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ノーマから連絡を受けてヘルムの森の西側へ向かったティナ達三人はその場所に着いてみた物は大きな水の壁だった。壁の向こうの様子はまるで見えず、自分の姿が歪んで見えるだけだった。この水の壁はどうやら人を選ぶらしい。ティナ達が手を入れると入れる事が出来るのに、他の班の中には触れることは出来ても、本当の壁のように硬くて入れないようだ。そう力によって、入れる者と入れない者がいるらしい。ティナ達の班は皆入ることができそうだ。でも、入れるとはいえ壁の向こうとは限らない。これは用心しないと、とティナ達は思った。
イシズは皆に言った。
「ティナは東側へライカは西側へ行って水の壁を抜ける。壁の向こうでは何が起こっているか分からないため自分で対処すること。もうひとつ、シルバームーンの奴らが見当たらない場合はその周辺などを探すこと。以上」
ティナ達はイシズの言葉に従って行動した。ティナ達の班ではイシズがリーダーだ。それに信頼も厚いからだ。他の班のメンバーも自分の位置に行き水の壁を通った。ティナも水の壁を通り目の前に見たものは――――、真っ赤に燃える火だった。その時思った。シルバームーンがしようとしていたこと。それは森を燃やすこと。でもなぜ、とティナは不思議だった。水の壁を通り抜けてから、目が炎と勢いになれずに目の前に手で遮っていたが目が慣れてきて手を下ろしてから、ティナがしたことは火を消すこと。そう思った時ティナはすぐに行動に移した。杖を出現させ、唱えた。
「ウォートレスよ、姿を現しこの地に雨を。祝福の雨!!」
そして、ウォートレスが姿を現し、スカートをなびかせて手を空に向かって弧を描いた。すると、空から大雨が降り少しずつだが火を消していった。でも、火を消すには風向きが悪い。その瞬間、眩い光に包まれた。ティナは目を開ける事が出来ずに目を瞑り手で光を防いだ。光が消え、目を開けた。光の正体は木々からあふれ出す魂だった。
「こんなに早く魂達が出てくるなんて、もしかして……」
ティナはこれ以上言うことをやめた。本当にその事実を受け止める事になるから。木々たちの魂が出てきた。それはティナがしなくてはいけない事の象徴だった。魂を天に召してあげる事。それを出来るのは天使族のごく僅かな者だけ。その中の一人がティナだ。だんだん胸が苦しく悲しくなってくる。でもティナは行うことを決めたのだ。全ての魂のために。普段魔法を発動する時と違う杖を使う。ティナの杖は先端に薄い緑色をした球体が付いていて、中央辺りに浮いた輪が付いている。その杖を出現させて両手で体の近くに引き寄せて持って、唱えると同時に右手で持って先端を左の方へ流れるように向け、そして天高く杖を上げた。
「天へ召す時、割れの声にて幸福の主へと導かれよ!」
すると、光に包まれた木々の魂は天へと向かって行った。森の広さを一人では全ての魂を天へ召すことが出来ないので、他のティナと同じ力を持っている者達とそれぞれの場所で行い、全ての魂は召された。
ティナは杖を消して一息ついた。
「ティナ、ご苦労さま」
イシズの声が無線機から聞こえた。
「ありがとう」
「ティナの周りにシルバームーンはいる?」
「いないみたい」
「手分けして、探すわよ。広いから迷わないでよ」
「了解」
そう言うと、無線機は切れた。
ティナは水の壁を抜けて、さらに東側へ向かった。水の壁があった辺りは木もいろんな種類があって入り組んでいたが、東側を進むと次第に木は少なくなって、結果的には白樺林となっていた。まだ昼過ぎなので、そこからはより太陽に光が入ってきて明るくて少し眩しかった。さらに歩いて行くとそこに紙で見た事のある顔に出くわした。そう、シルバームーンのレオンが木に凭れていた。ティナは急いで身を隠したが、無理だったようだ。
「そこにいるんだろ?さっき、見えちゃったからさ。出てきなよ」
「やっぱり、バレていたか。あなた、シルバームーンのレオン・ルシタールよね」
「当たり。で、君は?」
「ティナ・ローレンス」
「ティナか。いい名前じゃん」
「どうも。レオンは今十三歳で、シルバームーンのリーダーをやってるんだってね。信頼が厚いの?」
「そうだといいね。ティナって年上?」
「十四歳。て、そんなことはどうでもいいじゃない。あれはどういうことなのか聞きたいんだけど」
「燃やしたこと?俺達は盗賊。云わば、泥棒。今輝いている時に盗んだ。そういうことさ。でも、君もあの時知ったんじゃない?その様子じゃさ」
「そう。あの辺りの木々は死の道に行く寸前だったことに。でも、私はあなた達の行動に賛同できない」
レオンは一息ついて言った。
「君とは話が合わないな。それに俺を捕まえに来たんでしょ?ティナ、いや、捕獲隊さん」