表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/41

領主交替

 ロッカールーム、そこには吉田が待っていた。

 俺は煉獄を見せることにした。


「煉獄ってのは、地獄と天国の中間にある魂を炎で浄化する場所のことだ」


 俺の暴れたあとが点々と残るロッカールーム。

 その真ん中で吉田がどや顔で言った。

 教師補正で頭よさそうに見えるぞ!


「つまりだ。腕の文字の意味は『神に代わって悪を清める炎』って意味だ」


「ずいぶん上から目線だな」


「だな。そしてだな……もしかすると……」


 吉田は顎に手を当てて考え込んでいた。


「なんだよ?」


「いやな……山岸は不器用かつ幼稚で頭が悪い。一つの試合で上手く行った手を死ぬまで使い続けるはずだ。だからアイツはいつまでも補欠だった」


「つまり?」


「一種類しか知らなかったんじゃないか? 煉獄の使い方を……」


「煉獄はもっと深い使い道があるということか?」


「ああ」


 ありえる。

 大いにありえる。

 問題はどうやって訓練するかだな。

 それにしても……


「死体蹴りは品が良くないぞ」


 俺がそう言うと吉田が頭をかいた。


「……俺も反省してるんだ。俺が思っているよりお前はお人好しだったらしい。それが正解かどうかは俺にもわからんがな。だが……」


「だが?」


「山岸は俺が思っているより何倍もガキだった。現実を理解しようとせず、プライドだけが肥大した15歳のガキのまんまだった。俺はお前に土下座して許しを請うて終わりだと思っていた。それを見たお前がどうするか? それでお前の元を去るかどうか決めようと思ってた」


「俺は試されてたのか……」


「人生は全てが試練だ。試してるのが神なのか、他人なのかは別としてだがな」


「それで俺は合格か?」


「そうだな。ヤツを許そうとしたのは褒めてやる。不合格は俺の方だ」


 そう言うと吉田は苦みのある笑顔を俺に向けた。

 吉田の野郎、嫌なツラしてやがる。

 まるで奥歯を抜いたような顔だ。


「それは自分に言ってるのか?」


「ああそうだよ。俺は落第だ。どうやら俺は自分が思ってたよりも教師には向いてなかったみたいだ。教え子が愚かさの果てに死ぬなんてな」


「別に山岸が死んだのはお前のせいじゃないだろ?」


「いいや、教え子どうしが本当に殺し合いをするとは思ってなかったのさ。観客を燃やして騎士を殺すところを見たにもかかわらずな」


 それは確かに甘い。

 あまり褒められたものではない。

 山岸がそんな高等な生物なわけないじゃん。


「……この世の関節が外れているってやつだ。ホレイショー」


「……あれかマイアミの刑事か? 『このウジ虫めっ!』って言うヤツ」


「うわああああああああん! もう一人の教え子もバカだった!!!」


 吉田が号泣した。

 泣くことねえだろ。


「泣くなよ。知ってるよ! ハムレットだろ」


 ああクッソめんどくせえ。

 ギャグも通じねえでやんの。



 俺たちがロッカールームを出ようとすると、あの野郎がいやがった。

 サイガだ。

 俺たちの奴隷登録抹消の話だろう。

 野郎が俺たちと手を組んだ理由はわかっている。

 だがそれは俺たちには関係ない。

 もし断ったらこの場で生まれてきたことを後悔させてやる!


 だが野郎の次の行動は俺の予想を完全に上回っていた。

 サイガは俺に跪いたいたのだ。


「なんだそれは?」


 不機嫌な俺にサイガは俺に顔を上げず話し始めた。


「タカムラ卿。御身は先代領主の長男であります」


 うん。知ってた。

 だからどうした。

 つか『卿』ってなんだ?

 俺は情報の詰め込みすぎで呆けた。

 ところが、俺が呆けているとサイガはとんでもないことを言ったのだ。


「新たな領主となったタカムラ様に忠誠をお誓い申し上げます」


「はい? 誰が?」


 俺が聞くとサイガの野郎は俺を指さしやがった。

 え? 俺が領主?


「聞いてねえぞテメエ!」


 いや、予想はしていた。

 ほら、山岸のバカ見ればわかるじゃん。

 だがマジで来やがった!

 マジで来やがったのだ!


「よ、吉田!」


 そうだ吉田に丸投げしよう。

 大人だから俺より上手くやるに違いない。


「無理ッ!」


「お前大人だろうが!!!」


「無茶言うな! 俺は教師だぞ! 大学時代も予備校講師やってたからコンビニバイトすらしたことないわ!!!」


「いーばーるーなー!!!」


 醜いつかみ合いをする俺たち。

 無理だって!

 俺はこの二年間喧嘩しかしてねえんだぞ!

 そして俺たちは目で……アイコンタクトで語り合った。

 そうだ!

 サイガに丸投げしようと。


「サイガ……丸投げOK?」


 一応聞いてみる。


「もちろんですよ。タカムラ卿」


 そう言ってサイガはへらへら笑う。

 この野郎!

 最初からそう言われるのわかってやがったな。

 かと言ってサイガに丸投げすること自体には異論はない。

 俺はしかたなく別の苛立つ原因を指摘することにした。


「気持ち悪いからいつものようにしろ!」


「はいはい。了解ですだ旦那様あーっと。話がまとまったところで紹介したい人物がいる」


 やはりサイガはいきなり態度を変えやがった。

 俺がそう言い出すのも予想の範囲内ってことだな。

 それにしても、サイガは俺を領主にしてどうするつもりだ?

 自分が成り代わるのか?

 あとでいろいろと尋問しなければ。

 頭がくらくらする。

 今日はいろいろありすぎだ!

 俺たちはサイガのあとをついていったのだった。

夜にもう一話投稿します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