07 ためしてかっせん
ぶはははは硬ってえなこの鎧!
ストーンクラブの群れの鋏薙ぎがギャンギャン音を立てて弾かれるのな!
丸みを付けた皮の小札だから耐衝撃性も抜群!弾かれたくらいじゃバランスも崩さねぇ!
背中の毛皮も相手を弾くのに丁度良いから敵を吹っ飛ばす攻撃まで出来るようになった!
ドスッ
とかやってたらストーンクラブの一匹に矢が突き刺さる。
次いでドスドスと目の前の蟹たちに矢が突き刺さっていった。周りの蟹をはじき飛ばしてから振り向くと、高台に人影がいる。
「俺の獲物を捕るな!」
というと、向こうの人影はため息をついたようだった。
で、蟹を粉砕し終わったあと、高台に昇る…そこに居たのはエリナだった。
「あなたね、正気?あんな数のストーンクラブを相手に戦い続けるとか人間業じゃないわよ?」
大丈夫、俺にはこの剣と鎧がある!
自信満々に答えると、彼女はまたはぁ、とため息をついた。
「その鎧、蝙蝠の翼膜で出来てるみたいだけど…どうやって作ったの?」
俺が練革の事を言うと、エリナはまたため息をつく。
「東の草原の異臭騒ぎもあなただったのね…何処に行ってもあなたの噂には事欠かないわよ?」
だいたい、背中の皮は南のボスMOBの物だし、北でもボスを死に戻りまくって単独撃破したし、北では昼夜を問わずに延々戦い続け、東では異臭騒ぎを起こしている。
掲示板では「謎の超人S」として名前が挙がるほどらしい。
そんなに超人じみたことをしているだろうか…ああでも俺の体を考えれば超人か。
「とにかく、そんな無茶してないでPTでも組んで、普通に戦いなさい。幾らこのゲームは自由がウリだからって自由過ぎよ」
と、言うことでエリナがPTを組んでくれる事になった。
曰く、あまりに無茶すぎて心配というより恐くなってくるから、だそうだ。
俺は普通に遊んでるだけなのに。
とりあえず俺が二刀流で前衛、エリナが弓で後衛のツーマンセルで蟹を少量づつ相手にする。
真ん中に突っ込もうぜ!と言ったら絶対いやと言われたので仕方ない。
で結局俺は半ばど真ん中にいるわけで。
絶叫しながら蟹を弾き、時に切り捨ててただ後方にだけ廻らせないようにする。
結構面倒なことだが意外と行ける。なにせ後ろに居るエリナが自分に廻ってくる蟹は矢と魔法で撃ち殺しているからだ。
時々突風みたいな物が横を掠めるのは風の魔法かなにかだろう。ほらやっぱ結構真ん中でもいけるじゃん。
「早く高台に逃げさせてぇー!!」
そんな叫びは知らない。
まだまだ矢もあるし精神力も無事そうじゃないか。切れたらふらついてくるもん。
ということで俺たちは蟹を屠り続けるのであった。
「っもう二度とあなたと狩りはしないっ!」
で、結果がこれである。
矢も精神力も残ってる内に止めたのに…身体能力に強化無いのかな?
