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悪役令嬢(男)の部下

イベント発生は何かがおかしい?

作者: 椋星そら

前作にたくさんの評価・ブックマーク・感想、ありがとうございます。続きました。今回は終始真面目な雰囲気です。新キャラとニコラがでしゃばってます。

 

五歳の時、高熱を出して、私は転生していること、ここが前世大好きな乙女ゲームの世界だということに気付いた。自分の姿や名前に見覚えは無かったのでモブだろうという結論に至り、それなら生前大好きだった悪役令嬢、クロディーヌ様にお近づきになろうと、物語の舞台である魔法騎士団への入団を決意する。


そうして勉強や訓練に励んで周りを見ていなかったせいで、この世界が『キャラクターの性別が逆転した乙女ゲーム』の世界で、私が大好きだったクロディーヌ様は美しい青年になっていた、ということに気が付いたのは彼――第三部隊隊長クロード様の部下になったあとだった。事実に気付いたときは卒倒したものの、性別は違ってもやっぱり性格はあのクロディーヌ様のまま。性転換が地雷ではなかった私はなんだかんだ現実を受け入れ、彼女もとい彼の幸せを願うことにしたのだ。そう、具体的には、彼の恋を応援することである。


悪役令嬢キャラとだけあって、この世界では美少女である攻略キャラとの接点も多い。彼女たちも彼に対して良い感情を抱いているようで、上手くいくように見えた。しかし、私の予想に反し隊長は誰とも恋仲にならず、数か月前、ついに主人公が入団してきたのである。



このままでは悪役イベントが起こるかもしれないと焦った私は、主人公が余計なフラグを立てないように叩き折る決心をする。そうして無事、名実共に主人公――ニコラは私の友人となった。最近は平和に毎日を過ごしている。……なんだか目的を見失っている気もするけれど、今のところ彼と遊んだり話したりしている中で、イベントのような出来事があったとは聞かないし、大丈夫なのだろう。多分。






――――ニコラとも仲良くなり完全に安心していた私は、正直気が抜けていた。完全に私の落ち度だ。噂を聞き付けて慌てて人だかりができている現場に駆けつけたときには既に時遅し。



「クロードさんが訓練所で平民に忠告をしている」なんて通りすがりの騎士たちが囁いていた、その現場。隊長とニコラ、いや、隊長がニコラを睨んでいる。何か言い争いしていたのか私には分からないが、ピリピリとした雰囲気は、あれだけ忌避したかった主人公と悪役令嬢の敵対イベントのそれだ。 現に「忠告」なんて、穏やかな話題ではないだろう。ゲームでもクロディーヌ様は主人公への手厳しい発言を「忠告」と称していた。



「隊長、こんな目立つところで新人とどうしたんですか。和やかな雰囲気ではないですが」


私は二人の間に割り込む。このまま隊長に平民いびりのレッテルが貼られるのは勘弁だ。


「ロ……シャルロットさん、大丈夫です。俺が至らないだけですから」


公衆の面前だからか、いつものように砕けた口調ではないニコラ。


「お前は関係無い。下がれ、シャルロット」


隊長の眉間には深く皺が刻まれており、相当ご機嫌斜めなことが伺える。ゲームでのやりとりを見れば、よく考えれば相手のことを考えて発言しているだろうと感じる悪役令嬢の発言も、上っ面ではただ権力を振りかざしているようにしか見えない。隊長がそんな風に見られるのは嫌だ。だから、引き下がりたくない。



