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山岸

 覚醒した俺は猛獣のように突撃する。

 まだだ。

 まだ俺は闘える。

 俺の背中には仲間の命がかかっているんだ。


「うらあああああああああッ!」


 俺はまたもや獣のような咆吼をあげた。


「来い!!!」


 それに対し赤騎士は王者然とした風格で言った。

 余裕があるじゃねえか……

 ……いや違う!

 手首を切ったときは手応えがあった。

 相手も手負いのはずだ。

 まだ圧倒的に不利ではないはずだ!


 そうだ。

 みっともなかろうが、なんだろうが構わない。

 だが負けるのだけは許されない。

 全力だ!

 全力をぶつけるのだ。

 この偉大な戦士に俺は全てをぶつけるんだ。


 そうと決めると俺は両手に持った短剣で襲いかかる。

 右左右、左右左とラッシュを浴びせる。

 血反吐吐いて覚えた超高速の連続技が赤騎士を斬りつけていく。


 速さに関しては俺の方が上だ。

  ああ、そうか……

 俺のスタイルは武器格闘術。

 素手と剣の動きがほぼ同じ。

 吉田は最初から二刀流を意識して俺を仕込んだのか……


 赤騎士は俺の猛攻を両手、それに盾を使い凌いでいく。


「黒騎士!!! 凄まじいラッシュです!!! なぜ普段からこうしなかった!!!」


 うるせえええ!

 俺は斬りつけながらスピンし、後ろ回し蹴りを盾に入れる。

 盾がごと赤騎士が体勢を崩す。

 俺はそこを斬りつける。

 浅い。

 だがそれでいい。

 俺は隙を見ては徐々に切りつける。

 少しずつだ。

 すこしずつ動けなくすればいい。

 気がつくとレイブレイドが斬った焦げ臭いニオイが立ちこめていた。


 まだだ!


 もっと速く!!!

 もっと凶暴に!!!


 俺は更にスピードを上げる。

 だがそこまでだった。

 がつんっという音がして目の前が真っ暗になった。

 拳がめり込んでいた。

 殴られたのだ。

 赤騎士は盾を捨てていた。

 盾はスクラップになっていた。

 レーザーブレードの圧倒的切れ味の前では、盾ももたなかったのだ。


「おおっと!!! 赤騎士が殴った! まるで黒騎士のような野蛮な闘い方です! どうした赤騎士!?」


「うおおおおおおッ!」


 赤騎士が咆吼し、額の上で剣を構える。

 手首折れたのに無茶しやがる。

 この一撃に賭ける気だろう。

 俺はフラフラとしていた。

 なんて重い拳だ。

 赤騎士の一撃はまたもや俺の意識を刈り取りかけていた。

 そのせいで俺は脱力をしていた。

 耳鳴りがする。

 ジンジンと血管に血液が流れる音が響いた。

 俺がぼうっとしていると赤騎士は容赦なく剣を振り下ろす。


 折れた手で剣を振り回すって化け物かよ……

 死ぬのか……

 いや死ねない。

 死んでたまるか!!!


