其の参 やっぱ現実
ひゅるるるるるるー ごおおおお
昴は風をきる音と寒さで眼を覚ました。
「...ぅん?って...えぇぇぇぇぇぇ!!!!」
本城昴、眼を覚ましたら人生初のフライトをしていた。(正しくは落ちているだけなのだが...)
「うぅ......うわあ゛あ゛あ゛ああああぁぁぁぁぁ!!!!」
今の叫びを訳するとこうなる。
「(あんの狐ぇぇ!!自分が学校サボる口実になってんのに気付いたのか?そんでこんなことを!?マジスンマッセンでしたぁ!!土下座でも何でもすっから!だから、助けてーーー!!!!)」
視界の隅に刀を構えた男たちが3対1のようになっているのが入ってきた。
しかし、昴にいちいち気にしているような余裕などあるはずがなく、刀を構えている3人の内の1人に急降下していた。
昴落下まで30秒前―
「貴様が持っている書状をこちらに渡して貰おう」
「それは出来ぬな。必ずや殿に渡さなければ、我が命に賭けて守り通す...」
そう呟きながら刀に手を掛けた。
落下まで10秒前―
「ならば仕方ない。...死ね!」
リーダーのような男が叫んだ。刀を抜いた男3人が刀に手を掛けている男に斬りかかった...。
かのように思われたが、男たちは動けずにいた。真上まできていた昴に。
「な、何だ!?この音は?」
ひゅるるるるる
「あ゛あ゛あ゛ああああ」
「「「「!?」」」」
―ドカッ
「...!!。ぅぐぇっ!?」
悲鳴と落下音を響かせながら昴が落ちて、着地した。リーダーのような男を下敷きにして。
「いってぇ...。んだ此処?......つか、俺けっこうな高さから落とされたよな。痛いとこが全くな...あ、人差し指ちょこっと切れてる。何故に擦り傷程度?」
意味わかんねー。等と独り言を言って自分の体に怪我がないか調べている昴に動けずにいた男たちが騒ぎだした。
「き、貴様ぁ何者だ!!何処から参った!」
「あぁ?」
昴は話掛けてきた男を見て一瞬思考が止まった。
―いやいやいや...おかしいって!何で着物?刀?つかちょんまげぇぇ!?ちょんまげじゃない奴もいるけどっ...。あ、あれだ撮影的な感じだろ。うん。そうだ絶対にそうだ。役になりきってるんだ。じゃねーとありえないもの!そんな格好するわけないもの!!つーことは刀はレプリカか!...はっ、なら怖くねーや。脅かしやがって。......絞めてやる。
現実逃避し自己完結させた昴は目を2人の男たちに向けた。ちなみに、もう一人の男は未だ昴の下で倒れている。というよりも気を失なっていた。
二人のうち一人が声を発した。
「貴様...。!!もしや、書状を狙う者か!?」
「は?」
勝手に話が進み、理解できない昴に刀が向けられる。
「我らこそがあの書状を主に献上するのだ」
「ちょっ、ちょっと待てって!!俺がいつその書状?を狙ってるって言ったよこのハゲ!!」
「問答無用!!わしはハゲではない!」
一切、人の話を聞かず斬りかかってきた。
「うおっ!?」
昴はとっさに、下にいた男が腰に差していた刀を抜き、後ろに飛びのきながら刀を構えた。
「人の話を最後まで聞けや!!だからハゲんだよ!このハゲめがぁ!!しかもいくらレプリカでも危ねーだろが!撲殺でもさす気かコノヤロー。だが、そっちがその気なら手加減しねーぞ?覚悟しなハゲ共」
刀を中段の構えから刀を鞘にいれ身構えた。
「ふん。威勢だけは誉めてやろう。しかし、容赦せぬのはこちらの言うことよ。後悔するが良い!何度もハゲなどと口にしたことを!!」
「!!」
言い終わるとともに昴に斬りかかってきた。
昴は腰をおとし、タイミングを見計らって間合いに入った。
―ザシュッ...ズパァ
「き、貴様......」
「ぅぐ...く、そ...」
-ドサッ...ドサッ
一人を居合いの間合いで横に凪ぎ払いもう一人を左肩から腰にかけて思い切り斬る。......までは良かった。がしかし、昴のにはレプリカの刀からは聞こえるはずのない肉が斬れる音が聞こえていた。そして見えた。吹き出た血を。
今、ザシュッって...いやないない。手ごたえは確かにあった。けど、レプリカで人を斬れるわけねーだろ。ち、血糊だ、血糊。最近のホラーとかSFと、か...
―ピチャ......ピチャ
「?」
水滴の音が聞こえはじめ無意識に震えながら下を見た。
「――っ!?」
そこに見えたのは血塗られた刀とピクリともしない血を大量に流した男たちだった。