「関係あります!ニコラは私の友人です、こんな人の多いところで――」

「シャルロット」


全部を言い切る前に隊長に言葉を遮られる。


「私情を抜きにしても、お前もお前だ、シャルロット。平民と仲良くするのは構わないが周りのことを、」

「ニコラは友人ですから身分は関係ありません。勿論仕事中はそれ相応の態度を取っています」


ゲームみたいに、ニコラのことを平民と呼んだことに、少しだけ胸がちくりとした。引きたくないという意地ばかりで、隊長に言い返してしまう。





むしろ私と隊長の言い争いが始まろうとしたところで、聞きなれた声がこれ以上の発言を制止した。



「ロティ、クロード、落ち着け」


私と隊長の間に割って入ってきたのは、切れ長の瞳に紺色の髪、すらりとしたシルエット、青年でありながら中性的な雰囲気を垣間見せる、第三部隊で一番の騎士。





「……カミーユ」



私の友人にして、このゲームの隠しキャラ、カミーユ・ロランである。




「ったく、誰だと思ったら珍しく痴話喧嘩なんかして。やるなら執務室でにしろ。――ほら、散った散った」


冗談を言いつつ、手をひらひらさせながら野次馬を追い払う。



野次馬が散ったのを確認してから、カミーユは改めて隊長と私の方を向く。


「お前ら二人とも周りを見ろ。ニコラも迷惑だろうが。全く……まあクロードが言うことも分かるが」


どこから見ていたのか分からないが、ちらりとこちらを見て、カミーユはため息をついた。




「俺はこいつ借りてくから、クロードもニコラももう戻れ。はい解散」


二人の言い分を聞くまでもなく、カミーユは私の腕を強引に引っ張った。少し痛いけれど文句は言えない。きっと、このまま裏庭に連行されるのだろう……お説教するために。





現に、歩きながらお小言は始まっている。


「あのなあ、後先考えず行動するな」

「う……面目ないです」

「世話が焼ける」

「お母さんごめんなさい」

「誰がお母さんだ!」


少し頭も冷めてきて、手を引かれながら項垂れる。カミーユが来てくれなかったら、人に御粗末な言い争いを見せていたところだっただろう。本当にいつも面倒を見てもらってばっかりだ。





()はいつだって、私の思っていることを見透かしてしまう。



「どうせ、悪役令嬢とヒロインの敵対イベントがどうのとか思ったんだろ?」

「その通りです……」








それは、私が入団してからすぐの出来事だった。



このゲームには勿論ながら隠しキャラがいる。それは、悪役令嬢クロディーヌの友人で、彼女の隊の一番の騎士『カミーユ・ロラン』。クロディーヌから課せられるあれこれを全て完璧にこなすことによって、興味を持った彼が話しかけてくる。


そう、彼は乙女ゲームの攻略キャラなのだから、間違いなく男だ。




――――そうであるはずなのに、第三部隊の挨拶で壇上に立っている目の前の()は自己紹介をする。


「カミーユ・ロランだ、よろしく」


本来ならば何の違和感もない。攻略キャラが男なのだから、正しい姿だ。



ただこの世界では違う。 キャラの性別が男女逆転したこの世界では、カミーユは女性でないといけないはずだ。 しかし、カミーユは見るからに青年であるし、見た目は前世画面越しに腐るほど見た立ち絵そのまま。ただ、本当に男なのでは、という考えは一切沸いてこなかった。そこまで鈍感ではない。


ここまで来ると、これはおかしいと思うのは簡単だった。





それから、こそこそと隠れて、できる範囲でカミーユのことを観察した。確かに彼はゲームのままの設定で、私が設定上で知るカミーユそのままだ。それが逆に怪しい。 しかし絶対に何かあるはずだと観察を続けるものの、なかなか成果を得ることができなかった。






一週間も経ち心が折れかけた、そんなある日、誰もいない裏庭。植えられた木々の茂みに隠れて、一人ベンチに座り昼食中のカミーユのことを観察していた。 結果的に、それが大当たりだった。





「……それにしても、フラグも立たないしイベントもないし、ヒロインがいないと暇だな」



ぽつりと溢された、誰も気に止めないような独り言。私はそれを聞き逃さなかった。『フラグ』『イベント』『ヒロイン』この世界では馴染みのない組み合わせ。 決定的な言葉を聞いた。



それが意味することは、もしかして……。期待が膨らむ。

私は居ても立ってもいることができず、 隠れていた茂みから身を出してカミーユの前に姿を現した。


「なっ、お前、今どこに――――」

「乙女ゲーム」

「は?」


驚くカミーユをよそに、私は言葉を並べる。


「乙女ゲーム、日本、転生……この意味、分かりますか?」

「……分かるも何も、まさか」


私は静かに頷く。



こうして、私は、生まれて初めて、自分以外の転生者に出会ったのだ。





ちなみに、彼――――いや、彼女はあまり己の多くを語りたがらず、私も深く詮索しなかったが、『男装した女』だということは暫くして判明した。けれど、彼女は常に男を装っているから、今でも本当に女なのか疑問に思うことはある、というのは内緒だ。







