08 ほねばっか
ほんっと骨ばっかだよ!
素手の奴はちょろくぶった斬れたが棍棒だの他人の骨だの持ってるだけでも結構やばいぞ!
だいたいあのクソ神父10体っつったのにもう10越えてんじゃねえか!
しかも時々矢や石が暗闇から飛んできて恐ろしいことこの上ない。
動体視力と鎧がなきゃ削られて死んでたよ!
ヒュッ ガキャッ
左手の剣で飛んでくる矢を払う。
まただよ。
次いで身を低くしておきまりの突撃戦だ。
そうしてどんどん骸骨共を駆逐していくと、地下墳墓はどんどん広い空間に近づいていくのが音で分かる。
そして嫌な予感がして、それは的中した。
広間に10体程度の骸骨がひしめいている…これだけなら勝機はある。
だがソイツ等の装備が、体勢が問題だ。
槍隊が戦列組むとか聞いてねえよ!
槍襖は柳生十兵衛でも無理とかそう言うのだろこら!こちとら剣豪じゃねぇんだよ!
盾と槍を持ったスケルトンがぎっしりを身を固め、こちらに向かって進軍してくるのだ!
剣先で槍先を弾きながら、ゆっくりと俺は後退していく。
だってどうやって攻めろっていうんだ。後方に投石兵か弓兵が居たらもう死んでるんだぞ!
こういう時はどうすれば…どうすれば…!!
「奥義!逃げる!!」
俺は繰りだされる槍先を絶叫と共に弾くと、背中に槍が掠めるのも気にせず一目散に逃げ出す。
三十六計逃げるにしかず。どうにもなんねえ時は逃げろ!
しかし全力で走った所で向こうも力一杯走ってくるスケルトンから逃げ切る事は出来ない。
そして後方からガシャガシャと付いてくる戦列にむかって、俺はしばらくの後に振り向いた。
「幕末奥義!早い奴からブッ殺す!!」
そして全力疾走で乱れた戦列に躍り込むと、先頭に居たスケルトンの槍を避けてを切り倒し、次の槍が来る前に全力で逃げる。
広間に比べればずっと狭い通路では即座に戦列を組む余裕はない。
しかも全力で走ればこっちに追いつく奴は限られる!
後の問題は俺のスタミナだな! まじしにそう。
早鐘を打つ心臓を無視して次の骸骨を屠る。
そして最後になった遺骨を盾ごと突き破り、そして全てのスケルトンが骸に戻った。
「つっかれたぁ…」
そして俺はその場に剣を突いていきを整える10体のスケルトンから逃げ続けるのは流石にきつい。
囲まれるのとは違うスタミナの消耗があるのがまた辛いんだよな。
で、俺は現在広間にいる。
あんな戦列がわざわざ守ってるんだ、なんかあるに決まってる。
割合単純なダンジョンだから問題なく戻って来れた結果、そこはさっきは気付きもしなかった薄青い仄明かりに包まれた岩壁の空間だった。
「綺麗なモンだな…」
素直に感想が出る。真ん中には石柱が一本。
見た感じここはこの墳墓の中心、御神体を祀る本殿なのだろう。
きょろきょろと、まだ隠れたスケルトンが居ないかと広間を探索していると、妙な物を見つけた。
石柱の真ん中にサファイヤの様な青い宝石が埋まっているのだ。
大きさはこぶし大、深く埋まっていて取れそうもないが、もしかしたらストーンフォージで…等という邪心がよぎり、俺はつい手を伸ばした。
『よくここまできましたね』
と、次の瞬間脳裏に声がした。
少し苦笑するような女性の声で、全周囲から見守られているような気配がする。
『私はガイア。ここで信仰される大地』
あ、この神殿の神様なのね。やべえやっぱ御神体かっぱらう所だったか。
俺が内心冷や汗を掻いていると、神は遠慮なく話を続けてくる。
『この地はあなたのお陰で清められました。ですが最後に一つ、私の力で封印しているものがいるのです』
あ、つまりボス戦ね?
あんだけヤバイ戦列用意しといてボスまで居るとか鬼畜かよ!
ていうかあの神父の情報いい加減すぎだろ!殺す気しか感じねえ!
『ああ…もう封印が解かれます…あなたの力で倒せれば良いのですが…』
そして天上がビキビキと音を立てて崩れ、巨大な骸骨がドスンと落ちてきた。
慎重3m近くあるだろうか。俺が持てば大剣としか言い様のない剣を片手に、もう片手にはこれまたでっかい盾を持っている。
そして鬼のような形相の骨格から蛇が鳴くような声を出し、俺の方を向いて剣を構えた。
やるしかねぇ!!
死にました。
いや、普通勝てるかっての!重機サイズの敵と一騎打ちして勝つとか無茶すぎだっつの!
ゲームの超人補正のお陰か一発に発は凌げても盾に薙がれたらころがされてジ・エンドだっつーの!
