05 やたらきれた
ぱぁん、と剣の腹で鋏が跳ね上がると、ロッククラブは半ば浮き上がる形で隙を見せる。
そこにすかさず腹に突きを入れねじり斬ると、ロッククラブは動かなくなり光の粒子になっていった。
やっべえ、こっちの慣れもあるけどめっちゃくちゃ切れる。
もう山岳で敵居ないんじゃね?ってくらい急所に当てるとモンスターは一撃で死亡していく。
空中からロックホークという硬質そうな鳥も襲ってくるけど、身をかわしながら合わせて剣を置いていくと自分から真っ二つになる。
一体どうなってんだ。
あとさっき気付いたけど変な称号までついてる。
『不屈の魔導士:自己の精神力の限界を超えて魔法を駆使し続けた魔導士に与えられる称号。消耗による反動への耐久が上昇』
これまたストーンフォージの使いまくりの影響だろう。
俺は一体何をやってるんだと今更冷静になりかけたが、これはゲームだ、冷える必要もない。
次の冒険が俺を呼んでいる……ハズだ!
で、蟹をボッコしているわけです。ついでに鷹も。
先立つものって必要だよね…剣以外は初心者装備だし!
結局界隈で強めのモンスターなら実入りは良いだろうし、カウンター一撃で倒せるからね!
しかもこんなものもドロップしてる。
『鉄鉱石:酸化鉄を多く含む鉱石』
『岩蟹の甲殻:岩蟹の甲の中でももっとも硬い背中の部位。防具などの材料になる』
『岩鷲の羽根:羽根としては丈夫で重めだがちゃんと空を切る能力を持った立派な羽根』
てなもんよ。
これらのドロップアイテムでまた何か作るもよし、売っぱらって金にするもよしだ!
で、ふと思いついた。
防具とか皮素材で作るなら自分で作ればよくねぇ?
じゃあこういう金属素材に類するものはまだ早いわけで…
よーし!別の場所にレッツゴーだ!
…あれ?なんか忘れてるような…まあいいか!
そしておれはまず西の荒野に足を運んだ。
一番キツイ所で平気なら次に緩い所位平気だよな!
……と思ったのが運の尽きでした。
『ストーンクラブ:戦闘中』×たくさん
50cm程の石で出来た蟹は明らかにロッククラブの下位種…なのは良いんだけれど、とにかく数が多い!
俺の周りにぎっちり何十匹もいやがる!
だれだこんなになるまでほっといた奴は!プレイヤーか!此処が怖いとか言って来なかったプレイヤーか!
「ウォアアアアア!!」
もうしょうがないから脚に集って鋏で挟もうとしてくる奴らを片っ端から突き刺していく。
終いには手数が足りないから左手に初心者の剣も持って二刀流だ。
右に蟹が来れば右の蟹を割り、左に蟹が来れば剣の腹で転がし、蟹の群れは際限なく俺に集っていく。
ええい負けるか!スチールクラブに比べりゃ勝てるだけどってことねぇよ!!
死にました。
途中でアキレス腱斬られたのが痛かったな。マジで痛かった。
だがこんな事でめげる俺ではない。
こちとらゲートから出たらその時点で次の戦いに向けて腕を組んで思案中になるくらい死になれてるんだ。
まわりでなんか野次馬?がざわざわしてるけど気にしない。
目指すはリベンジ!蟹滅ぼしちゃる!
「デリャァァアアアア!!」
もう何匹目だろう、百匹以上ぶっ殺した気がする。
でも蟹は幾らでも湧いて出るから殺すしかない。
殺すか殺されるか!実に良い響きだな!
「キェエエエエエ!!」
蟹を二匹纏めて輪切りにしてたら、ふと周囲に目がいった。
荒野のそこかしこにある高台から何人かのプレイヤーがこっちを見ているのだ。
何見てんだよ見せ物じゃねえぞ!
とか思ってると俺のつま先に蟹の足先が刺さって…
死にました。
基本喰らったら終わりだよなー。
体勢崩したら即集られて終わりだもん。
しかしあのプレイヤー達何してたんだろ。戦うわけでもなく、というか蟹に襲われるでもなくこっち見てて…
…もしかして蟹って高台には昇ってこなかったりして?