そういえば、カミーユに初めて声をかけたのもこの裏庭だったなあと思いつつ、私はカミーユのお説教を大人しく聞いていた。同じ転生者の彼女にとっては、私の行動はお見通しのようだった。ぐうの音も出ない。



「…―――で、お前が出て行くと逆効果だから。俺だってクロードとは昔からの仲だし、あいつの味方するつもりあるし、そういうのは俺がやるから。次からは勝手な行動は慎むように」

「はい、すみませんでした」


大人しく謝罪の言葉を述べると、カミーユは満足したようで、ふう、と一息ついた。……私が出て行くと逆効果というのは腑に落ちないけれど、今ここで反論をするほど私に元気は残っていない。




「まぁクロードも単純に突っかかりすぎだけどな。この後第二部隊と合同で見回りがあるのに、いつまでもお子様な奴だ」


困った奴だと言わんばかりに、肩を竦める。



……そうだった。この後は攻略キャラと主人公が属する第二舞台と、私たち第三部隊で見回りがあるのだった。この世界は剣と魔法のファンタジーなだけあって、城壁の外、所謂魔物が出てくるような場所を見回りするという仕事だってある。いつもは軽い腕試しも兼ねて意気揚々と取り組んでいるけれど、今日は少しだけ憂鬱だ。二人の顔見るのが、正直気まずい。



「大丈夫。ロティはいつも通りにしてろ」


そんな私の心を読んだかのように、カミーユは私の頭をぽんぽんと叩いた。お母さんと揶揄しているのもあながち冗談ではなくて、友人であると同時に、兄――姉のような存在だ。彼女の手は、安心する。


「ありがとう、カミーユ」


少しだけ、気持ちが軽くなった。







見回りの時間になり、私たちは途中まで馬、そこからは徒歩で城壁の外へと向かう。私はいつも通り隊長のすぐ後ろに控えているが、何も話すことはなく、気まずい沈黙が訪れていた。


何か話さなければ、と思うものの、上手く言葉が出てこない。後ろからじっと隊長を見ているだけ。






「クロードさん」


そんな中、隊長の名前を呼んだのは私ではなく、ナタリーだった。ナタリーは自然と隊長に話しかけると、詳細は聞こえないが、楽しそうに隊長と会話を続けている。珍しく笑っている様子は、まるで恋する乙女だ。……実際、懐いている以上の感情はある、と私は思っているけれど。


私のたった二つ下というだけなのに、私よりも随分可愛げがあって……先程の自分の様子を思い出して、思わずため息が零れた。


「はぁ……」

「ため息つくと幸せが逃げるよ?」

「え?……あ、ニコラ」


そんな溜息を拾ったのは二コラで、話しかけられると思ってなかっただけに思わず驚いた。



「……さっきはごめんね、大人げなくて。私、二人の様子もちゃんと分かってなかったのに」


これ幸いと、思い切って先程のことを謝罪する。


「そんな。俺こそごめん。クロードさんと気まずくなっちゃったでしょ、俺のせいで。……俺はああやって庇ってくれたの、嬉しかったけどさ。二回目だね、助けてもらったの」


私が勝手にしただけなのにそんなことを言われて、余計に申し訳ない気持ちになったと同時に、嬉しかったと言われて少し報われた気がした。一回目というのは、恐らく貴族に糾弾されているところを庇った時のことを指しているのだろう。ニコラはそう言った後に、思い出したかのように仕事中に私語をすみませんと言ったけれど、それは私も同じだ。というより、このような移動中は誰だって世間話をしたりするものである。私たちの会話は、世間話のような類ではないけれど。



「いいの。隊長だって、考えなしに怒っているわけじゃないから」


きっと隊長が怒るということは、私にも少なからず非がある、のだとは思う。


「あのさ、」


そんな私を見てニコラが何かを言いかけた時、肌が痺れる感覚に陥る。




「ニコラ、話は後でにしましょう」


私の異変を感じてか、ニコラが戦闘態勢を取る。

その他のメンバーも私たちの様子を見て、臨戦態勢になる。




薄らと冷気を感じる。これは恐らく、氷属性持ちの私しか感じていないだろう。同じ属性の魔物に対しては感知能力が格段に上がるのである。



――――これは、間違いなく、いる。



城壁はすぐそこまで見えている。外か、あるいは、侵入してきているか。魔物自体の姿が見えないので、どこにいるかまではまだ分からない。それを探るために、神経を集中させた。




