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「まったく」
白い光の、一粒すらも消えてから。
長く吐いたため息に乗せるようにして、スプートニクはぽつりと言った。
――まったく。その呆れは人の心中も知らず阿呆のように眠る従業員へのものか、それとも神出鬼没な変態へのものか、そこはスプートニクにも計り兼ねたが、実際どっちでも良かった。だからどちらかというよりは、どちらに対してもの感情であったのだろう。そう結論づけると、非常にあっさりと腑に落ちた。
受け取った冊子とクリューのための書籍を揃えて重ね、ベッドの向こう、揺れないカーテンに視線をやる。さて、朝までどれくらい眠れるだろう。夜が明けるまでにはまだ結構な時間がありそうだったが、正確な時刻はわからない。
さりとて時計を確かめるのも億劫だった。なお拘束されたままの手を大義名分に、ベッドの空いたところへ転がる。揺れを感じ取ったせいか、クリューが、ふぇ、と意味のないことを呟いた。
寝ぼけた声につられて、欠伸が一つ漏れた。滲んだ視界の中に、幾人かの顔が浮かんで消える。その幻へ、スプートニクはぼそりと毒づいた。
「どいつもこいつも、勝手なことを」
犬屋は相手もいない自分に「結婚はいいものだ」と抜かし、商会の彼女は時間のない自分に「早く報告に来い」と急かし、あの変態はただの人間に過ぎない自分に「魔法使いに気をつけろ」と言う。
そして極め付きは、この馬鹿だ。
何もわかっていない子供のくせに、自分では何を解決することも出来ないくせに、勝手に思考を巡らしては迷い、戸惑い、悩んでいる。そのくせ無自覚に沢山の面倒事を引っ張ってきては、こちらをあれやこれやと奔走させる。
――けれど。
何とはなしに、眠る彼女の頬を指で押す。夢が面白い展開を迎えたのか、むふむふと笑うクリューに、つられてつい笑みが湧いた。
仕方がないのだ。これは元々、そういう子供だった。見るものすべてに怯え、恐れ、一人で立つことも、何処かに行くことも出来ない臆病な子供。それを守ってやろうと決め、『約束』をしたのは他でもない自分だ。
そういう自分を、例の顧客は『過保護な彼氏』と批評した。恋仲というのは言いすぎだ、しかしながら。
睡魔にやられた頭の中で、スプートニクは考える。
自分の言動、行動、そして現状を顧みて、
「これじゃァ、……まったく」
過保護な父親という呼び方がひどく適切な気がして、彼は小さく笑みを浮かべた。




