表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先輩、コロシです!ver.2 鑑識編  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/11

第6話

春田は、朝から妙に落ち着かなかった。今日は「犯人がまだ近くにいる可能性がある現場」だと聞いたのだ。つまり――ドラマでよく見る“鑑識が拳銃を構えて現場に入るシーン”ができるはずである。


「よし……今日は絶対に“銃を構えて慎重に進む鑑識”を決めるぞ」


春田は、ドラマで見た“銃を両手で構えて横歩きするポーズ”を練習していた。もちろん本物の銃は持っていないが、気持ちだけは完全に刑事ドラマの主人公だ。


そこへ、背後から冷たい声が落ちる。


「新人。今日も儀式か」


振り返ると、黒江が腕を組んで立っていた。


「い、いや、これは……その……」


「銃を構える気満々の顔だな」


図星だった。


現場に向かう途中、春田は意を決して聞いた。


「先輩……鑑識って、拳銃持たないんですか?」


「持たない」


黒江は即答した。


「えっ……でもドラマでは……」


「ドラマは鑑識がよく撃つ。現実は撃たない。そもそも持ってない」


春田は固まった。


「じゃあ……犯人が近くにいたらどうするんですか?」


「逃げる」


「逃げるんですか」


「逃げる。全力でな」


春田は完全に困惑した。


「でも……鑑識って、現場で危険な状況に立ち向かうイメージが……」


「それは刑事の仕事だ。鑑識は“危険に立ち向かわない”のが仕事だ」


「立ち向かわない……」


「そうだ。鑑識は“生きて帰る”のが最優先だ。死んだら証拠も仕事も残らない」


春田は黙り込んだ。


現場に到着すると、警察官たちが周囲を警戒していた。

春田は思わず身構える。


「先輩……こういう時こそ、銃が必要なんじゃ……」


「必要ない。俺らは“危険が去ってから”入る」


「でも……犯人がまだいたら……」


「だから入らない。危険があるなら、鑑識は待つ」


春田は驚いた。


「じゃあ……鑑識って、戦わないんですか?」


「戦わない。戦うのは刑事だ。鑑識は“戦わないことで仕事を守る”」


黒江は淡々と続ける。


「いいか新人。仕事ってのはな、“やらないこと”を決めるのも仕事だ。鑑識は“戦わない”と決めている。だから生き残る」


春田は息を呑んだ。


「でも……戦わないって、なんか……かっこ悪い気が……」


「かっこよさで仕事を選ぶな」


黒江は現場の入口で立ち止まり、春田を見た。


「鑑識はな、戦わない代わりに“残ったもの”と戦う。血痕、繊維、指紋、足跡……そういう地味な相手と戦うんだ」


春田は胸が熱くなった。


「じゃあ……鑑識の戦場って……」


「現場じゃない。“痕跡”だ」


黒江は続ける。


「銃を構えて犯人を追うのは派手だ。だが、派手な戦いはすぐ終わる。地味な戦いは終わらない。終わらないから、真実に近づける」


春田は深く息を吸った。


「先輩」


「なんだ」


「鑑識って……地味ですね」


「地味だよ」


「でも……地味って、強いですね」


黒江はわずかに口角を上げた。


「気づいたか。地味は強い。派手はすぐ壊れる。地味は残る。残るから、真実に近づける」


春田は、拳銃を構える自分の妄想が少し恥ずかしくなった。


「……先輩。俺、戦わない強さを持てる鑑識になりたいです」


「言ったな。じゃあ今日から、“逃げる勇気”を覚えろ」


春田は思わず笑った。

逃げることが強さになるなんて、思ってもみなかった。


そして今日もまた、地味のプロへの一歩が静かに積み重なっていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