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剣闘奴隷タカムラ 2

「おおっと! 黒騎士せっかくのチャンスをふいにした! 相手を愚弄するつもりか!!! やはりクソ野郎です!!!」


 ジェイソンが俺を罵倒する。

 うるせええええええ!

 そんなつもりはねえ!

 お前らの脳みその方がおかしんじゃボケェッ!

 ジェイソンの野郎ぉッ!

 ……後で事務局にピンポンダッシュしてやる!

 してやるからな!!!


「ざけんな! 黒騎士!!!」


「死ね! クソ野郎!」


「ぶっ殺すぞ!!!」


 ジェイソンの罵倒をきっかけとして、観客たちは好き勝手に罵声を浴びせ、紙くずや食べ物といったゴミをコロシアムに投げ入れる。

 ヒャッハー!

 ジェイソンがやったらから俺たちもイジメに加わるぜ!

 中学生かテメエらは。

 あ、そうか。

 世の中全部が中学校みたいなもんなのか。

 ははは。

 ちょっと世の中ってヤツに期待しすぎてたみたいだな。

 いいぜ。

 いくらでも嫌え。

 その代わりてめえらの言うことなんて聞いてやらねえ。


 俺の周囲は敵だらけ。

 それが黒騎士、つまり俺の立ち位置ってヤツだ。


 俺がここまで嫌われてる理由。

 それは単純だ。

 俺は相手にトドメを刺さない。

 一度も対戦相手を殺したことがない。

 『殺サズ』なんて高尚なものじゃない。

 ただ単に殺す根性がないだけだ。

 日本では殺人は最大の禁忌だ。

 そのせいか、どうにもガキの頃からすり込まれた日本人的な倫理観を越えることができないのだ。

 それが観客はお気に召さないらしい。

 てめえらもつい二年前からだろうが、血の味を覚えたのは。

 浅い文化を押しつけやがってこのボケどもが!


 と、自己を正当化したが、あー……、あともう一つ、俺が嫌われてるのには別な理由がある。


 俺がトドメを刺す気がないのを察したのだろう、相手は起き上がってきた。

 そのまま片手で拳を振りあげる。

 俺を殴りつける気だ。

 片足ぶっ壊れてるのにな!

 勝利のためならどんな手も使う。

 絶対にあきらめない。

 俺はこういうヤツは嫌いじゃない。

 だから……



 ヒャッハー!!!

 卑怯な手を使ってやるぜ!!!



 実はあらかじめ俺は、床目がけてドンと強く足を踏みしめていた。

 俺の足元には床の破片が落ちている。

 俺はその床の破片を相手の顔目がけて蹴る。

 相手は突如目の前に現れた破片に一瞬動きが止まる。

 もう一つの嫌われてる理由。

 それはこの卑怯な喧嘩殺法だ。


「っちょ! 目つぶしかよ! お前セコすぎんだろ!」


 るせー!!!

 素でツッコむんじゃねえ!!!


 目つぶしで作った一瞬の隙。

 その間に俺は持っていた剣を放り捨て、猛然と相手に向かい駆けた。

 足の回転を上げる。

 アゼルにある全身の人工筋肉を全て使うかのように。

 トップスピードになると同時に俺は全身のバネを使い跳ぶ。

 そして相手の頭を掴み、その頭部へ向かって。


 飛びヒザ蹴りをかました。


 膝蹴りが顔面ごと顎を打ち抜く。

 衝撃で頭部が揺れ、相手のセンサーがエラーを吐く。

 エラーを読み取った生命維持装置がメインコンピューターと操縦者とのリンクを切断。

 頭部カメラはブラックアウト。

 メインコンピューターとの再リンクまでコントロール不能に陥る。

 コントロール不能になった巨人は前のめりに崩れ落ちていく。

 要するにKOだ。

 だがこのままだとトドメを刺すことを強要されてしまう。

 だから……


 俺は力を失った相手の頭部を掴むと、己の腕を振りかぶり、


 倒れゆく巨人の後頭部へその鉄槌を振り下ろした。


 力を失った首がひしゃげる音が響く。

 はい。

 これで完全に戦闘不能。

 アゼルの首の骨は折ったが、すでに安全装置が作動してアゼルと切り離されたパイロットにはフィードバックは届かない。

 それに万が一、リンクが切り離されていなくてもアゼルの頭部か頸部を破壊すれば、安全装置が働きパイロットは死なない。

 俺はそれをこの二年間で学んだ。

 ルール的にはトドメを刺したので試合終了。

 なにもコックピットのある胸に一撃を加えてパイロットを殺す必要はない。

 観客がそれを望んでいたとしても叶えてやる義務はない。

 何か文句ある?

