表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/41

吉田

 俺は奴隷の宿舎へ向かった。

 ある男に会うためだ。

 宿舎のフリースペース、通称中庭に着くと剣闘奴隷の教練場から声が聞こえてくる。


「お前ら!!! 俺がJCと結婚するために殺人マスィーンになれ!!!」


 それはバカのわめく声だった。

 教練場にいたのはまだデビュー前の奴隷たち。

 俺の後輩に当たる。

 それと身長190㎝はあるだろう、年齢は30歳くらいの大男だった。

 男は俺に気づくと大音量で声をかけた。


「おー! タカムラ!!! 終わったのか! ガハハハハ!!!」


 筋肉質、まぶたに切り傷、耳は潰れていて、拳には拳ダコ。

 露骨なまでに濃い男が豪快に笑った。

 コイツは俺の中学での担任、吉田英二だ。

 不幸にも修学旅行の引率でこの騒ぎに巻き込まれた。

 それで俺と同じように女生徒を売るのに反対して奴隷として売られたわけだ。


「どうだ? お前のファンで俺と結婚してくれそうなJCはいるか?!」


 俺とは反対した動機がかなり違うがな……


「いねえよボケ! 真顔で言うなアホ!」


 ファンなんていねえよ!

 ファンなんて!

 あれ……?

 どうして目から水が出るんだろう。

 どうしてこんなにビターなんだろう。

 あはは。

 おかしいね。


「タカムラ。俺はJCとエロゲーみたいな恋愛をするためだけに教師になったんだ! 県議に払った賄賂300万円を回収するまでは俺はあきらめないぞ!」


「金額が生々しいんだよ!」


 ボクは変なことを言ってないよ。

 そう言いたいのか吉田はどこまでもさわやかなツラをしていた。

 こいつ永遠に黙らないかな。

 ホント。

 これまでのやりとりで……ほとんどの人はなんとなく理解したと思うが、俺と吉田が反対した動機はかなり違う。

 俺は人道を……半ばやけになったのもあるが正義を求め、吉田はJCのケツを求めた。

 死ねばいいのに。


「三年B組! ロリコン先生!!!」


「やかましいわ!!!」


 この野郎、吉田はロリコンだ。

 しかも筋金入り。

 自分がロリコンである事を隠そうともしやがらない。

 むしろロリコン=子ども達を守るスーパーヒーローだと思っているようだ。

 だがコイツはただのド変態ではない。

 吉田は俺に武術を叩き込んだ二重の意味で師だ。

 レスリング部顧問。

 だが顔の傷を見ればわかるとおり、レスリングだけではなく打撃や古武術など複数の武術を習得している。

 きっと痛いのが好きに違いない。

 ロリコンでドM。

 だめだコイツ。

 ところがこの野郎はこと戦闘に関してはチートだ。

 校内最強のヤンキー菊池ですら吉田の前では大人しかった。

 というか菊池対策でうちのクラスの担任にされた。

 こういう武闘派の教師はたいてい脳筋と相場が決まっている。

 拳と運動があれば人間が良くなると信じている体育原理主義の狂信者。

 それが普通のイメージなのかもしれない。

 ところがこの吉田の性格は全く逆だった。

 運動をするくらいなら本を読め。

 感じろ、観察しろ、考察しろ。

 国語教師の吉田はそういうやつだった。

 そのせいか俺はこのド変態と気が合うのだ。

 非常に遺憾ながら。


 ほとんどの人はこの野郎が戦えばいいと思うだろう。

 全力で向いているからな。

 だが、残念なことに吉田はアゼルを操縦できないのだ。

 いるよね。

 スペック高いのに残念なやつ。

 それが吉田だ。

 吉田はこの世界に来ても超能力を使えなかった。

 どうやらアゼルの操縦には超能力が必要らしい。

 それが俺と吉田を分けてしまった。

 俺が戦い、吉田が俺をサポートする。

 異世界に放り出され奴隷として売られた俺たちは嫌でも助け合わなければならない。

 この世界に来る前には俺は吉田を軽蔑していたが、今では尊敬すらしている。

 この男は戦闘に関しては信用できる。

 それはサイガも同じだったようだ。

 現在、吉田は二年前までずぶの素人だった俺を訓練した功績を買われて、練習生の訓練を担当している。

 練習生に女子がいないのが不満らしい。

 アホか。

 コイツ、人格だけは信用できねえな。ホント。

 俺は呆れながら本題に入る。


「ファンなんていねえよバカ。それより……赤騎士との対戦が決まった」


 吉田のまぶたがぴくりと動いた。

 同時に吉田の緩みきったその顔が引き締まる。


「相手はお貴族様か……強力な戦士だぞ」


「ああ。だからトレーニングメニューを変えてくれ」


 吉田がにやりと笑う。

 こういうときだけは頼りになるぜ。


「木剣を拾え、復讐者(ヒースクリフ)


「ああ……ってロリコンこじらせて俺の名前も忘れたのか? 俺は大量殺人犯じゃねえぞ……」


「『嵐が丘』だ! このおバカ!」


 うっわーむかつくわー!!!

