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04 なんかできた




で、何日経ったっけ。

時間感覚加速もあるけどログインしては鉄を叩いてるせいで時間感覚が曖昧。

ガデムのオッサンからはナイフくらいは作ってもいいと言われて作ったけど、出来はこんな感じ。


『素人のナイフ:あまり出来が良くないナイフ。鈍い』


オッサンは始めはそんなもんだと笑っていたが、こんだけ鍛えてコレだと寂しいものがある。

しかたない、また軟鉄弄りに戻るか……


で、称号も手に入れた。


『鍛冶屋の見習い:ただの鍛冶屋の見習い。鉄を扱いだしただけ』


いい加減だなおい!




で、できたのが軟鉄の棒。

いや、一つ思いついたのだ。

かつて日本刀…というか軍刀の作り方に、鋼のパイプの中に軟鉄を入れて刀を作った、という話。

コレをあの蟹鋼鉄で再現出来ないか?

もちろん炉での加工は不可能なのは知っている。

…が、腹案はちゃんとあるのだ。




「おねえさーん練金台貸してー」


モルガ婆さんにお世辞を言いつつ500Gを支払うと、おれは軟鉄の棒を練金台にのせ、リンや硫黄をイメージして抽出を開始する。

幾度と無く挑戦した結果、ぷしゅうという煙と共にそれらが外に飛び出し、嫌な匂いが店に立ちこめた。


「なにやってるんだい!」


モルガさんに怒られたが平謝りで何とかする。コレも必要な措置なのだ。店の換気を全開にして何とかした。




で、次は皮だ。

せっかく皮革職人取ってるのに今まで使ってこなかった。

ということで獣系モンスターが居るという東の草原にやってきたわけだが…

ウサギだのタカだの狼だのだらけだな!


ノンアクティブのウサギはともかく、狼はやる気十分で襲ってくる。

この際狼の毛皮でいいや。さあかかってこい!


『一匹狼:戦闘中』


一撃で終わった。

避けて首薙いだら一発で死んじゃったよこいつ。

幾ら初心者向けだからって弱すぎねえ?

まあいいや、ドロップには…


『狼の牙:狼のそう大きくない牙』


毛皮は!?ねえ毛皮どこ!?

そして俺の戦いが始まったのだった。




『ウサギの毛皮:白兎の毛皮。フワフワしているが結構丈夫』


ついでで何となくウサギ倒したらさらっと出たよ!

俺の狼皆殺し作戦は一体何だったんだ!


ということで街に戻って兎の皮をなめそう。

路地裏に陣取り道具を広げる。

現実にはクロムなめしとかタンニンなめしとか色々あるけど、このゲームのなめし方は皮を加工してから魔法のなめし液に付けりゃ終わりというお手軽な物。

鍛冶や練金の手間はどこいった!

と、いうことでここで活躍する自作のナイフ。毛をそいで脂肪をそいで、こんなんでも案外出来るもんだ。

ぞりぞりやって綺麗になったらタライに入れて魔法のなめし液をだばー。

上手になめせましたー。


『ウサギのなめし革:白兎のなめし革。微妙に適当ななめし方だが結構丈夫。』


微妙に適当とか言うなや!




そして俺の次の戦いである。


「ストーンフォージ!ストーンフォージ!ストーンフォージ!」

鋼の固まりに初級土魔法を掛けまくる。

魔力は減るばかり…だが僅かに蟹鋼鉄は変形を繰り返す!

そう、ストーンフォージの説明にはこう書いてあった。


「鉱物を成形する魔法」


じゃあ鉄も鉱物の一種だろ!

というゴリ押しの元に試したら…僅かに変形したのだ!

「ストーンフォージ!ストーンフォージ!ストーンフォージ!」

もの凄い緩慢さで鋼鉄が変形していく。

これを剣の形に、そして中に軟鉄棒を仕込んだ形にするにはどれほどの時間がかかる。

だが俺はやる、と決めたからにはやり続けねば気がすまんのだ!




