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おとぎ話シリーズ

魔女婆さんとお菓子の家

作者: ワルツ

むかしむかし、魔女のお婆さんが居ました。

魔女のお婆さんはとても食いしん坊で、小さな子供を捕まえて食べるのが大好きでした。

でもお婆さんの鼻はひん曲がっていて、目は細く、顔はシワとイボだらけ。

とっても怖い顔の魔女に子供は近づいてきてくれません。


どうしたら美味しい子供がやってきてくれるだろう。そこでお婆さんは子供達が大好きなお菓子で家を作ってみました。

壁は黄金色のクッキー、屋根は艶めくチョコレート。窓ガラスは飴でできていて、煙突からは綿飴の煙が出ます。

我ながら良い出来だ。そう思ってお婆さんは誇らしげにお菓子の家を見上げました。

これならきっと食べがいのある子供がやってきてくれるに違いありません。


ふとお婆さんは思いました。見かけは立派でも、お菓子が美味しくなければ子供はすぐに飽きてしまうだろう。

そこでお婆さんはお菓子の家の煙突に登り、煙を千切って一口食べてみました。

その美味しさといったら! 頬がとろけてしまいそうでした。

お婆さんはもう一口煙を食べてみました。やっぱり美味しいです。

次は屋根のチョコレートを一口食べてみました。これもやっぱり美味しいです。

もう一口、もう一口、つい手が止まらなくなってしまいます。お婆さんはすっかり忘れてお菓子に夢中になってしまいました。

お婆さんが黙々とお菓子の家を食べていると、急に声がしました。


「お兄ちゃん、あれは何かしら?」


「わぁ、すごい! お菓子の家だぞ、グレーテル!」


見知らぬ二人の子供が近寄ってきました。一人は男の子でもう一人は女の子。二人は兄妹のようです。

兄妹は目を輝かせてお菓子の家を見つめていました。


「お婆さんお婆さん、このお菓子の家はお婆さんのなんですか?」


「うるさいのう。そうじゃよ。」


お婆さんは冷たくそう言ってまたお菓子を食べ出しました。

だって、お菓子を食べるのに忙しかったんですもの。子供に構ってなんていられません。

すると兄の方が言いました。


「あの、僕、ヘンゼルといいます! こっちは妹のグレーテル。

 そのお菓子の家、僕たちも食べてみちゃダメですか? すっごく美味しそうで……!」


「ダメじゃダメじゃ。これは私が作ったお菓子の家じゃ。だから私のじゃ。」


「お婆さんが? す、すごい!」


二人は身を乗り出して一層目をキラキラさせました。

お婆さんはお菓子を食べ続けようとしましたが、二人のキラキラした目つきが気になって仕方ありませんでした。

仕方なく、お婆さんは壁のクッキーを削って二人に差し出しました。


「一口だけじゃぞ。」


「わあっ、ありがとうお婆さん!」


二人は大喜びでクッキーを食べました。一口食べた途端ぱあっと笑顔二つが咲いて、クッキーはあっという間に無くなってしまいました。

ヘンゼルが興奮して言いました。


「美味しい! すっごく美味しいよお婆さん!」


ふふん、とお婆さんは少し得意気になりました。するとグレーテルが言いました。


「もっと食べたい! お婆さん、もっと食べたいわ!」


「駄目だよグレーテル。これはお婆さんのなんだから。」


グレーテルは悲しそうに俯いてしまいました。お婆さんは知らんぷりしました。

するとグゥゥとお腹が鳴る音が二つしました。二つです。グレーテルだけではなくヘンゼルもお腹を抑えて俯きました。


「何じゃお前達腹ぺこなのか。」


「はい、昨日から何も食べてなくて。」


悲しそうにお腹を抑える二人を見て、お婆さんは少しつまらない気分になりました。

お婆さんはお腹のすいた子供はあまり好きではありません。


「……しょうがないのう。特別にお菓子を好きなだけ食べてもよいぞ。」


「えっ、本当に!? いいんですか!?」


「いいと言ってるだろ。」


「わぁーい、やったあ! 行くぞ、グレーテル!」


ヘンゼルとグレーテルは飛び上がってお菓子の家に飛びつきました。

顔をチョコレートでぐしゃぐしゃに汚しながら二人は夢中で家を食べていきます。

余程お腹が減っていたのでしょう。二人は幸せいっぱいの笑顔であっという間にお菓子の家を食べ尽くしてしまいました。

お菓子の家はもうありません。けれどもヘンゼルとグレーテルの笑顔がありました。

お菓子は無くなってしまったけれども、こういうのも悪くないかもしれません。

自然と、お婆さんにも笑顔が生まれていました。

するとヘンゼルとグレーテルが言いました。


「お菓子、無くなっちゃったね。」


「お婆さん、全部食べちゃってごめんなさい……。あの、もし僕達にできるなら作り直します……。」


お婆さんは言いました。


「私が食ってよいと言ったのだから、別によい。」


「あの、お菓子、すっごく美味しかったです! ありがとう!」


「お婆さんのお菓子、すっごく美味しかったわ! お店で売っているのよりもずっとずっと美味しい!」


グレーテルの言葉を聞いて、ヘンゼルが言いました。


「そうだお婆さん、こんなに素敵なお菓子を作れるのなら、いっそお店を開いたらいいのに。

 こんなに美味しいお菓子がみんなに知られてないなんて勿体無いです。」


「店?」


「はい! こんなに美味しいお菓子ならきっとみんな大喜びですよ!」


「お菓子の家も作り直して、みんなで食べたらいいと思う!」


「どうですか、お婆さん?」


ヘンゼルとグレーテルはチョコレートだらけの顔でぐいぐい迫ってきました。

顔はぐしゃぐしゃに汚れていましたが、二人の瞳は夢いっぱいに輝いていました。

お婆さんは、この笑顔は本当に尊いものだと思いました。


「ふむ、そういうのも良いかもしれないな。」


「じゃ、じゃあ……!」


「店、やってみようじゃないか。」


「やったーあ! 僕、お手伝いします!」


「私も手伝う! んでまたお菓子ちょうだい!」


「じゃが問題が一つ。」


「えっ?」


ヘンゼルとグレーテルは首を傾げました。


「お菓子の材料が足らん。」


「じゃあお買い物に行きましょう!」


「私も行くー!」


こうしてお婆さんはチョコレートだらけのヘンゼルとグレーテルを連れて街まで買い物に行きました。

沢山の材料を買ってきて、三人でお菓子をいっぱい作りました。協力してお菓子の家も作り直しました。

そうして三人でお菓子屋さんを開きました。お菓子屋さんは大繁盛、沢山の子供達が笑顔いっぱいになりました。

子供達の笑顔を見て、お婆さんも笑顔いっぱいになりました。


ある時お婆さんは思いました。あれっ、何か忘れてない?


年のせいでしょうか。考えたけれど、それが何だかお婆さんは思い出せませんでした。

結局、まあいいかとお婆さんは割り切ることにしました。

だってお婆さんも子供達も、幸せいっぱいだったのですから。

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