とりあえずお詫びにドロップ品を結構な量プレゼントしてその日は別れたのだった。
で、流石に今日は狩りを続ける気も薄れたので、アインブルクの街を散策していた。
すると結構大きめの教会?いや神殿があったのだが…
『ゲリ腹抱えて便所を探す時より敬虔になれる者だけがこの神殿に入っても良い』
入れる奴いねぇんじゃねえかなこれ。
「よう兄ちゃん、ゲリ腹抱えて便所でも借りに来たか?」
とか言ってたらチャラい神父風の兄ちゃんに声を掛けられた。かなーり軽く。
「それとも便所で紙が切れたくらいには敬虔だとでも言いてーか?残念ながらそのレベルじゃダメだ」
「それ厳しすぎるだろ、信者いんの?」
「ハハッ、全部冗談だよ。クソつまんねえ神殿よりクソみてえな看板がある方がクソ面白れぇだろ?」
この人クソって何回言う気だろう。
そんなクソ兄ちゃんがまぁ中に入れよとか言うので付いてはいると、中は思った以上にクソまともな神殿だった。
「此処は大地の神ガイアの神殿だ。まあクソも大地の内だから神も許してくれるだろってボケて見てんのさ」
これもある意味信仰心なのだろうか?このクソ兄ちゃんは滔々と軽いお説教をクソを交えながらしてくれた。
「つまり大地は巨大なクソってわけだ。巡り巡ってクソが土になるわけだからな!」
クソ理論過ぎる。
「ところでお前冒険者…てか戦士だろ?」
と、急に話が変わって兄ちゃんは俺の装備を見、そんな事を言った。
俺が肯首すると、腕に覚えはあるのかと聞かれたのでスチールクラブは倒したと答える。
「へぇ、そりゃ腕に覚えがある方だな。じゃあ任せられそうだ」
なにを?と言いたい所だがそもそもスチールクラブは死に戻り戦法で根性で倒したんだけどね。
すると兄ちゃんは少し歩いて重厚なドアの前で口を開く。
「ここは地下霊廟になっててな。普通は静かな墓地なんだが…」
ふむ、と俺が言うと神父の顔をした彼が続ける。
「今はスケルトンの巣窟になっている。今は俺が結界で押しとどめているが、戦士の死体達が何らかの理由で目覚めたらしいんだ」
お前にはそれを倒して欲しい、と神父は俺の目を見て言う。
「何せ醜聞だからな。多くの奴には話せない。それに数も10体も居ないからな。スチールクラブを倒せるほどの猛者なら多分どうって事はない」
スケルトンも砕けば滅ぶんだ、と付け加えた神父に、俺はオッケェ!と元気よく答えた。
スケルトン狩り、楽しそうじゃないか!
ぎぃ、とほこりっぽい扉が開く。
神父の掛けてくれた光の魔法と自力で目の前は明るいが、それでもなお暗闇の中には何が潜んでいるのか分からない。
慎重に階段を下りていくと、周囲には壁に掘られた穴にいくつものひからびた遺体が眠っていた。
入る前に研ぎ直した魔剣が光を浴びて揺らめくと、照らされた遺体達は今にも動きそうに不気味だ。
ヒュッ
次の瞬間である。
偶々前に魔剣を構えていたから助かったが、闇から飛び出した矢が剣をこすり、頬を掠めた。
これ剣がなかったら即死だったぞ!
俺はすかさず姿勢を低くして矢の来た方向に駆け寄る。
するとボロボロの弓に新しく矢をつがえようとする骸骨と、剣と盾を手にした骸骨がいた。
「んなろ結構ヤベエじゃねえか!」
絶叫一発、初心者の剣で盾に斬りかかる。
すると両断できない剣はボロ盾に突きささり、スケルトンは姿勢を崩した。
俺が狙うのはその隙であり、剣を振るい損ねた骸骨の脇を抜けて魔剣を振るう。
次の瞬間ずるり、と骸骨が弓ごと両断された。
そして姿勢を立て直した剣の骸骨に向き直ると俺は両手で剣を握りじりじりと距離を詰める。
向こうの盾には初心者の剣が刺さっているだけにバランスが悪い。
狙うのはその動きの悪さ…そしてこちらは両手で握っている膂力だ。
と、次の瞬間、両者が飛び出した。
盾を押しつけて来るスケルトンに対し、肩を使って盾を押し込む。
そして盾の上から突きを繰りだしてきたスケルトンに対し、おれは身を低くかがめた。
そして……高く跳ね上がった。
逆袈裟の渾身の一撃。
盾すらも両断して、スケルトンは真っ二つに崩れ落ちた。
「ふぇーヤバイヤバイ。勘が追いついてなきゃ死んでたぜ」
武器を持ち、武術を駆使する相手と戦うのは思えば初めてである。
こんなにも面倒とは思わなかった。
これからこんな奴らを倒すのか…と思うと少し気が重く…なるより楽しくなった。
初心者の剣を回収してドロップアイテムを確認すると、二つのアイテムが入っていた。
『木の弓矢:木製の弓矢で矢尻は鉄だが劣化気味。使えないことはない』
『鋼の剣:錆び気味だが充分戦闘に耐える。鋼の剣を手に入れてからが本番』
おい最後の一言なんだよ。
そして俺は地下墳墓の奥へと進んでいくのであった。