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赤騎士

 数日後、闘技場。

 今度は中に通される。

 待ち伏せして入った瞬間に攻撃というのはないらしい。

 ずいぶんと待遇がいい。

 それとも剣闘士なんて楽に倒せるという意味だろうか?

 少しむっとしたぞ。

 被害妄想だがな!


 まあいいや。

 俺がどうでもいいことを考えていると、司会者がアナウンスを開始する。


「みなさん! とうとう我らが嫌われ者、黒騎士最後の日がやって来ました!!! ライオン像の前にいるのは闘技場のチャンピオン。最強の騎士、赤騎士いぃッ!!!」


 大きな歓声が上がる。

 あーそうですか。

 俺を切り刻むショーですか。

 俺が死ぬのが前提ですか。

 はいはい。

 そうですか。

 そうですね。

 俺はブツブツ問い文句を言う。

 そんな俺を知ってか知らずか、大きな盾を持った赤騎士が手を振りながら一歩前に出た。

 その動きだけで歓声が上がる。

 羨ましすぎて涙が出るぜ!


「もう一人、ドラゴン像の前にいるのは、この闘技場はじまって以来の嫌われ者。チンピラの如き美しくない戦いとセコイ立ち回り、今日こそ断罪されるのか?! 黒騎士いぃッ!!!」


 ブーイングと罵声が俺に浴びせられる。

 ぶちぶちぶち。

 なんかオラ……キレちまったぞ!

 あまりの理不尽にムカついた俺は両手の中指を突き出しながら抗議する。

 あとで動画配信されたときにはモザイクがかかっていることだろう。

 ざまあみろ!!!

 ついでに首切りポーズと。

 もうヤケだ。


 俺が調子に乗って踊っているとボイスチャットの要請が来ていた。

 誰だ?

 俺は回線を開き通話する。


「ずいぶんな嫌われようだな。黒騎士殿」


 赤騎士が話しかけてきやがった。

 んま紳士的。

 ふんタカムラ。

 イケメン力たったの5かゴミめ!

 ちゅどーん。


「ああ。なんか知らんが嫌われてるみたいだな」


 ここはとぼけておこう。

 妬ましすぎて歯がカチカチいってるのは隠し通すのだ!

 頑張れ俺!


「黒騎士殿は嘘つきであられるようだ」


「ああっ?」


 チンピラみたいな態度で俺は聞いた。

 あー……いつの間にか態度までチンピラちっくに……

 苦労は人をここまで追い込むのね。

 俺はじっと自分の手を見る。

 涙がじわり。

 泣かないもん!

 そんな俺の苦労など知りもしない赤騎士は話を続ける。


「ごろつきの喧嘩殺法にしては体系立ちすぎている。おそらく我々の知らない武術だろう」


 うわーお、当たり。

 この世界でもわかるヤツいるのか……

 うーん困った。

 とりあえず誤魔化そう。


「俺は自分から喧嘩殺法と言ったことはない」


「でしょうな。では()りましょうか」


「ああ。行くぜ!」


 内心ドキドキしながら俺は片方の剣を抜いた。

 精一杯格好つけたつもりだ。

 見透かされるって思ったより怖いわー。

 今日の俺の短剣は振動刃。

 高かったけど買ったぜ!!!

 正確に言うと駄々こねてサイガに買わせてやったぜ!


 そんな欲まみれの俺と同時に赤騎士も剣を抜く。

 赤騎士は長剣と盾という一般的な騎士の装備。

 赤騎士の長剣はこの間の斧野郎よりも上位の装備だ。

 超震動刃とでも言っておこう。

 官製だけあって金がかかっている。

 普通の剣で受けたら剣ごと真っ二つにされるほどの威力だ。

 ま、負けた!

 でも、ボクちゃんもう一本あるもんねー!

 俺はもう一本の剣を抜く。

 司会が驚きの声を漏らした。


「な、なんと! 黒騎士の短剣はレイブレイドです!!!」


 なんでサイガと俺が金を貯めていたのか?

 仲間を取り戻す。

 それは優先だ。

 だが俺が奴隷のままじゃ意味はない。

 だから最初に解放を目指しているのだ。

 そのためにも上位の装備を買うことが必要だった。

 俺が目をつけたのはレイブレイド。

 超高級品にして恐ろしく評判の悪い武器だ。


 光学近接兵器。

 簡単に言うと刃がビーム状になっている剣だ。

 軽すぎるし刃に質量がないから重心もおかしいというクセのある武器だ。

 確かにどうにも刃を意識するのが難しい。

 はじき飛ばす力が大きすぎるなど物理的な刃物にはない弱点が多い。

 その他にも切れ味が鋭すぎて自分を切ってしまったりとか、エネルギーパックを使うところなどが大きな弱点だ。

 だから人気がなく誰も使いたがらない。

 だが切れ味は最高だ。


 俺は短剣の二刀流で挑む。

 体を少し斜め、半身にし短剣を持った両手を胸の前に置く。

 いつもより真面目に構えた。


「黒騎士が構えた……だと……今日の黒騎士はおかしいです!!!」


 司会の驚愕の声と共に闘技場のあちこちからザワザワと声がする。

 うるせえ!!!

 俺が構えただけでそれかよ!!!

 クッソ~!

 全員後で泣かせてやる!

