偵察
俺たちは駅、他のセクションとセクション47を繋ぐ貨物列車の駅に着ていた。
今回のミッションはセクション46の偵察。
とりあえず駅から続くトンネルを抜けたら帰ってくるというミッションだ。
なんたって領主自らが単騎で偵察任務だ。
かなりクレイジーな計画である。
だが当たり前だ。
仲間を取り戻すのは俺と吉田の個人的な計画だ。
個人の思いに他人の命を使うのは筋が通らない。
だから俺は自分の命を使うことにしたのだ。
責任?
なあに俺がくたばってもサイガが上手いことやるさ。
とは言っても今回のはたいしたことをする訳ではない。
ちょっと外を見てくるだけだ。
いきなりは危険なことはしないって。
俺は誰に言い訳してるのかわからないことを心の中で反芻しながら、スーツの留め具をつけた。
出撃の時が迫っていた。
よっし!
行くぜ!!!
俺は両手で顔を叩いた。
気合を入れるのだ。
そんな俺にサイガが言った。
「いいかタカムラ。週に一度無人の貨物列車が来る。そこに荷を……この場合は奴隷とかの人間もだが、それを積み込むのがセクション47、農業区画の役割だ。それ以外でゲートを使うのは許されない。他のセクションへの立ち入りは原則禁止だ」
今回の計画では反対する立場だ。
だがサイガは妙にこのミッションへ協力的だ。
なにかあるのだろうか?
まあいいや。
サイガの利益になることは基本的には俺の利益になるはずだ。
ちまちま考えるのはよそう。
疲れるだけだ。
それに俺はサイガを信用している。
俺は約束を守るヤツは信用することにしてるのだ。
さて、今のサイガの言葉に「原則」という言葉が出てきた。
もちろん原則には例外がある。
例外とは菊池一行、男子生徒たちだ。
やつらは領主を殺害後、新たな領主を置きセクション47を後にした。
おそらく男子生徒たちへは元の世界への帰還を餌に使ったのだろう。
愚かで使えない山岸は置き去り、というわけだ。
マジでクズだなあいつら。
俺は自分よりも最低な存在がいることに安堵した。
人間は自分よりクズがいると安心するものだ。
俺は暖かい眼差しをした。
「貨物列車が着たぞ……」
そう言うと俺たちの前にあった壁……いや、やたら巨大な門が、これまた重量感のある巨大な動作音を奏でながら上へ動き始めた。
開いた門の下をアゼルを何体も運べそうな巨大な列車がゆっくりと走ってくる。
おそらく貨物列車というやつなのだろう。
貨物列車の前には巨大な線路があり、その道はトンネルの先へ続いていた。
列車に作業員が荷物を積み込んでいく。
「運転手は?」
「いない。発車から停車、全て自動制御だ。俺たちがするのは門の開閉と荷の積み降ろしだけだ」
「その作業に疑問を持たないのか?」
「代金は振り込み。荷物はかならず到着する。いちゃもんを付ける余地はないね」
サイガはやれやれといった様子だ。
疑問を持ってもなにもできないという意味だろうか?
この世界は相変わらず理解できん。
文化が違う。
俺が呆れているとサイガがにへらっと笑い、つい今しがた自分で言ったことを否定しはじめた。
「……ところがだ。山岸のめちゃくちゃにした帳簿によるとだ。ここ一年は荷物の到着が遅れている」
「どんな荷物だ?」
「主に医薬品だ。それに工具とかのここで生産してない品々だな。おかげでセクション47は物資不足寸前だぜ」
なるほど。
本来、サイガはこの計画は手伝う必要はない。
だが、物資不足となれば調査の必要があるだろう。
「なるほど。そうなると作業員から脱走者は出ないのか? 他のセクションへ物資を仕入れに行こうとするとか?」
今のうちに仕入れて大もうけ。
そう考えるヤツは必ずいるはずだ。
「出てるぜ。数人な……」
「どうなったんだ?」
俺が聞くとサイガがニヤニヤと皮肉っぽく笑った。
「他のセクションってのはさぞいい所なんだろうな。帰ってきたヤツはいないぜ」
あの世から帰ってきたヤツはいない。
だからあの世ってのはいい所なんだろうなあ。
HAHAHAHA!
な、わけねえだろが!!!
完全にあやしいじゃねえか!
「っちょ! おま、先に言え!」
「大丈夫だって。今回は出てちょっと見てくるだけだろ? トンネル内の監視カメラにもなにも映ってねえよ! いいかトンネル出たらすぐに戻れ。そこまでは監視カメラで安全を確認してるからな。トンネルの外を見てくる。これが目的だ。わかるな?」
「了解……んじゃ偵察行ってくるわ」
そう言うと俺はアゼルに乗り込んだ。
俺がアゼルに乗り込みしばらくすると門が開いた。
列車が走り出した。
俺はローラーダッシュで列車の脇を走る。
門の外はしばらくはトンネルが続く。
どうやらセクション47は地下のようだ。
とりあえず計画ではトンネルを抜ける予定だ。
で、外を少し見たら引き返す。
わりとチキンな計画だ。
しばらく走ると向かう先に光が見えた。
外……なのか?!
俺は不覚にも素直に喜んでしまった。
セクション47と同じように延々と屋内が続いているという可能性もあるのだ。
勝手に期待して裏切られたと憤慨する。
それだけは避けるべきなのだ……
最後に残ったプライドのために……だが。
トンネルの出口を抜ける。
大量の光が俺を出迎えた。
二年ぶりの太陽だ!
光だ!
俺は感動で打ち震えた。
どうやら俺は太陽が見たかったようだ。
外を見るのは二年ぶり。
俺はすっかり自然の光が恋しくなっていたのだ。
「吉田! サイガ! 太陽だ! 外だ!!!」
俺の声は弾んでいた。
やっほー!
これでビタミンDの錠剤とはおさらばだぜ!!!
調子に乗った俺が外へ躍り出る。
乾いた地面。
乾いた風。
そこは一面続く荒野だった。
草木もまばら……いや全くなく乾いた土地だった。
でも俺は嬉しかった。
だって外なのだ!
「おうよ。タカムラ気をつけろ」
俺が喜んでいると通信が入る。
吉田のいやに真面目な声だった。
「気をつける? なにを?」
「ああ、よく考えろ。ゴツイ門。やたら装甲が厚い巨大な列車。帰ってこない兵士。門が守ってるのは外の人間か? それとも中の人間か?」
ん?
「吉田。どういう意味よ?」
「俺にもまだわからん」
俺は最初、意味がわからなかった。
俺は考えながら辺りを見回した。
だが、すぐに理解することになる。
それは次の瞬間起こったのだ。