 読んだことないもんね!

 知ってて当たり前って、そういう態度はどうかと思うぞ!

 ムカつきながら俺は練習用の木剣を一本だけ手に取る。


「違う。二本だ」


「はあ? 二刀流は難しいからヤメロって言ったのはお前だろ?」


「ああ言った。だから、これから血のションベン垂れ流すまでお前に動きを叩き込んでやる」


 鬼かテメエは!


「はあ? ……あー仕方ねえ! ……わかったよ!」


 だが俺はあきらめて素直に従う。

 吉田はド変態で最低のロリコンだ。

 だが武術では嘘はつかない。

 俺はもう一本の棒を拾い構えた。

 すると吉田が練習生たちに大きな声で話しかけた。


「お前ら! タカムラと俺の動きをよく見ろ! これがプロだ!!!」


「お前は違うじゃねえか!!!」


「るしぇー!!! それ以上俺の小さな自尊心に傷をつけるなあああああああッ!!!」


「自覚しとるんかい!!!」


 こうして俺たちの訓練が始まった。

 訓練と書いて『ころしあい』と読む。

 短期間で仕上げるためには仕方がない。


「いいか! 高村! 人間の脳みそは両手を別々に使うのは難しい!」


 そう言いながら右の斜め切り、左の横薙ぎ、また右の斜めと吉田は器用に連続攻撃をしてくる。

 俺はその一つ一つを不器用にサバいていく。

 まだ吉田は本気じゃねえ。

 大丈夫か俺。


「じゃあどうすんだよ!」


 イラついた俺が怒鳴る。


「素手のコンビネーションと同じだ! 動きをセットで覚えろ! 基本は三連撃からスイッチだ」


 そう言うと吉田の連続攻撃は速く鋭くなっていく。

 俺は死ぬ気で攻撃をはじき返す。

 どうしてだろう……

 なぜか殺気がビシバシと飛んできている。


「ふははは! イケメン死ね!!!」


 コイツ本音を言いやがった!!!

 鬼のようなツラをした鬼による鬼のような連打が俺を襲う。

 手加減なしかよ!


「な! おま! ちょっと手加減しろ!」


 俺は抗議するが、吉田は鬼の形相のままだった。


「痩せたら美形(イケメン)になりましたってどこの漫画じゃい! 俺は! 俺は貴様が憎い!!! 俺はお前だけは許さない!!!」


 そこか!

 そこなのか!

 ただの僻みじゃねか!

 絶対この野郎に吠え面かかせてやる!


「おどりゃああああ! 死ねい!!!」


 スピードに馴れた俺が反撃に転じる。

 おそらく吉田と同じ動きをすれば、手が絡まることはないはずだ。


「フハハハ! 死ぬのは貴様だ!!!」


 吉田は俺の攻撃を受けきると、さらに別のコンビネーションで返す。

 いくつコンビネーションがありやがるんだ!

 今は剣だけのコンビネーションだが、じき打撃に投げ技に関節技も入ってくるだろう。

 動きに馴れた俺たちは全力で打ち合う。

 もちろんお互い殺すつもりでだ。

 木剣が折れ、破片が散る。

 俺は木剣を手放し、転がっていた別な木剣を拾う。

 吉田も同じように木剣を拾い持ち帰る。

 なんとなく間合いと戦闘理論はわかってきた。

 今度はさんざん地獄を味合わせてくれた目の前のロリコン野郎に復讐するチャンスだ!

 死ねい!!!


「ぬぐははははは!!! オラオラオラァッ!」


「無駄無駄無駄ァッ!」


 俺たちは激しい打ち合いを続けた。

 たぶんそのうちロードローラーが必要になるはずだ。


「……マジかよ。コイツら人間か?」


 打ち合いで壊れた木材の破片が飛び散る中、練習生の一人がつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