 赤騎士から笑い声が聞こえる。

 さわやかな笑いだ。

 どうにもコイツ嫌いになれんな……

 なにこの圧倒的なイケメン力!

 少し悲しくなった……

 さて、戦闘、戦闘っと。

 俺が構え直すと赤騎士も長剣を構えた。

 闘技場に耳障りな高音が響いた。


「行くぞ!」


「行くぜ!」


 それは同時だった。

 戦闘が始まったのだ。

 まず横なぎの長剣が俺の胴に向かう。

 俺はムリヤリ身を屈めて剣の下に潜り込む。

 そのまま身を低くしたまま、足を斬りに行く。

 盾が届きにくい下段を狙ったのだ。

 だって盾邪魔なんだもん。


「でりゃああああッ!」


 だが俺の剣は空を斬った。

 赤騎士は一歩だけステップバックしてやがったのだ。

 俺は瞬時に身の危険を感じ横に転がる。

 俺のいた場所に長剣が振り下ろされる。


「ぬおッ!!!」


 俺は慌てて横に転がる。

 振動剣が床に突き刺さり、振動刃で粉になった床材が飛び散る。


 ひいいいい!

 死ぬ死ぬ死ぬ!!!


 おれは転がった勢いを使って立ち上がり、さらに距離をとる。

 思ったより相手が速い。

 距離を取って、飛び蹴りとかで意表を突こうと思ったのに。

 さすが今までの相手とは違うぜ……

 俺が苦戦を予感したまさにその時だった。


 ぞくり。


 俺の背中に冷たいものが走った。

 二年間の剣闘士生活で身につけた勘というヤツだ。

 俺は慌てて赤騎士の正面から身をかわす。


「アースシェイカー!!!」


 その声が聞こえた時、すでに俺は横に飛んでいた。

 勘を信じて良かった!

 その証拠に空中で俺の体、脇腹をなにかが掠めた。


「痛えええええええ!!!」


 フィードバックで痛みが走る。

 受け身こそ取ったが地面に墜落し、更に痛みが走る。

 這いつくばった俺が見たもの。

 それは片手から射出されたもの。

 それは杭が赤騎士の腕から真っ直ぐに伸びていた槍。

 ……のようななにか。

 くい打ち機(パイルバンカー)か!!!


 クソ!

 うすうす気づいてはいたけど相手は俺を侮ってなんかいない。

 あの野郎……俺を研究して倒す方法を考えてきやがった!

 だが俺は負けねえ!!!

 俺はてめえを倒して自由を手に入れる!!!

 俺が自由にならなきゃアイツらも解放してやれねえんだよ!

 俺はこんなところで死ねねえんだよ!!!

 俺は全身を支配する痛みを食いしばり、相手に向かって飛びかかる。


「オラァッ!!!」


「愚かな!!!」


 横なぎの剣で飛んできた俺をホームラン。

 胴体と腰が離れてぐるんぐるん。

 一番嫌な死に方だ。

 よくわかります。

 だから俺は空中で震動刃の短剣を投げた。


「甘い!!!」


 赤騎士はそれを体をひねるだけで避けた。

 それでいい。

 俺は自分の間合いに侵入できたのだ。

 そして大急ぎで足から三本目の短剣を抜いた。

 いつもの切れ味の悪い短剣だ。

 俺が剣を抜く間に、赤騎士は自分の剣を頭の上で振りかぶり縦切りに変化させる。

 俺は半歩だけ斜めに進み間合いを盗んだ。

 狙いは相手の手だ。

 俺は逆手に持った短剣で下から剣を持った相手の手首、そこにある杭打ち機へ斬りつける。

 赤騎士の杭打ち機が手首ごとひしゃげる音がした。

 手応えアリ!

 これでロングレンジの兵器は潰した。

 次行くぞ!

 俺は赤騎士の首目がけてレイブレード振るう。


「甘いわ!!!」


 がつんとなにかが俺のアゼルの顔面にぶち当たった。

 盾だ。

 アゼルの顔面がひしゃげる音がする。

 首が曲がり頭部が揺れる。

 フィードバックで俺の脳までシェイクされる。

 カウンターで喰らっちまった!

 くらくらとする。

 意識が遠のいていってるのだ。

 俺はノックアウトされていたのだ。



 ノックアウトされた俺が惨めにも前のめりに倒れていく。

 その最中、俺は思い出した。

 それは中学の思い出。

 俺の顔を踏む山岸。

 はやし立てるバカども。

 ゴミをぶつけながら楽しそうに俺を公開処刑していく。


 クソ最悪だ!

 いいから寝かせてくれ!

 俺頑張っただろ!


 だが俺に俺の中の闘争心ってヤツが語りかける。

 お前は二年間であの時から成長出来たのか?

 ゴミじゃなくなったのか?

 心が折れちまっていいのか?

 また戦うことから逃げるのか?


 またクズみたいな自分に戻るのか?



 ゴチャゴチャうるせえぞ!

 俺は自分にだけは負けねえんだよ!


「うおおおおおおおおおおおッ!」


 裂帛の気合。

 いや俺の心が出す悲鳴だった。

 獣の咆吼。

 その咆吼が俺の意識を覚醒させた。

 俺の気合に思わず赤騎士が距離をとる。


 その咆吼こそ俺の反撃の狼煙だったのだ。

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