美海
「君はいくつかな? そこの脱ぎ癖のあるド変態は17歳で本当だったら高校生……お前高校行けるくらい学力あったっけ?」
さすがに行けないほどは頭悪くないぞこのロリコン野郎。
「15歳……1年生の時にこの世界に来た……」
まじか!
この娘は中学生だったのか!!!
そして俺は理解した。
吉田は獲物を狙っているのだと。
なんて狡猾な。
俺はゴクリと息を呑んだ。
「そ、そうか」
「俺たち二人とそこのチンピラは日本人だ。俺は吉田。コイツの担任だ」
「私は細川。コイツのカノジョ」
「あ、ああ」
「俺たちは修学旅行で飛行機が落ちたと思ったらこの世界にいた。んでクズどもにセクション47で奴隷商に売られてね。それでいろいろあって奴隷から解放されたもんでこいつと俺を慕う仲間と一緒にかわいい俺の生徒達を探している」
まあなんてざっくりとした説明!
さりげなく俺の活躍は全部省略。
まるで善良な教師が生徒を助ける物語じゃないですか。
みなさんこれが汚い大人ですよ!
俺がよくDQNたちが言う「大人は汚い」を反芻していると、軍服の女性……軍服の少女は驚いたような声を上げた。
「修学旅行の事故! ……ミズキの仲間なのか!?」
「ミズキ! パソコン部の西原瑞希か!」
俺は声を上げた。
俺と同じ学内最底辺カースト。
派手な外見で社交的な細川とは対照的な大人しくてオドオドとした眼鏡っ娘……いわゆる地味子。
クラスのバカ寄りの女子に宿題をやらされてる可哀想な子だ。
ちなみに細川は夏休みの宿題を初日に終わらせる派なのでイジメには参加していない。
「やっぱり瑞希の仲間か! じゃあお前がタカムラか! クラスで一番の変人」
なぜみんな寄ってたかって俺に対する評価が辛口なんだろうか……
「西原はどこなんだ?」
「ミズキは情報端末のオペレーターだから街にいる。」
「そうか……」
俺はため息をつく。
西原が生きていることに安堵したのと、すぐに会えないことへの不満がない交ぜになったため息だった。
そんな俺に対して軍服の少女は急に態度が軟化していた。
自分から名乗る。
「私は佐々木だ……この砦の奴隷頭だ」
「名前は?」
「美海……」
ぼそっと美海が言った。
ほう……なんというDQNネーム。
俺と同じだ。
辛いよな。
なんか急に親近感湧いたぞ。
優しくしてやろう。
うん。
お兄さんぶって優しくしてやるのだ!
「うん。良い名前だ。こっちは高村陽炎くん。そこの女子は細川香織。俺は吉田先生だ」
勝手に名前まで教えるなこの野郎。
「っぷ! 陽炎(笑)」
美海は俺に向かって指をさしている。
プギャーってヤツだ。
前言撤回。
コイツ泣かす。
「みーうちゃん。なにガンくれてるんですかねえ?」
身長168センチの俺は完全に見上げる形だ。
か、悲しくなんてないからな!!!
悔しいからテメエの名前でからかってくれるわ!!!
みーうちゃん!
「カゲロウ。 っぷ!」
それは見事な「プギャー!」だった。
「てめえオドレコラァ!!!」
キレて襲いかかる俺。
「だからイジメカッコワルイ!!!」
「へぐあ!!!」
その俺の横っ面に吉田の裏拳が容赦なくめり込む。
悪いのは俺なのかああああああああああッ!!!
◇
手錠も外してもらった。
全裸防止のために普通の服にも着替えた……
ってなんで俺が全裸になるのが前提なんだよ!!!