 がしゃり。

 耳鳴りと自分自身の血管の音がうるさく響く俺の耳に、赤騎士のレイブレイドで斬りつけられた腕が異音を上げながらひしゃげる音が聞こえた。

 その音が俺の思考を戦闘に引き戻した。


 ああ、こういうときは……


「タカムラ。脇差しで鎧武者を倒す方法を知ってるか?」


 吉村の声が聞こえたような気がした。

 俺は、一歩前に出た。

 そのまま体を回転させる。

 そのとき俺のいた場所に赤騎士が渾身の縦切りを振り下ろしていた。

 あまりの衝撃に片腕がちぎれ、腕のパーツが宙を舞った。

 俺は赤騎士の横に回り込んでいた。

 剣で刺す。

 いつも使っている短剣はどこかになくなっていた。

 しかたない。

 俺は惚けた意識のままで、ごく自然な動きで体勢の崩れた赤騎士の首を掴んだ。

 そのまま俺は円運動をに巻き込みながら赤騎士を引きずり回す。

 なぜか手応えはない。

 俺の思うままに赤騎士は誘導されていった。


 そして俺はしゃがむ。

 赤騎士がバランスを崩し倒れ込む。

 俺は倒れ行く赤騎士の頭を前に出した己のヒザへぶつけた。

 膝に当った赤騎士の頭がバウンドし動かなくなった。


 脳震盪を起こしたのだろうか。

 赤騎士はぐったりとしていて動かない。

 ああ、そうだ。トドメだ。

 俺はその後頭部へレイブレイドを突き刺した。

 その瞬間、頸部を破壊された赤騎士の機体は完全に動作を停止し、俺の勝利は確定した。


「な、な、な……今の一瞬の間に何があったのでしょう? 黒騎士が赤騎士の首に剣を突き刺しました……」


 俺は肩で息をしていた。


「と、とにかく黒騎士の勝利です!!! 純粋な剣技ではありませんが……いえ今回のは凄かった……認めましょう!!! 新チャンピオンの誕生です!!!」


 歓声が上がった。

 いつもの罵声はない。

 それは俺を讃える歓声だった。

 現金な野郎どもだぜ。


「新チャンピオンには領主山岸様より、お言葉が賜われます」


 司会がそう言うと、貴賓席の男が闘技場のスクリーンに映し出される。

 懐かしい顔だ。

 野球部員特有の坊主頭に、我が校の男子(クズ)特有の品性のない、いやらしい顔。

 俺たちを奴隷として売ったクソムシ。

 その一人。

 これがセクション47の領主、山岸だ。

 山岸が俺を見て笑う。

 あくまで上から俺を見る。

 そして笑った。

 上機嫌に。

 余裕を持って。


「よくやった黒騎士、いやタカムラよ! 貴様の望みを叶えてやろう!!! 貴族の地位も騎士団への入団も許してやる! 俺の下につけ。お前は一生俺のパシリだ!!!」


 俺はヤツの顔を見た瞬間、急激に意識が戻って来るのを感じた。

 憎悪。

 憎しみ。

 そういう感情なのかもしれない。

 黒いドロドロとした感情。

 本にはそう書かれていた。

 俺もこの時までは憎悪とはそう言うものだと思っていた。

 だがそれは違った。

 俺の中にあったのは、昂揚、それと歓喜。


 それを自覚した瞬間、心臓がドキドキと高鳴った。

 復讐の時が来た。

 サイガとの約束を果たすときもだ。

 俺は、俺の乗ったアゼルが一歩前に出た。




「俺の望みは……」



 どくんと心臓が跳ねた。



「お前との決闘だ!!!」




 俺は外部スピーカーを通して高らかに言い放った。


「あ? てめえ。なんつった?」


 まるで知性を感じさせない、どこか動物を感じさせる声がした。

 やはり野郎は二年前からまるで成長してない。

 攻撃的な本能だけで生きてやがる。

 ここはもっと挑発しよう。


「テメエをぶっ殺すつってんだよ。このブタ」


 俺は笑顔で言った。

 俺はもはや相手が同級生ではなく殺すべき敵であることを理解した。

 ああ、そうか。

 俺はこの瞬間のために生き残ったんだ。

 この野郎だけじゃねえ。

 全員ぶち殺すために泥をすすってでも生きてきたのだ。

 そんな俺を見て豚が笑う。


「あーはっはっはっは! 言うじゃねえか!」


 まだ豚は俺を格下だと思っているらしい。

 自分を大きく見せるのにやっきになっている。

 台詞自体は余裕があった。

 だが、その顔は怒りのあまり真っ赤になっている。

 血管が破裂しそうなほどキレているのだ。

 面白い顔だ。

 俺は思わず「っぷ!」と吹き出した。

 だってあの顔……耐えられない!


「笑ってんじゃねえぞこの野郎! テメエぶっ殺してやる!!!」


 とうとう我慢しきれなくなった山岸が怒鳴る。

 恫喝が俺に効くと思ってやがるのか……

 日常的に戦ってきたこの俺にだ。

 頭が悪いにも程がある。

 俺は呆れ果てていた。

 あ、そうか……あのバカがそこまで考えてるわけないか……


 すると観客が騒ぎ出す。


「戦え! 戦え! 戦え! 戦え! 戦え! 戦え! 戦え! 戦え! 戦え! 戦え!」


 その声を聞いた山岸の顔が赤黒くなっていく。

 群衆が思い通りにならない。

 それが許せなかったのだ。

 まるで子どものかんしゃくだ。

 なにも進歩していない。

 山岸は怒りのあまり血圧が急上昇する。

 真っ赤を通り越して真っ黒になった瞬間、山岸は人差し指を天に突き立てた。


「煉獄よ! 焼き尽くせ!!!」


 山岸の声と共に俺の対戦相手、正規兵のアゼルから火が出る。

 火はあっという間にアゼルを包み、アゼルを焼き尽くした。

 観客席からは悲鳴が上がる。


「死ね!」


 山岸が怒鳴った。

 次の瞬間、観客席から火が上がる。

 観客席から悲鳴が上がり、それが引き金となりパニックが起こる。


「……おい……豚野郎」


 俺は怒りをこめていった。

 ある程度のパフォーマンスは予想していたが、これはやりすぎだ。

 闘技場で戦った戦士には敬意を払うべきだ。

 それをいきなり殺しやがったのだ。


「リストラだ。お前程度に負けるのだからな。そんなヤツはいらん。小うるさい虫けらどもも要らん!」


 豚は勝ち誇っていた。

 己の器の小ささをさらけ出したともわからずに。

 俺は思った。

 こいつは殺さなければならない。

 野郎は誰のためにもならない。

 こいつを排除するのは俺たち異世界の人間の義務なのだ。

 俺はこれまでにない怒りを感じていた。

 それは義憤というヤツなのかもしれない。

 その時はそう思っていたのだ。


 俺にはこの豚を殺す理由ができたのだ。

 だが殺すのは今ここではない。

 これ以上被害が出る前に聞かなくてはならないことがある。

 俺はまるで怒りを抑えるように静かに口を開いた。


「山岸。今のが勇者の証か?」


 ぴくりと山岸の眉が動いた。

 すると山岸は急に上機嫌になる。


「そうだ! お前が得ることの出来なかった力だ」


 俺に精神的に勝利したと勘違いした山岸が嬉しそうに言った。

 勝ち誇った理由は簡単だ。

 自分の方が有利だと確信したからだ。

 人間関係において上下しか理解出来ない。

 それが山岸なのだ。

 山岸俺よりが上位だと自分の中で確信した勇者の証。

 それは特別な超能力(サイ)だ。

 領主のような上位の貴族が持つ特殊な能力だ。

 なんらかの手段で男子どもはこれを手に入れた。

 ……らしい。

 俺はこの力を持っていないので、わからないのだ。


「そうか。じゃあ寄こせ。お前のものは俺のもの。好きだろそういうの」


 俺は嫌みったらしくはっきりと言った。

 みるみるうちに山岸の顔がまたもや真っ赤になっていく。

 バカなのは変わらないようだ。


「一週間後だ。お前を焼き払ってやる!!!」


 山岸は大声で怒鳴った。

 そのときはまだ観客達の悲鳴があちこちで聞こえていた。

 俺はこのとき知らなかった。

 すでに違う風が吹いてきたことに。

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