第一章【夢物語】第一話【目覚めと眠り】
ぼんやりとしか見えないが確かに僕はここにいる
僕はこの時間が好きだ
いつも僕の思い通りのストーリーが作られる
この時間だけ、僕は神様になれる
神様だからなんだって出来る
大金持ちにもなれるし、ヒーローにもなれる
王様にも、大統領にも、勇者にだってなれる
現実とは隔離された有意義で愉悦すら覚える
しかし、その時間にはいつも限りがあった
朝という、僕が嫌いな時間。。。
神様にだってなれるはずの僕にすらどうにも出来ない
最低で最悪な時間だ………
だから僕は朝が嫌いだ
《夢》を破壊する朝という名の神様が………
ジリリリリ!ジリリリリ!ジリリリリ!ジリリ(バンッ!!)
……………
朝……か………
今日もいつもの破壊神がけたたましく僕を起こした
かっこよく言ってはいるがただの目覚ましだ
いつもカーテンを閉めていても隙間からこぼれる光ですら僕には悪魔の攻撃である
こんな事を考えてるから僕は中二病とかオタクとか言われるんだろうな
一筋の光が差し込むカーテンを勢い良く開く
本日も快晴です、明るすぎるんで太陽は仕事しないでください
と、心の会話を軽く済ませて部屋から出る
いつも見ている狭い廊下にボロボロの床
歩けばキイ、キイ、と音が鳴る忍び泣かせな床だ
そんな廊下を歩いてすぐ辿り着くのはいつもの食糧庫、名前もつけた。彼の名は《冷蔵庫》
食べ物を冷やして保存してくれる優秀な味方だ
本気を出すと冷凍までしてくれる凄いやつだ
僕はそこからいつも通りコーヒーを取り出す
ブラックコーヒー《カントリーのドス》最強だ
渋い苦味に芳醇なコーヒーの香り
いくつものブラックコーヒーを倒してきた猛者で未だ負けを知らない
コップに注ぎ一気に口に流し込むのが僕なりの攻撃方法だ
*「………うまっ、やっぱり最高」
誰かこいつを打ち破ってみてくれ、わずか130円というコストパフォーマンスの良さも含めてだ
次は食べ物だが………生憎と俺の味方の冷蔵庫さんは食べ物を保存してはくれるが増やしてはくれない
そう、今日は週に一度のアンラッキーday
外に買出しに行かなければならない日だ
基本マイハウスを拠点とし、世の中に認知されずに生きる僕だがこればかりはどうにも出来ない話だった
ネット通販で買い物も出来るが以前頼んだ牛肉で食あたりになってから奴らを信用出来なくなった
こればかりは僕が自らの目で選び抜くしかないと本気で思った
いつもの寝巻きにしてるジャージから早速着替える、おしゃれに定評のある僕は決まったこだわりがある
ラフなスタイルだが清潔感があり、万人に認められているこの姿。クールだな
白のTシャツにウニクロのジーパン、ライキのスニーカー
…………
よし、買い物に行こう………
外のいつもの定位置に待ってる相棒
名前ももちろんある
自動回転式走行二輪車、通称自転車の《チャーリー》だ
僕ほどになると略称で《チャリ》と呼んでも誰も変な疑いの目を持たなくなる
チャリに跨ると相棒はチリンチリンと返事をする、いつものいい声だ
早速近くの24時間運営の食糧倉庫へ向かう
僕の生活を支えるために1年前にオープンしたヘブンイレブンだ
軽快に走るチャリはいつもの曲がり角でキレッキレのドリフトを……する訳では無いが普通に曲がる
こんな時でもまた思い出す
夢という名の神様の時間を………
今日はやけに思い出す
何故だろう…
気づいたら僕はまた神様になっていた
しかし、いつもはベッドで横になってから始まるはずの神様の時間だった
ふと考えた時に少しだけ朝が来た……
いつもとは比べ物にならないくらい不快な朝が……
「君!しっかりしろ!今救急車が来るからな!!」
なにを叫んでるんだこのおじさんは?
「この自転車避けておきますね」
おいおい、お姉さん?それ僕のチャーリーなんすけど?なんか歪んでません?
「出血が止まらない!!救急車はまだか!!」
ん?出血?救急車?そういえばさっきから妙に身体が痛いな?僕もついでに乗せてもらおうかな?
「こんだけ派手にぶつかったんだ…助からないかも……」
一体なんなんだ?まあ、いいや。早く食糧買って帰るんだ………あれ?
身体が動かない?ってかそもそも痛い!なんだこれ!痛い!
少しだけ開けた瞼の先に、僕は一言しか言葉が出なかった
振り絞り、出した言葉は見たままを口にしていた
*「赤だ……………」