1
目が合った瞬間、彼女は相手よりも早く、朝の挨拶を口にした。
「おはようございます」
職場のエントランスで出会ったのは、総務の顔見知り。それほど仕事で接点があるわけではないけれど、名すら知らないというほどの関係ではなく、顔を合わせば挨拶くらいはする程度の間柄だ。
陰気でなく、けれど特筆すべきほど陽気でもなく。けれど楚々という言葉が似合うほどには可憐ではない。そういうありふれた笑顔を作ってみせると、相手もまた笑った。
「おはよう。……ああ、そうだ、ユキさん」
「はい?」
ユキ。今の自分の名前である。
なんでしょう、と尋ねる間もなく、相手は抱えた書類の山から何か一枚を取り出して、ユキに渡した。
「手紙が届いてたよ。今ちょうど、届けに行こうとしていたところで」
「ありがとうございます」
礼を言い受け取って、柔らかな笑顔のままで観察力だけを引き上げる。封筒の表書きに踊るのは見慣れた筆跡。郵便物自体に妙なところは、――ない。
先日『贈った』ものへの礼かと思ったが、赤字で『速達』と書かれているあたり、そんな悠長なものではらしい。そしてあれが表書きにそう記すときは、大抵が決まっている。
「……今度は何、やらかしたんだか」
「ん? ごめん、何か言った?」
「いえ」
まったく手のかかる弟だ。つい漏れた本音を、一段階高い声で誤魔化して笑う。もう一度礼を伝えて背を向け、ポケットからペーパーカッターを取り出すと封筒に差し入れた。中を見れば便せん一枚、そこには簡単な時節の挨拶と、それから。
「ふうん?」
ついうっかり本性の滲んだ口元を、そっと便箋で隠した。
封筒の裏側、発信者として記された名前は――
――リアフィアット市は大陸東部に位置する、ルカー街道の宿場町として栄えた中程度の街である。
年間を通して温暖な気候から、多種多様な果物・花卉の産地としても知られているその街は、魔女協会の支部こそないけれど警察局の治安維持活動は非常に優秀で、未解決の事件はゼロに等しく、とても暮らしやすい土地だ。
そんな街の片隅に、店員二名の小さな宝石店があった。――『スプートニク宝石店』。
お久しぶりです。本業やらの別件であわただしくしていて、一ヶ月ぶりになってしまいました。
その間も、お気に入り、評価等、お気にかけていただきありがとうございました。またのんびり書いていきたいと思いますので、お付き合いいただければ嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