ゆらり、特別寒さを感じるそこが揺れて、私は魔法で練り出した氷柱を草の茂みに放った。



「これは……狼?随分と小さいな」


シルヴィがそう呟くのも頷ける。茂みから出てきたのは、小さな狼の群れだった。しかし、小さいながらにも口には鋭い牙を持っており、口から冷気を放っている。直感的に、あの冷気は危ないものだと思った。



「下がって。あの冷気はよくない。遠距離で倒す」


ナタリーが杖を降ると、狼たちの足元から蔦が生えてきて、足を絡め取った。

そうして動きを封じている間に、魔法で遠距離から攻撃する。



私が出るまでもなく、隊長やフランソワーズ様を中心に、あっという間に狼たちを倒していく。




この隊二つは特に若いエリートが多い。手を抜くことなく、しっかりと討伐できた。

……私が役立ったのは最初の感知ぐらいだ。





「城壁のすぐ傍とはいえ、危ないですね。警備を強化させた方が良いでしょう」

「確かに、そうだな」

「小さいとはいえ、群れだと危険度は増します」


隊長、副隊長クラスの人たちは先程まで戦闘をしていたことを感じさせない位の余裕を持って、さっそく警備の手薄さについて何やら話し合いをしているようだった。






今回は珍しく見回りらしい仕事になりそうだ。そう思ったのも束の間、先ほどより大きい冷気に全身が震え上がった。冷気の方に目をやると、青い光が二つ、こちらを―――――






「隊長、危ない!!」



その目が隊長を見ていると分かった瞬間、私は何かを考えるよりも先に飛び出していた。









……誰かに頭を撫でられている。とても心地良い。

カミーユかなと思ったけれど、カミーユの手はもっと小さかった気がする。彼女にそれを言うと怒るけれど、いくら普通よりも大きいからといって、やはり彼女の手は女性のそれなのだ。女性の手よりももっと大きくて、ごつごつしている。少しくすぐったくて、夢みたいにふわふわしている。






「ん……」


目を開いたら、天井と目が合った。

見慣れた天井ではない。医務室、だろうか。



「ロティ、目が覚めた?」

「あ、カミーユ……?」


慌てて起き上がると少しだけお腹あたりが痛んだ。

カミーユの方を見ると、困ったような、安心したような笑みを浮かべている。




「治癒をして大丈夫だと分かっていても心配した。ほんと……あの後大変だったんだからな。なにはともあれ、無事目が覚めて良かったよ。心配させないでくれ」



カミーユの話を総括すると、初めに出てきたのは狼のような魔物の子供の群れで、そのあとに狩りから帰ってきて気配を消していた親狼が隊長に襲い掛かろうとして、それを私が庇ってそのまま倒れたらしい。隊長を狙ったのは、一番子供を仕留めた、そのにおいがあったからではないか、とのこと。




「迷惑かけてごめんなさい」


……今日はカミーユに謝ってばかりだ。結局また、後先考えずに飛び出してしまった。



「いいや。ロティが気付いてなかったらクロードの方が怪我を―――むしろ氷属性の攻撃を中和できない分大怪我だったかもしれないからな。自分を盾にしたのは勿論褒められないが。今日は、俺から怒るのはやめとくから。しっかり反省しなさい」

「……はい」


カミーユの言い方に少し引っかかったが、それよりも、自分でも少し凹んでいた。あんなところで倒れて使い物にならないなんて、ただのお荷物でしかない。きっと隊長にだって迷惑かけた。もっと、強くならないと。