でもそんなことは関係ない。
俺は蟹を滅ぼすのだ。変な称号まで付いたしな!
『蟹工船:百匹以上の蟹を連続で解体したプロレタリアの証』
なんだよ小林多喜二かよ!イブセマスジーとか言いやしねえぞ!
ともあれ、こんなどうでもいい称号も貰ったことだし、今度こそ蟹の群れを全滅させねば俺の気が済まないのであった。
弾いて斬る。弾いて斬る。弾いて斬る。時々弾ききれなかった蟹を避けては弾いて斬る。
永遠に近いとも思われる作業は俺を興奮に包み込んでいた。
スチールクラブとは違う。この一撃が確実に相手を刈り取るのだ。
殺すって楽しいよな!
そんな暗い情念と狂気に身を任せ、精密機械を目指して身体は蟹を屠り続ける。
もう何匹殺したかなど考えていない。
無限湧きかも知れないなども考えない。
ただ命を刈り取る機械と化した俺は、そのまま日が暮れるまで剣を振るい続けた。
で、日が暮れたわけで。
「蟹いねぇー」
あれほど山ほど居た蟹が一匹もいないのである。
昼夜を問わずに鎮座していたスチールクラブと違い、ストーンクラブには夜行性はないのだろうか。
仕方ないからフラフラしているとナイトバットというでっかい蝙蝠が向こうもまたフラフラしている。
そんなにやる気がないのか?
遠目に見てもこっちに向かうことなく一定の場所をぐるぐる回るばかり。
でも非攻撃性モンスターじゃないんだよな。
じゃあなんか攻撃してくるルールはあるわけで…
ってことで、昼間安全地帯っぽかった高台に昇ってみた。
したら来るわ来るわおめぇ右から左からどんだけ蝙蝠来るのよ!大盛りの蝙蝠とか面白くもない洒落が浮かぶわ!!
右手の魔剣で群れを切り払い、左の剣で敵を躱す。
躱すために磨り当てた刀身にガチガチ蝙蝠の牙が食い込むが、刀身に傷は付かない。
こんな時痛まない初心者の剣は盾にするのに丁度良いな!
そして俺は時間加速が眠らない事を許すまま、日が昇るまで蝙蝠を倒し続けるのだった…
「よくこんなに皮膜集めたねぇ…」
店のおばちゃんが大量の蝙蝠の羽根を見て引いたように言う。
何を言う、一晩刈り続ければこのくらいは溜まるもんだ。
そういうと店のおばちゃんは「普通毒で死ぬから」と言う。
いやぁ毒なんて牙が当たらなきゃどうって事ないし、スチールクラブに比べりゃ掠った所で致命傷にならない。
よしんば喰らったってそれで鈍るのを前提に動けば幾らでも何とかなるじゃないか。
流石に鎧に使うにも多すぎるから売りに来たのだが、どこに言ってもこの調子でドン引きされ、取引がうやむやに流されて困っている。
何がそんなに酷いんだ。俺の存在?
で、結局皮膜も売れずにとぼとぼと道を歩いていると、見慣れた顔を見つけた。
「うぉーいエリナー」
露店を広げていた少女は一瞬だけ半ば顔をしかめ、あらこんにちわと挨拶を返してくる。
こんなところで露店をやっていたのか。もしかしたら生産職?
「薬師と革細工職人を持ってるわ。そんなとぼとぼ歩いて、今度はなにを……」
革系の職人と聞いたので蝙蝠の皮膜をどさっと出す。
ヒッって小さな声が聞こえたけど気にしない。
「この山、買い取ってくれない?めちゃめちゃドロップしたけど多すぎて死蔵しそうなんだよな」
「あ…うんできるけど…どうやってこんなに?」
「一晩中殺し続けた」
聞いたエリナは頭を抱えて聞いた自分がバカだったと呟いたのは聞かない事にしておく。
後に蝙蝠の皮膜の値段が下がったらしいとは聞いた。
こんな適当書いてていいんだろうか。
俺が良いから良いか。