しかし一度死んだくらいでは諦めない。
もう一度挑んでやる!あと神父もぶん殴ってやる!
「いやー、そんなに居るとは思わなかったぜ。勝てると踏んだ女神様が溜まったクソを大放出なさったんだろうな」
最後の会話からしてもそうっぽいしな、悪魔のクソよりゃ億倍いいだろ!と頬を張らしたクソ神父は軽く笑った。
笑いごっちゃねえよ!
携帯砥石で魔剣を磨きながら、ブッ殺してやると呟き続ける俺は周囲を威圧するには十分である。
お祈りをしに来た信徒の人達が引いてるが気にするどころじゃねぇ!
鎧の削れも予備の革でなんとか誤魔化した俺は、次のボス戦に向かう事を神父に告げた。
「頭にクソ詰まってんのか?瞬殺された相手に勝てる算段でも?」
「無い。だが根性だけはある。だから死ぬまで殺す」
言い切ってやった。
流石の神父も俺の顔を見て引いてるようだった。
死にました。
道中にもうスケルトンが居なかったのは良かったんだがなー。
いくらこっちが魔剣だろうと巨大剣と打ち合って両断できるわけもなく。
隙をうかがうにも隙と言うほどの隙もない手練れ。
ほんとどうしろっていうんだよ。
と、言うことでちょっと戦法を変えてみました。
遠距離からチマチマ嫌がらせしよう。
幸いボロだけど弓と矢はあるし、槍も10本以上ある。
こいつらを投げつけてボッコにしてやる!
ということで訓練場。今まであるのに気付かなかったけど、初心者向けに在るんだねこういう施設。
角刈りのオッチャンが威勢良く挨拶してくれるので、俺も挨拶を返す。
「しかし、お前の装備を見るに基礎はもういらんのではないか?」
そんなことを言われましたが、武器の一部転向なのでと言ったらあぁ、と納得してくれました。
で、目標はわら人形(初心者向け低硬度)。
何やってもすぐ復活するらしいです。
とりあえず基本として、初心者の剣で斬りつけてみる。
もうすっかり左手に馴染んだ剣を逆袈裟に振るうと、ざん、と音がしてわら人形が二つに割れた。
「へぇ、剣筋も通ってるし腰も入ってる。左利きなのか?」
などとオッチャンに言われたので、右利きだと答えるとなお感心された。
個人的には今のは剣筋もブレて重くて微妙だったんだけどな。
「二刀流の剣士なんて珍しいな、右手でもやって見せてくれないか」
そう言われたので俺は渋々魔剣を抜く。と、オッチャンの目が光った。
やばいな…もしかすると見破られてるのかもしれん。
しかし言った手前斬らないわけにも行かない、仕方なしに右手をヒュッと一降りする。
…わら人形は微動だにしない…と思った次の瞬間、人形は斜めにずれてぼとりと崩れ落ちた。
「ぉぉ…」
オッチャンも禄に言葉が出ない様子だった。
ヤバイ、この剣は人前で使わない方が良いな。
ついでその剣はなんだ?と聞かれたので、話せませんの一点張りで通した。
剣筋は…やっぱり乱暴でどこか納得いかないものだった。
で、弓矢と槍だよ。
剣も納得いかないのが分かったけど、まずこいつらだ。
ヤスリで適当に刃先を付け直した槍を構えると、オッチャンがどうするんだと聞いてくる。
「投げる」
そう答えると、じゃあ長すぎるだろう、と言われた。言われてみれば槍襖に使うようなそこそこの長さの槍である。
幾らゲーム的膂力があってもバランスが悪いかもしれない。
しかしまぁ何事もやってみるモンである。
結果?空中で縦回転したり散々だったよ!
やっぱり長すぎるようだ。今度柄を切り落としておこう。石突もろくにないボロ槍だし気にするモンじゃないしな。
ついで弓だ。短弓に属するそう大きくない弓だが、ボロ弓でも引けばパァンと弓鳴りが響く。
膠で兎革を巻いてメンテしたし多分大丈夫だろう。
そこに矢をつがえて耳まで引き、ボロ人形めがけて打つと、パァンという音と共に…メッチャはずれた。
「弾き方が成ってないな。もっと射形を安定させなきゃダメだ。崩すのはまずそれが出来てからだぞ」
弓矢って予想外に難しいらしい。今度はオッチャンが嬉々として教えに来てくれて、俺はレクチャーを受けながら何度も何度もわら人形に向かって無駄弾を撃った。
で、しばらくして…
「当たった!」
やっとこさ命中弾が出た。わら人形の端に刺さっただけだけど。
「うむ、弓の才能は余り無いみたいだが鍛えていけば物になるぞ!」
とかオッチャンは言ってるが今日一日やってみてわかった。
促成でアイツに対抗するツールとして弓はダメだ。
もっともっと練習しないと使い物に成らないんじゃ話にならない。
俺は練習場を辞して街に向かった。