02 やっちゃった
街を飛び出してきたの山岳地帯。
そう言えば魔法を使う事を忘れていた。
町から出てスキル欄の土魔法を確認すると、「ストーンバレット」と「ストーンフォージ」という魔法が登録されていた。
前者は「石弾を飛ばす魔法」で、後者は「鉱物を成形する魔法」らしい。
ストーンバレットは使えるかもしれない。
良い物を見たとばかりに俺は左手にタクト状の杖を持ち、右手に剣を抜いて構える。
「ストーンバレット!」
タクトの先に拳ほどの石が発生し、飛び出してドゴンと地面をえぐった。
そこそこ以上の威力はないが牽制には使えるだろう。
待ってろスチールクラブ!
千度死んでもお前を殺してやる!
死にました。
いやあ魔法詠唱中って割と無防備なんだなぁ。
後衛用みたいなもんだからそりゃそうかね。
結局ストーンバレットを使うより突きでチクチク関節を狙う方が意味がありそうだ。
何より今回は吐かずに済んだ。結局激痛でのたうち廻ったけどな!
さ、次行ってみよう。
死にました。×約20
もうこんだけ死ぬと慣れてくるね!
そもそもこんな戦法してる理由が「一度死んでみたかったから」みたいな自殺願望めいたものが始まりなんだけどさ。
こうなってくると相手を分析しつつやられてみるのも楽しくなってくる。
スチールクラブの動きは大体掴んだし、次は行けるかもしれないしな!
死にました。
まぁ動きに慣れても速度が追いつかなきゃダメだよな!
という苦みを噛みしめながら次の対戦いってみよー!
もう悶絶もしなくなったし向こうも僅かなダメージでちょっと動きが鈍ったかな?ってなってたし!
いけるいける!
死にました。
いい加減死にネタに自分で飽きてきたよ!
ってのと関係なく、そういやポーションとかあったな、って露店見てやっと気付いた。
でもね、そもそも使う隙が無いんだよな。うっかりすれば即死。
最短死亡時間は10秒そこらです。
で、持ち物枠を見ていて気付いた。
いつの間にか称号がついている。
『怒りの戦士:死を恐れず長い戦いに身を投じ始めた戦士の証。挑み続けるほど能力が上がる』
へーそんな便利なもんあったんだー……じゃねよ!
最近どんどん生存時間が延びてたのはそのせいか!
やったぜこれならいつかは勝てる!いつかは!
死にました。×たくさん
まあそれでも無理なモンは無理なんだよな。
でも称号がいつの間にかレベルアップしてます
『怒りの狂戦士:死を恐れず長い戦いに身を投じる戦士の証。挑み続けるほど能力が上がる』
多分倍率とかが違うんだろうな。
でも死に戻りまくらないと話にならない称号とかおかしくね?
…いや、もしかしたら戦闘時間が関係するのかも知れない。
最短10秒死だったのが今や戦闘時間が30分を越えるようになってる。
つまり次は行ける…!?
鋼鉄の鋏が音を立てて迫るのを、おれはギリギリのスウェーで避ける。
カウンターウェイトとしておいた剣先は鋏の根本を削った。
全身傷だらけのスチールクラブは未だ鈍る事なく脚を小刻みに振るわせて左右にステップをとり、こっちを誘い続ける。
もうその動きは慣れた物、振り下ろされる鋏をかいくぐって目の根本に剣を突き入れると、ついに左目を切り落とすことに成功した。
行けると慢心すれば死が待つ。
無限とも思える死闘で覚えた事は冷静な闘争心である。
踏み込めば踏み込むほど加速していく自分を御しながら、足の根本を掠め、鋏の根本に剣を突き入れる。
と、すぐさま体当たりが岩場にこちらを押しつけようとする、それを何度も喰らった俺は僅かな動きで回避し、カニだけを岩場にぶつけることに成功する。
その隙を逃すほど経験が無いわけではない、すかさず剣を両手で握り、脚の関節めがけて剣を突き立てた。
カニの吹く泡を無視して距離を置くと、次はもう一方の鋏に突きを入れる…と見せかけてしゃがみ込んで回避を行う。
頭上を轟音が通り抜けると同時に泡を吹く口元に剣が突き立てられた。
剥がれる甲殻の一部にカニは苦悶の呻きらしき声をあげ一層激しくこちらを責め立てる。
が、ついて行ける。この猛攻について行けるのだ。
時に跳ね、時にしゃがみ、時には乗りかかり、カニの方々を突き、斬りかかる。
最早斬撃すらも攻撃手段になり始めた俺は、狂気に身を任せて避けては斬るを繰り替えし続ける。
「ウラァァァァ!!!」
そして――
「勝ったぁぁぁ!!!」
眼前に横たわるのは両目を切られ、甲殻の半ばから青い体液を流すスチールクラブ。
インベントリには『蟹鋼鉄の固まり』というアイテムとG(お金)が入っている。
勝利の余韻を噛みしめていると、スチールクラブは光の粒子になって消えていった。