ログインしてはストーンフォージ。気絶してもストーンフォージ。

野次馬が路地裏に集まってもストーンフォージ。明けても暮れてもストーンフォージ。

おれはやめねえ。こうなりゃ意地である。

どれだけの時間が経ったか、軟鉄を埋め込んだ鋼鉄は剣の形になり始め、俺の唱える呪文にも気合いが入っていく。


そして幾日の時間が過ぎた時…


「出来た!!」


それは申し分ない剣状のインゴットだった。柄があり鍔もある。綺麗な十字剣だ。

これならあの鍛冶屋の炉でも加工できるだろう。

俺は喜び勇んで鍛冶屋に向かおうとして…ブッ倒れた。




「目は覚めた?」


…気が付くとエリナがそこにいた。

見回すととここは宿屋らしい。そんな施設あったのか。


「回復一切無しでずーっと魔術の使いっぱなしなんてどういう精神してるの?限界越えたら普通強制ログアウトになるわよ?」


そうだったのか、熱中するとなんにも見えなくなるから知らなかった。

こまめに宿屋で休むのが大事よ、とも言われたが今後ともやすむのは忘れそうな気がしてならない。


「たまたま見つけたのが私だから良かったけど、私じゃなくシーフ系相手だったらあのインゴット盗まれてたわよ?」


なに?それは一大事だ。やっぱ時々宿屋に行こう。


「しっかし…あれ、どういう事?」


「どういう事って?」


俺が聞き返すと、エリナはしばらく怪訝な顔をしてから答えた。


「蟹鋼鉄の剣、なんて今の段階じゃ存在しないの。一体どんな無茶をしたのか分からないけど、あなたを殺しても欲しい人がいるような一品よ?気を付けて扱いなさいね?」


アインブルクじゃ普通の鋼の武器が最高級品なんだから、と付け加えられた。

俺はそんな無茶をしていたのか…いや、あれだけの努力が無茶でないはず無いけど。


「掲示板にでも作り方をあげておいた方が良いわ。最も…他に作れる人がいるか謎だけど」


ふーむ、そういうのは苦手なんだよなぁ、と、言ったら、エリナはまたため息をついた。


「はいはい、私がやってあげるから、詳細に話してね」




「…正気?」


「保証しない」


これが製造工程の顛末である。


「剣が出来ても目立たないようにね?こういうゲームのプレイヤーの嫉妬って恐いから」


最後に有り難い忠告をいただいた。




で、おれは今鍛冶屋に居るわけで。

ガデムのオッサンにインゴットを見せたら大層驚いて居た。


「コレなら剣に出来るが…お前さんどうやってコレを作ったんだ?」


「企業秘密って所かな」


実際は無茶すぎるから話すなって言われてるんだけど。


「こんだけの品なら俺もつくるのを手伝わせて貰おう。中に入りな!」


と言うことで工房の中。

居るだけで汗が噴き出る灼熱の世界で、炉がガンガン燃えさかる中に蟹鋼鉄の剣状インゴットが入っていく。


「っしゃ行くぞー!!」


そして赤まった鋼を俺とガデムさんが懇親の力を込めて叩く。

蟹鋼鉄は恐ろしく硬いため、それほどの力が必要なのだ。


「お前上手くなったな!もっと行くぞ!!」


そんな風に褒められながら、俺は一言も発することが出来ずに赤熱した鋼をガンガン叩く。

可能な限り早く、命を賭けるように叩き形を作り続ける。




「――!!」


槌を振るう俺の口から声にならない声が絞り出され、鋼はついに剣の形に纏まった。

顔を引き締め治したガデムさんの前で、黒色の剣がどことなく鈍く輝いている。

ヤスリと砥石で銀の姿を取り戻した剣を前に、ガデムさんの顔は僅かに微笑んだ。

あとは焼き入れ、これこそ正念場だ。


「さぁ、行くぞ」


灼熱をさらに燃え上がらせ、小さな割り炭をくべられた炎の中に鋼剣が埋没する。

そして鞴を二人がかりで押し、夕陽のような色に赤められた鋼剣が出てきた時、剣は水の中に付けられ大量の蒸気を発した。


そう長い時間ではない。蒸気の中から姿を現した剣は所々禿げた黒い皮に覆われ、その姿は分からない。

そして焼戻しだ。この蟹鋼鉄が実際の鋼と同じかは分からないが用意して貰った灰の中に少し炙った刀身を埋め、一日の時間を置く。

この作業にはガデムさんも感心したようで、今度からやってみるなどと言っていた。


そして次の日、灰から取り出した剣の砥石を任せられた俺は、ヤスリでゴリゴリと黒皮を剥ぎ、粗砥で姿を削り出していく。

自分で手入れが出来なければ行けない、というガデムさんの配慮から任されたのだろう。

砥石の掛かりが硬い。しかしするすると研げていく。間違いなく焼き入れは成功しているハズだ。

そして刀身全体の姿が明らかになると、俺は見ほれてしばらくの間作業を止めてしまった。


「初めての剣にしちゃ最高の出来だな!」


うしろでガデムさんが言う言葉も聞こえない。

本物の剣の美しさに俺は我を忘れ、次いで中砥、そして細砥とだんだんに仕上げて、その美しさに磨きを掛けた。

そして最後に柄に細く切った兎の皮を貼り巻き、完成である。

…頑張った甲斐があった。本当に綺麗だ。


「ほれ、もってけ」


と、後ろからガデムさんの声。

見るとそこには一つの赤い鞘があった。

何時の間に作ったのだろう、たしかに抜き身で持っている訳にはいかない。

ありがとう御座います、と一言、剣を鞘に収めると、ぴったりと収まり、履けば腰に吸い付くようだった。


「なぁに、珍しいもんが見れたお代だよ。新しい技術も覚えられたしな」


剣で困ったらいつでも来な。とガデムさんは言ってくれて、俺は店を辞去した。

そして、剣の情報を見て、ビビった。


『蟹鋼鉄の魔剣:ある魔導士にして錬金術師が渾身の精神力を込めて精製した蟹鋼鉄から出来た剣。対象の装甲を柔らかくする働きを持つ』


大量のストーンフォージのせいだろうか。コレは益々ヤバイ代物になってしまったような…




『ロッククラブ:戦闘中』


で、北の山岳地帯。

どのくらい切れるかスチールクラブに少し当ててみようと思ったら、こんな感じの蟹がいました。

大きさは1mに満たないくらいで、明らかにスチールクラブの下位種族だ。

動きも大体同じで、小さいけれど恐いものではない。


…で、問題はだ。


真っ正面から斬りかかって真っ二つになる、だと…

なにこの魔剣。切れすぎだろ。

俺は一体何を作ってしまったんだ……

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