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宝石吐きの女の子  作者: なみあと
ⅩⅤ 宝石吐きの女の子
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 進学したい。

 そうスプートニクに告白したときのクリューはひどく思いつめたような顔をしていたが、一方でスプートニクは、遅かれ早かれ彼女はそう言い出すだろうと、心のどこかで確信めいたものをずっと感じていた。

 だから、そう言い出したときもスプートニクは驚かなかったし、むしろ、ようやく言ったかと、背負っていた重荷を下ろしたような感覚すらした。

「が、学費は、うーちゃんを質に入れても」

「またそれか」

 質草にしたところでたかが知れているというのに。

 そしてクリューは、リアフィアット市が嫌いになったわけではない、としつこいくらいに話した。できるならばずっとこの街にいたい、でも――と。

 その気持ちはわかる。この街は、悪い場所ではない。ただ、彼女は、ここで暮らしているだけでは得られないものを、もっと多くのものを知りたいと感じたのだろう。

 かつて家を飛び出したスプートニクも、エルキュール宝石学校に就学し、卒業後は宝石商としてあちこちを旅して、いろいろなものを知り、出会い、その結果、リアフィアット市に根を下ろして商売することを決めた。それと同じことだ。それだけのことだ。

 ただ、一点、違うところがあるとすれば――

「大丈夫。お前の好きにやれ」

 クリューには、背を押す人間がいるということくらいか。

 だからそう答えると、彼女は安心したように「はい」と言った。




 クリューは進学先に、エルキュール宝石学校を選んだ。

 スプートニクは彼女へ、他にも学校はあるということを教えるために何冊かのパンフレットを集め、見せてみたが「エルキュール宝石学校に通いたいんです」と譲らなかった。

「体験学校で、授業の内容とか、施設とか、あと先生のお人柄とかを知って、あの学校で、たくさんのことを学びたいと思いました」

「そうか」

 面接試験で志望動機を聞かれたのなら、満点の回答だが。

「だけどこっちの学校の制服の方が、お前の好みに近いんじゃないか」

「あっ、確かに……」

 修学内容とは別のところであっさり揺らいでいたが、結論は変わらなかった。

 ともあれ、それが自分の意思なのであれば、進路選択に関してスプートニクから言うことは特になかった。

 エルキュール宝石学校には宝石商としての知識や宝石加工の技術など専門分野のみに絞って習得する専門コースと、語学や数学といった基礎学力を含む幅広い知識を学ぶ一般コースがある。クリューは後者の入学を目指すことにした。

 入学試験には、面接試験と筆記試験を合格することが必要になる。とはいえ一般コースの受験生は皆クリューとさほど年齢が変わらないような子供ばかりだから、裏を返せば試験もその程度のものだということらしい。

 などなど。このあたりの情報は、クリューが進学を希望していると関係各位に相談したとき、クルーロルから聞いたものだ。

 クリューが進学をしたいと言い出したとき、スプートニクはまずクルーロルとユキに報告し、数日後、ユキの魔法によって関係者が一堂に集められて話し合いが行われた。「どうして毎度、私の屋敷を集会所として使う」とクルーロルは不満げだったが、他に適切な場所が思いつかなかったのだから仕方ない。

 魔法使いアンゼリカとダニエルは「あの子も大きくなって……」と感慨深げに呟き「あの子が望むようにさせてあげてください」と深く頭を下げた。ユキは「緊急時の情報伝達は任せて!」と胸を張り、クルーロルも「ヴィーアルトン市滞在時は力になろう」と喜んで援助を申し出てくれた。ソアランは(むせ)び泣くばかりだったので放置した。

 クルーロル曰く「エルキュール宝石学校の受験制度は、妙な人間が入学しないための、言わばチェックのようなものだ」とのこと。

「妙な人間?」

「勿論、試験結果は、入学後のクラス分けの参考にも使われるが……この学校に、宝石商の縁者が多くいるのはお前も知っているだろう」

「ま、そうですね」

「それに上手いこと近づいて悪いことをしてやろうと考える奴や、そういった人間に唆され、あるいは指示されて入学を目指す奴もいる。そういう人間の入学を防ぐために、入学試験という名のフィルターを作っている」

「じゃ、ごく一般的な宝石店の従業員であるクーは問題なさそうですね」

「お前はくれぐれも、入学願書の保護者欄に本名を書くなよ」

 学生時代の自分はそこまで素行不良だったろうか。だったかもしれない。

 というわけで、試験自体はいずれも一通り問題集を読んでいれば間違いようのない問題や質問ばかりだが、真面目なクリューは受験勉強に余念がない。わからないところがあるとスプートニクのところに質問に来たが、そのたび「ペン転がして適当に書いときゃ当たる」と答えてぷんぷん怒られた。

 ただ、大声を出すこと自体がストレス発散になっていたのと、「スプートニクさんでもわからない問題なら出ませんね」と一人納得することで、安心していたようだった。

 また、街には息抜きに連れ出してくれる友達もいる。悩み過ぎると奇行に走る癖のある娘だから、そういう意味では安心して彼女の受験生生活を見守ることができた。

 エルキュール宝石学校の新入生受け入れは、春入学と秋入学、年二回ある。クリューは体験学校からちょうど一年後の、春入学を目指した。春入学の願書は前年の秋頃に提出を受け付け、試験は冬に行われる。

 クリューは、同じくエルキュール宝石学校への春入学を目指すヴィーアルトン市の友達リーエと、よく手紙のやりとりをした。情報交換し、励まし合い、たまに季節の品を送り合った。

 スプートニクたち関係者は、合格後の入学手続きについて何度か話し合った。最も話し合いに時間がかかったのは学費や制服代など、金銭面でのことだ。

 全員とも資金には余裕があるので、誰もが「自分が出す」と言って譲らなかったが、主な学費を保護者スプートニクが、制服代をアンゼリカ夫妻が、ヴィーアルトン市内での緊急連絡先をクルーロルが、そして不測の事態における連絡手段をユキが担当することで合意とした。ソアランは咽び泣くばかりだったので放置した。



     *



 そうして、時は流れ。



 スプートニク宝石店の営業も滞りなく、魔法使いの世界事情も穏やかに巡り。

 やがてリアフィアット市にも雪が降り、雪が積もり、そしてその雪が解けてきた頃――



 スプートニク宝石店に、合格通知が届いた。


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