸素』供給が必要らしい。つまり、ちゃんと息が整った状態で使用しなければ威力や効果は下がっていき、最悪、発動しなくなるとの事。
戦闘中のオレは、技の撃ち過ぎと動揺で、息は極限まで上がっていた。技の威力は弱くなり、中には固定できていないモノもあったらしい。
そんな状態で、アンカーを使用し続けたらどうなるか?
答えは『アンカーが“命”を使い始める』だそうだ。
オレの生命に危機を覚えたヒモルは、とっさに自身の能力を発動し、オレを救ったという事だった。
「……あ、ありがとうございます……」
倒すべき敵に助けられたという屈辱と恥ずかしさを噛み締め、オレは、感謝の言葉を小声でつぶやく。
「わぁ。意外と礼儀正しい」
ヒモルの返答に恥ずかしさが倍増し、たまらずオレは立ち上がる。
「う、うるせー、助けてもらったんだから礼を言うのは当たり前だろ! けど、これで終わりってわけじゃねーからな、また後日リベンジだからな! 大体、助けるならもっとやり方があるだろう。こんなキタネー布かぶせやが……」
そう言って自身の顔面にかぶさっていた異物、『布きれ』をヒモルの前につきだしたところで、オレの顔は、先程までとは違う恥ずかしさで赤く茹で上がる。
なぜなら、その布の正体は……
「お、女の子のパ、パパパパン……」
それは、女性物のピンクの下着だった。真ん中に太陽のマークが刺繍され、その両左右には、四葉のクローバーが数個並んでいる。
オ、オレはなんてものを手に持って……いや、それ以前に顔にかぶって、これじゃあまるで変態……ハッ、写真とか撮られてないよな、ないよな?
普段では考えられない速度で思考がグルグル回り、羞恥と恐怖の感情に耐え切れなくなったオレは、再び草原の上に倒れ込んだ。
「くそ……また負けた……」
自然と口からこぼれ出たオレの本音。それを聞いたヒモルは表情を変えず、しかし、真剣な口調でこう言った。
「女の子のパンツをかぶれた幸せ者が、負けなワケないだろ!」
またワケのわからんアホな事を……。そんなアホな男に二度も敗北感を味合わされたという屈辱に歯噛みし、オレはヒモルから目をそらす。
「うるせー、オレが負けって思ったら負けなんだよ」
「ははは、君は本当にまっすぐだね~」
「んだよ、悪いかよ?」
「うん、悪い」
「は?」
会話の応酬の中で突然現れた『完全否定』の言葉。意味が分からない。目標にまっすぐ突き進んできたオレのやり方の何が悪いのだ?
オレは睨みつける形で、ヒモルに抗議の視線をむける。
そんなオレの怒気に構うことなく、ヒモルは言葉を続けてくる。
「真正面から同じ技を繰り返すだけの単調な攻撃手段。おまけにペース配分を知らず、自分の限界に気づかない」
「ぐっ……」
「まっすぐ前しか見てないが故に、自分自身を見つめることができない。だから君は、世界最強になった後、その力を何に使うのか答えることができなかった」
テレビゲームをした時の記憶が呼び起こされる。
ヒモルから「なんで世界最強になりたいの?」と聞かれた時、オレの中にあった答えは『空っぽ』だった。
自分がどれだけ考えなしで行動してきたか、自分自身の事すら理解せず、何も見てこなかったかを思い知らされる。
もうやだ、聞きたくない。恥ずかしくて死にそうだ。
ヒモルから放たれる『事実』という言葉の刃。その斬撃から身を守るために、オレは必死に身体を丸める。
そして、心を守るために
「そんな事言ったって、わかんねーよ。だって最強が……『圧倒的な力』が、この世のすべてだろ? 今までそうだったんだ。相手よりも強い暴力で……アンカーで叩きのめせば、みんな黙る。否定する奴もいなくなる。なのに、それが間違えてるなんて言われたら、オレは、どうすりゃいいんだよ……?」
と、震える声で反論した。
「ふ~む、それじゃあ」
突然、後ろから頭をつかまれ、原っぱから引っ張り起こされる。
「ちょっ……お前、何を」
予測不能の出来事に戸惑い手足をジタバタさせるオレに、ヒモルは、
「いいからいいから」
と前置きを入れ
「まずはしっかり、世界を見よう」
そう言って、クイッと、オレの顔を光指す方角へ差し向けた。
「!!」
リアルに、自分の心情さらけ出してます。自分の見てる現実風景、例えば「緑色の葉を持つ木」が、他のみんなには「赤色の葉を持つ木」に見えてるんじゃないか、とか考えたりしてます。
それを知り合いに話すと、決まって言われるのが……「病院いってこーい!!」