気を取り直して俺たちは話し合いをする。
「医薬品が届かないのか……実は我々も食料を奪われる被害を受けていたのだ」
うわーお。
奇遇っすね。
なんて野暮な事は言わない。
食料や医薬品を奪っている何者かが、あの荒野にいるのは明らかだった。
「ありゃ盗賊か?」
「わからん……こちらも被害が出ているのだ」
「なるほどねえ」
俺は腕を組む。
納得したように装ったがやはりわからん。
なんだろうか。
この違和感は。
「ところでセクション46の街に行きたいんだが」
「現在封鎖中だ」
俺は困った。
もう調査は終わった。
俺たちの仕事は終わりだ。
盗賊をなんとかするのはセクション46の仕事だ。
次は仲間を助けるのが優先だ。
それに増援呼んで戦った方が効率的だろう。
「増援は?」
「来ない」
それは困った。
俺も鬼じゃない。
相手は生意気とはいえ同じ日本人。
できる限りは助けたいという気持ちはある。
だが、俺は吉田も含めて仲間の命に責任を持つ立場だ。
彼らに命を差し出せとは言えない。
「バッテリーパックはある?」
吉田が優しく聞いた。
こいつ変なものでも食ったのか?
「ある」
美海も俺と同じような顔したが素直に答える。
なんだろうね。
この待遇の差。
「手伝う」
は?
いやいやいやいや!
おかしいやろが!
「っちょ! おま!」
「理由はある。他のセクションもこの様だ。それにお前も違和感を感じてるだろ?」
「ああ。だがなぜかはわからん」
「よく考えてみろ。俺たちが見たこともないナノマシンの兵器。この世界でも一般的じゃない。何かと似てないか? 例えばお前の煉獄とか」
「……っちょっと待て! つまり……」
「男子の誰かだ。ハイパーヤンキー菊池くんの差し金だろうな。どうだ嬉しいだろ?」
「ああ! クッソ! そう来たか! なんでこんなにムキになって俺の邪魔しやがるんだ!」
俺は思わず声を上げた。
「なんだ……気づいてなかったのか?」
「は? わからねえよ」
「ハイパーヤンキー菊池くんはなあ。お前が怖かったんだよ」
「はい?」
俺が細川の方を見ると細川も「うんうん」と頷いていた。
おかしいだろが。
俺の記憶ではイジメを受けてたと思うのだが。
よく菊池の小判鮫どもに殴られたり、バカにされたり、無視されたりしたぞ。
「お前は殴っても蹴っても無視しても……どんなに追い込んでも野郎に服従しなかった。わかるか? 同級生で唯一、菊池の思うとおりにならないガキだったんだよお前は! 菊池は去り際にお前を殺すこともできた。だができなかった。『しなかった』ではなく『できなかった』だ。わかるか。あの野郎はお前に返り討ちにされる可能性があると思ったんだよ! お前にビビってたんだよ!!!」
吉田が熱弁を振るい、なぜか他の仲間まで「うんうん」と首を振っている。
なぜそこに共感する!?
まるで俺が危険人物みたいじゃないか!
失礼な!
なんだか納得がいかない。
ずいぶん被害が大きかった気がする。
確かに俺は菊池には直接殴られたことはない。
だいたい菊池は俺を山岸やら他の男子に殴らせていた。
もちろんその全てにパワー系バカでは思いつかないような陰険で笑える報復をかましたがな!!!
カウンセリングルーム直行クラスの特殊なエロ本を部室に隠してから匿名通報したりとかな!
「面白くなってきたぜ。相手は菊池の手下だ。お前も手を貸せ」
「えー……」
俺は嫌そうに言った。
だが俺も理解している。
セクション46の街に行くには野郎を倒す必要がある。
倒さなければならない相手だ。
「じゃあ俺と吉田だけな」
「水くさいっすよ。領主様」
そう言うと剣闘士の連中は俺の尻を蹴とばしやがった。
痛えだろが!
「うるせ! カゲロウちゃんが悪いんですよ。また責任とか面倒くさいこと考えてるんでしょ?」
「それが仕事だからな。ってお前ら名前で呼ぶのはヤメロ!!!」
「子どもは子どもらしく素直に大人に助けを求めることです。領主様」
反論する俺に騎士のオッサン達がバカ丁寧に失礼なことを言う。
なんだろうねえ。
この扱い。
「わかったよ! 死んでも文句言うなよ!」
こうして俺たちのあらたな作戦が始まろうとしていた。