「じゃあ俺はクロードんとこにお前の目が覚めたこと言ってくるから。今日は医務室で絶対安静な」

「あっ、隊長は大丈夫なの!?」

「城壁を破壊して始末書を書いてるから元気すぎるぐらいだ。安心しろ」

「城壁を破壊……?」


隊長、何をしたんだろう。一応、城壁ってちょっとやそっとじゃ壊れないはずなんだけど……。




そんな私の疑問をよそに、カミーユは部屋を後にした。

入れ替わりで、コンコンとノックの音がする。「どうぞ」と言うと、ニコラが入ってきた。


「ちょうど目が覚めたんだね。良いタイミングだった」


そう言いながら、ベッドの横の椅子に腰かける。


「本当に心配したんだよ」

「ごめんなさい」


謝ると、ニコラは少し思案するように視線を動かしてから、改めて私の方を見た。




「……あのさ、俺、少し怒ってるよ」


『怒っている』という言葉に驚いた。……どうして、ニコラが怒るの?適切な返事が見つからず、私は考えを巡らす。そうしていると、ニコラは話を続けた。



「今日、見回りでの行き道で話そうとしたことの続きでもあるんだけど、ロティ、もっと自分のことを大事にして。ロティにとってクロードさんが大事なのはよく分かるけど、いつも彼のすること、言うこと、彼のためのことを優先していない?俺なんかが首を突っ込んでいい話じゃないけど、どうしても心配というか……カミーユさんだってそうだと思うし、俺だって、友達のことは大事なんだ。だから、自分に何かがあったら心配する人がいると思って、もう少し自分ためにも行動してほしいよ」

「ニコラ……」

「目が覚めたばかりなのにこんなこと言ってごめん。でも、今日だって、ロティが倒れずに済んだ方法があると思うんだ。俺、本当に心配して……」


正直、こんなことを指摘されたのは初めてだった。けれど、率直に「そうかもしれない」と思ったのも否定できない。ニコラの様子から本気で私のことを心配してきたということが伝わってきて、胸が痛いような、あたたかいような、変な気分になった。


「俺のことももっと頼って。友達、だし。……それとも、俺じゃ頼りない?」

「そんなことない!」


頼ってほしいなんて言われたのはいつぶりだろう。




私は、記憶があるから、ニコラの影にいつも主人公ヒロインを見ていた。無意識に、心のどこかで、女の子の影を見ていたのかもしれない。だから、こんなに心強いことを言われるなんて想像してなくて、彼は男の人なのだと思い知らされた気分になった。



「ニコラ、ありがとう」


色んな感情が混ざり合って今言える言葉はこれだけだったけれど、ニコラは満足そうに笑ってくれた。


「じゃあ、俺はそろそろ失礼するね。ゆっくり休んで、元気になったらまた街に遊びに行こう」

「うん!」


部屋から出て行く前に、一度だけ振り向いて「何かあったら言ってね」と言ってから、扉が閉まった。





まだしばらく安静にしておいた方が良いだろうから、またベッドに横になる。寝る気分にはなれなくて、ぼーっと考えを巡らせた。



確かに、私は二コラの言った通り隊長ばかり優先していたと思う。私はそれで良いと思っていたし、彼の幸せを願っていたのだから、それが目的でもあった。自分のことは二の次で、隊長の側にいることができれば良かった。それは――――何故、そう思ったのだろうか。


今までのことが隊長のためになっていたのか無性に不安になる。




「なんか、分からないな」



ぽつりと、不安な心の声が漏れた。










ニコラが部屋を出てからしばらくして、俺は一口大にカットしたフルーツを持って、医務室へと戻った。ロティはまだ起きていて、俺の顔を見た途端泣きそうな声で、「……私、隊長離れした方がいいのかな」と言い出した。


それを聞いて、俺は安心する。ニコラは、を選んだのだと。


「それは、ロティがしっかり自分で考えないといけないことだ」


心細いだろうけど、こればかりは俺も言ってやれない。こうするのが、クロードにとっても、ロティにとっても、いいことだと思うから。




――――まあ、俺はロティが幸せなら、どっちに転んでもいいけどな?





カミーユ・ロランにとって、この事件イベントも、こうなることも、全て―――主人公が来た時から、想定していたことだった。だから彼女は、目の前の少女の幸せを願う。


 

続きをという嬉しいお言葉に調子に乗って、きりのいいところまで書くことにしました。あと一話+αで一区切りつく予定です。もう少しお付き合い頂ければと思います。隊長は相変わらずアレなので、代わりに活動報告にシャルロットと隊長の小話を上げました。次の話は隊長回になる予定です。

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