表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【女子中学生・友情バトルアクション】ホロウキーパー  作者: 来栖らいか
【第二章 賽の河原とオジゾーくん】
5/9

〔1〕

 夏休みは二週目に入り、夏期講習が始まった。

 四日間は、無事にクリアした。九十分の講習後に行われる十五分テストも、ギリギリ合格点を取ることが出来た。

 あと残りは、明日の午後一時四十五分から始まる満留の英語だけだった。

 今日の国語講習から帰ったアカリは、昼食用に買った菓子パンを囓りながら自室のベッドに寝転び、明日の十五分テストに備えて英語の教科書を開いた。

 日が経つにつれ、神社の光景が現実感を失いつつあった。

 死体も消えてしまった、少女も消えてしまった。きっと自分は、熱さと疲れから意識が朦朧としていたのだ。

 帰りが遅くなりパートから帰宅した母を心配させたが、神社で休んだ時うっかりベンチで寝てしまったと説明しておいた。

 だが、いつも頭の片隅にメイと名乗る少女の姿があった。

 モヤモヤした気分を頭から無理に追い出し、教科書に目を落としたものの頭に入らない。

「あーもう、全部ヤダッ!」

 ベッドで手足をバタつかせていると、携帯電話が鳴った。ユウコからだ。

「あ、ユウコ? ひさしぶりじゃん、どしたの?」

『明日、満留の英語でしょ? 十五分テストが心配だから、一緒に勉強しようよ。どーせアカリは、集中できなくてジタバタしてるんでしょー?』

「さっすがユウコ、大当たり! じゃさ、一時半に〔Dマート〕のフード・コートでどう? オヤツと飲み物調達してさ」

『いいよ、一時半にDマートね~!』

 いそいそと財布の中身を確かめ、アカリはエナメルバックに教科書と筆記用具を詰め込んだ。

 ユウコに見せようと思っていた、中学生用ファッション誌も忘れない。

 近所で一番大型のスーパー〔Dマート〕には、本屋とレンタルビデオショップと一〇〇円ショップが入っていた。

 フードコートはクレープにタコ焼き、タイ焼き、アイスクリームショップなどが充実していて、学生や主婦の溜まり場だ。

 ファーストフード店の出入りに煩い学校も、半ば黙認の場所だった。

 食品売り場でフルーツ系天然水とシリアルバーを買ってから、アカリはフードコートの四人掛けテーブルを占領した。

 すると待つ間もなく、ユウコが大きな袋をぶら下げてやってきた。

「こないだ、お昼奢ってもらったお返し。先にアイス食べよ、アカリはチョコミントだね?」

「やった、さんきゅ!」

 口の中に溶ける冷たいアイスで、アカリは幸せな気分になった。

 満留の忠告など馬鹿馬鹿しいではないか。ユウコは親友で、アカリのことを大切に思っていて、大好きなチョコミントを買ってきてくれた。

 変に意識したらユウコに失礼だ。

 アイスを食べ、ポテトチップを食べ、ジュースを飲み、足りなくなって買い足し、雑誌を見ながら話して笑った。

 楽しい時間はあっという間で、気が付けば窓の外が暗くなっている。

 だが時計を見ると、十六時を少し過ぎたくらいだった。

「夕立が来そうだね」

 ユウコが呟いた。

 西の空に墨を流したような雲が沸き上がり、ものすごい早さで青く澄んだ東の空を浸食していく。

 夏特有の激しい雷雨が来る前触れだ。胸騒ぎがして、アカリは立ち上がった。

「やば、もう帰ろうか……最近の夕立って、普通じゃないから恐いよ。今日は歩きだから、道路が川になったら流されちゃう」

 するとユウコが、意外な反応をした。

「もう少し、ここにいようよ。大雨になれば、帰りが遅くなっても言い訳できるし」

「だけど……」

 今日のユウコは、会話の途中で何度も時計を気にしていた。

 母親に帰宅時間を言い渡されたかと思っていたが、違うのか?

 帰るべきか夕立が治まるのを待つべきか迷っていると、案の定、大粒の雨が窓を叩き始めた。

 数分後には滝のような大雨になり、外の景色がまったく見えない。水の弾幕の向こうで、稲光が光った。

「さっき帰らないで良かったね、今頃川になった道で流されてたかもよ?」

 アカリはユウコの冗談に笑えなかった。

 この雨は、いつ止むのだろう? 

 このままずっと止まないような気がした。

 雨が降り続き、家に帰れなくなり、明日の夏期講習に出られなければ推薦が受けられない。焦燥感があかりを追い立て、いても立ってもいられなかった。

「やっぱ、帰る。だって、明日の夏期講習に出られなくなったら困る」

「なに馬鹿いってんの、雨なんて直ぐ止むよ? いま出たらホント、アブナイってば」

 ユウコになだめられ、アカリはまた椅子に座った。

 楽しい気分は一変してしまった。

 二人は暫く窓の外を眺めていたが雨の勢いは衰えない。

 しかたなく本屋や一〇〇円ショップをぶらついて時間を潰した。

 十八時を過ぎて、ようやく雨が小降りになると、アカリは急いでユウコに別れを告げた。

 自宅に着く頃には、すっかり雨が上がり、雲の切れ間から綺麗な星空が覗いていた。

 涼しい風が、気持ちよく項を撫でる。久しぶりに、よく眠れそうな夜だった。

 だがアカリの胸騒ぎは収まらず、なかなか寝付くことが出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