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〔1〕


 しゃらん……。


 金属の触れ合う澄んだ音がした。

 桜井アカリは、音がした方向を見た。

 暗さで霞んだ雑木林に、一人の少女が立っている。

 あの子だ、今日学校で変なことを言った女子生徒。

 少女は制服姿で、長い棒を手に踊っているように見えた。

 少女の動きに合わせて、美しい金属音が響く。


 しゃらん、しゃらん、しゃらん……


「こんな時間に、こんな所で踊りの練習? やっぱ変な子……」

 興味本位で近付いたアカリは、少女が踊っているのではなく誰かと戦っていることに気が付いた。

 手にした金属棒で、激しい打突を繰り出す少女。

 ひらりひらりと交わしながら、金属棒の隙を突いて少女に覆い被さる巨体の男。

「あっ!」

 アカリの目の前で、巨人の攻撃を受け損なった少女の身体が跳ね飛ばされた。

 太いブナの木に叩き付けられ、口から何かが飛び出す。

 たくさんの、血!

 ずるずると地面に崩れ落ちた少女の頭を、巨人は片手で軽々と持ち上げ頭上で振り回し始めた。

 壊れた人形のように少女の手足がぶらぶらと弧を描く。首が引きちぎれそうだ。

「このままじゃ、あの子が死んじゃうよ! そうだ、けっ、携帯っ……けっ警察っ……」

 慌ててポーチから携帯を出そうとした時、手からペットボトルが滑り落ちた。

 ぱしゃん!

 ペットボトルは運悪く、剥き出しの岩に当たって不自然な音を立てた。

 巨人の手が止まり、ゆっくりと振り返る。

 初めてアカリは、巨人の顔を見た。

 赤黒い顔から、丸ごと飛び出した眼球。口の端は、先の尖った耳まで吊り上がり牙のような歯が剥き出している。

 そして、黒く縮れた前髪の合間から突き出していたのは……。

 まぎれもない、あれは、ツノだ。牛の角のように、捻れて黒く光る二本のツノ。

「ひっ!」

 悲鳴の代わりに、シャックリのような声が出た。


 恐すぎて息が止まりそうだ、大きな声など出るわけがない。

 膝が震え、自慢の足も役に立たなかった。

 巨人は少女を乱暴に打ち棄て、まさに鬼の形相で突進してくる。

 アカリは直感的に悟った。

 自分も、あの少女と同じように殺されるのだ。


「助けて……誰か……!」




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