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蜘蛛

 キィイイイイイイイ!



 機械でも動物でもない。

 その中間。

 どこか機械のようでありながら生物的な金切り声。

 それが一斉に、複数、しかも全方面から聞こえてきた。

 同時になにかが走ってくる音、地響き、それが聞こえてきたのだ。


「な、なに!」


「タカムラ! 戻ってこい!」


 俺は吉田の指示通り、その場でターン。

 ローラーダッシュを最高速度にして線路を逆に走った。

 だがそれでも遅かった。

 それは蜘蛛だった。

 いや蜘蛛のようななにかだ。

 大きく不格好で攻撃的で狂った姿。

 一つ一つが俺のアゼルよりも一回り大きいのだ。

 その群れがギチギチと牙をならしながら進軍してきたのだ。


 蜘蛛のほとんどは遠くを走り去った列車を追いかけていく。

 だが少数の例外は別の得物を見つけた。

 ……俺だ。

 クッソ!

 数は5匹。

 5匹の蜘蛛は俺を猛烈な勢いで追いかけていく。

 俺は足の収納ボックスから銃を抜くと蜘蛛目がけて発砲した。

 本当だったら、両手で体の中心で構えて、グリップを……うんたらかんたら。

 完全にそれを俺は忘れて。片手で適当に撃鉄を起こし拳銃の引き金を引いた。

 俺も焦っていたのだ。

 実際の拳銃とは違う、青いマズルフラッシュ。

 光学兵器的なものなのか!

 射撃のヘタクソな俺にしては珍しく、銃弾は真っ直ぐ飛んだ。

 そのまま蜘蛛の体を銃弾が貫通し、衝撃で蜘蛛の1匹が吹き飛んだ。


 倒せる。

 少なくとも銃は有効だ。

 俺は少しだけ冷静になった。

 俺はボスチャットでサイガと吉田に呼びかけた。


「くっそ! 巨大な蜘蛛と交戦中。おい! コイツら中に入れたらマズイよな!?」


「いいから帰ってこい!!!」


 サイガが怒鳴った。

 いやでもこれマズイでしょ。

 俺はもう1匹に向かって引き金を引く。

 銃弾は逸れた。

 焦るな! もう一度!

 俺はさらに引き金を引く。

 これも蜘蛛には当らない。

 三発目でようやく当る。

 これで2匹。

 安心する暇はなかった。

 俺の右から蜘蛛が迫る。

 3匹目だ。

 俺は無我夢中で銃を乱射した。

 数発が命中、蜘蛛がミンチになる。

 別サイドから4匹目が俺に飛びかかった。

 俺は引き金を引く。

 だがカチっという音がしただけだった。

 弾切れだ!


 アゼルに蜘蛛が前足を振り下ろした。

 俺は慌てて空いてた左腕でブロックする。

 俺の腕に前足が突き刺さり、貫通する。


 痛ってー!!!


 俺の腕からシャレにならない痛みがフィードバックとして返ってきた。

 肉を鋭利なものが貫通した痛み。

 こんなシャレにならないのか!

 俺は涙目で右手に持っていた拳銃の撃鉄を振り下ろす。

 一撃で蜘蛛の頭がヘコむが、それでも蜘蛛は動くのをやめない。

 蜘蛛は俺を仕留めようとさらに前足を振り下ろす。


 させるか!!!


 俺は蜘蛛のサイドへ回り込み体を転換する。

 それまで俺を押し込んでいた蜘蛛がバランスを崩す。

 それと同時に俺は前足の刺さった左腕を思いっきり振った。

 アゼルの腕から足が抜け、バランスを崩した蜘蛛が地面に叩きつけられる。

 俺はすかさずジャンプし蜘蛛の頭を踏みつけた。

 びちゃっという卵を割るような気持ちの悪い感触。

 蜘蛛は潰れてもまだピクピクと動いていた。


 もう1匹!

 後ろだ!

 俺は裏拳、バックハンドブローを放った。

 回転し自分の後方を殴りつける。

 ビリビリという震動が拳に伝わる。

 手応えがあった!

 やはり蜘蛛は後ろにいた!

 俺の拳を受けた蜘蛛がよろける。

 俺はそのまま流れる動きで短剣を抜く。

 ……痛い方の左手で。

 そしてもう一度回転、蜘蛛の頭めがけてレイブレードを突き刺した。


 パンッ。

 破裂音。

 蜘蛛の外骨格が弾け飛んだ。

 中から液状になった肉が飛散する。

 うわばっちい!!!

 どうやら光学兵器が弱点のようだ。

 覚えておこう。


 5匹を倒した俺は息を吐いた。

 そして冷や汗を流した。


 ヤバいよ!

 ヤバいよ!

 死ぬ!

 マジで死ぬ!

 対人戦しか経験してない俺はさすがに焦っていた。

 俺は心なしかヨロヨロとしていた。

 うん帰ろう。

 こういうときは家に帰って布団に入ってふて寝しよう。

 それが一番だ。

 俺はおうちに帰ることに決めた。


 ……だがそれは甘かった。

 ヤツらは集団で狩りをする。

 トンネル近くまで来た俺の耳に地響きが聞こえる。


 来やがった!


 その数、目視で100以上。

 大量の蜘蛛が俺に向かってきていた。


「っちょ! 蜘蛛が100匹以上来ている!」


「早く逃げろ馬鹿野郎!!!」


 珍しくサイガが焦った声を出す。

 俺はローラーダッシュでトンネルに急いだ。

 だが蜘蛛の機動力は俺の予想を上回っていた。

 蜘蛛が移動する耳障りな音がどんどん大きくなる。

 俺のすぐ後ろまでヤツらの鋭い前足が肉薄していた。


 ああああああああああ!

 こんなところで死んでたまるか!!!


 俺は生きねばならんのだ!


 その時だった。

 俺の腕のタトゥー。

 『煉獄』が赤く、全てを焼き尽くす業火のように光った。

 俺はその瞬間、煉獄の使い方を理解した。

 それは、まるではじめて自転車に乗った時のようだった。


「煉獄よ! 焼き尽くせ!!!」


 俺がそう叫ぶと炎が場を飲み込んだ。

 それは山岸よりも速く、大きく、全てを焼き尽くすほどに熱かった。

 山岸の本気、その数倍の炎。

 炎は柱になりが空高く舞い上がる。

 火災旋風。

 猛烈な温度で発生した上昇気流によって炎を纏った竜巻が蜘蛛どもを飲み込んでいく。

 飲み込まれた蜘蛛は一瞬で消し炭になるのが見えた。


 誰だ! 煉獄を『使えない』って言ってたドアホは!!!

 俺に謝れ!!!

 あ、俺か。

 こんな恐ろしいものを山岸は他人様に向けていたのか!

 マジでバカじゃねえの!!!


 俺は心の中で八つ当たりしながら、なんとかトンネルに転がり込んだ。

 俺は火災旋風から生き残った蜘蛛がトンネルに入ってくるんじゃないかと短剣を抜いて待ち構えた。

 だが蜘蛛はトンネルの前に来ると、そこで残念そうにギチギチと顎を鳴らしてウロウロしていた。

 やつらは何らかの理由でトンネルに入れない。

 俺はそれに気づいた。

 暗いところがダメなのか?

 それとも入らないのか?


「吉田、サイガ、人手が必要だ。外はヤバい……装備も人手も足りない」


 俺はそう言うとセクション47へ逃げ帰った。

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