 俺が開き直って胸を張ると毎回好例のアレがはじまる。


 それは俺の勝利が決まった瞬間に起こった。

 一瞬の静寂。

 そして歓声とその何倍ものブーイング。

 さっきの「オラオラ、トドメ刺せよ!」ってのじゃない。

 いじめられっ子をはやし立てる罵声ではなく、いじめられっ子をホームルームで糾弾する声。

 「ふざけんなこの豚野郎!!!」っていう罵声だ。


「またもや黒騎士の勝利です!!! 相変わらず美しくなーい!!!」


 司会が俺の勝利をアナウンスした。

 更にブーイングが激しくなる。

 俺はブーイングに無視を決め込みガッツポーズをする。


 すると俺にバカにされたとでも思ったのか客が一斉に叫ぶ。

 またもやあの鬱陶しい殺せコールだ。

 先ほどの殺せコールとは違う。

 俺を殺せって意味だ。


「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」


「うぜえ……」


 俺はつぶやいた。

 少し怒っている。

 俺はこの展開に辟易している。

 そもそも、この世界の連中は元はこんなに血を見たがっていなかったらしい。

 ちょうど2年前、新しい領主が現れてから闘技場は過激さ、敗者の死の演出をするようになったのだ。

 俺はこういうの嫌いだね。

 バカじゃねえの。

 テメエらが殺し合え。

 このボケどもが!

 だんだん名状しがたい怒りがこみ上げ……一言で言うとムカついた俺は観客席へ中指を立てる。

 ファックサインだ。

 するとさらに怒りに火がついた観客がコロシアムにゴミを一斉に投げ込む。

 先ほどのゴミの投げ込みではない。

 本気でゴミを投げ込んでくる。

 ビンや石まで投げ込んで来やがる。

 俺はそのゴミに俺に向かう悪意を全力で感じていた。

 周囲全方面を集団に囲まれて遠くからものを投げられるのって精神的に来るものがあるよね。

 なんだろうこの圧倒的絶望感。

 まるで末期のイジメみたい。

 あはは。

 おかしいよね!


 クッソ!

 ま、負けないんだからね!


 俺はもう片方の手でもファックサイン。

 テレビ中継のカメラを見つけたので両手を向ける。

 これで夕方のニュースでモザイク付きで放送されるだろう。

 アゼルに乗っていなかったらエ○ちゃんの真似をして全裸で踊って放送事故を起こしてやるところだ。

 実際やってジェイソンの番組で放送事故を起こしたので俺はテレビ局に出入禁止だ。

 ざまあッ!!!


 調子に乗った俺はさらに観客を挑発する。

 オラオラ!

 腰をフリフリ。

 お尻ペンペン!

 バーカバーカ!!!

 股間ペンペン!!!

 俺の下ネタ力を侮るんじゃねえ!!!

 うひゃひゃひゃひゃ!!!


「く、黒騎士をつまみ出せええええええぇぇぇッ!!!」


 ジェイソンの声が響いた。

 そういうわけで俺はさんざん挑発をするとコロシアムをつまみ出された。

 こうして毎回全方面に喧嘩を売って俺の戦いは終わるのだ。

 どうやら今日も俺は命を繋ぐことができたようだ。

 血を見たがる観客のせいでパイロットの死亡率はバカにならない。

 わりと死ぬ。

 簡単に死ぬ。

 その点俺は、斬れない剣に、素手での打撃に、関節技で戦っているので相手は死なない。

 殺しもしない。

 日本のプロレス団体も言ってただろ?

 「明るく、楽しく、そして激しく」ってさ。

 ウケケ!

 テメエらの言いなりになってたまるかよ!

 俺は絶対に生き残ってやる!

 生き残ってあいつらを助けるんだ!!!

 俺は心に誓っているのだ。

 ぶっ殺す相手はもう決めてあるからな。

 今俺がいるのは闘技場。

 そして俺の今の身分は剣闘奴隷。

 ここで闘うのが仕事だった。

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