表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先輩、コロシです!ver.2 鑑識編  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/11

第3話

春田は、朝から妙にそわそわしていた。今日は「DNA鑑定が必要な案件」だと聞いたのだ。ドラマでは、鑑識が現場でサッと綿棒をこすり、10分後には「DNA一致しました!」と決め台詞を放つ。あれを自分もやれると思うと、胸が高鳴らないはずがない。


現場に向かう途中、春田はポケットから綿棒を取り出し、ドラマで見た“サッとこすってキメ顔で見せるポーズ”を練習していた。


「新人。今日も儀式か」


背後から黒江の声が落ちる。春田は慌てて綿棒を隠した。


「い、いや、これは……その……」


「言い訳はいい。現場入るぞ」


黒江は淡々と歩き出す。春田は綿棒を握りしめたままついていく。


現場には、コップの飲み残しが残されていた。春田は目を輝かせる。


「先輩!これ、DNA鑑定できますよね!今ここで採取して、10分後には――」


「出ない」


黒江は即答した。


「えっ……いや、でもドラマでは……」


「ドラマはDNAが早口だ。現実はのんびり屋だ」


春田は固まった。


「じゃあ……現場で“DNA一致しました!”って言うのは……」


「言わない。できない。そもそも現場にそんな機械はない」


「じゃあ、どうやって……」


「採って、封入して、送って、待つ。以上」


「……地味ですね」


「地味だよ」


春田は気を取り直す。


「でも、DNAって最強の証拠じゃないんですか?」


「最強じゃない。万能でもない。DNAはな、出るのに時間がかかるし、出ても“絶対”じゃない」


「絶対じゃない……?」


「同じ家族なら似る。混ざれば判別が難しい。古ければ壊れる。万能に見えるのは、ドラマの中だけだ」


春田は驚いた。


「じゃあ……DNAって……」


「ただの“材料”だ。真実を決めるのは、材料の積み重ねだ」


黒江はコップを慎重に袋へ入れながら続ける。


「DNAが10分で出るなら、俺らはもっと楽だ。だがな、仕事ってのは“待つ時間”も含めて仕事なんだ」


春田は首をかしげる。


「待つ時間……?」


「そうだ。結果が出るまでの間に、他の証拠を拾う。現場を洗う。仮説を立てず、事実だけ積む。派手な答えを急ぐと、仕事は壊れる」


春田は黙り込んだ。

ドラマでは、鑑識が一つの証拠で事件を一気に解決していた。

だが現実は、そんな魔法は存在しない。


「先輩。じゃあ……DNAって、そんなにすごくないんですか?」


「すごいよ」


黒江は即答した。


「だがな、“すごいもの”ほど扱いが難しい。すごいからこそ、慎重に扱う。すごいからこそ、過信しない。仕事ってのはそういうもんだ」


春田は息を呑んだ。


「じゃあ……DNAが出るまでの時間って……」


「無駄じゃない。むしろ大事だ。派手な答えが出ない時間に、地味な仕事が積み上がる。地味が積み上がれば、派手な嘘に負けない」


黒江はゆっくり立ち上がり、春田を見た。


「新人。お前は“早く答えが欲しい”と思ってるだろ」


「……はい」


「それは悪いことじゃない。だがな、仕事は“早さ”より“確かさ”だ。確かさは、地味な時間の積み重ねでしか生まれない」


春田はコップの袋を見つめた。

ただの飲み残しにしか見えなかったものが、少しだけ違って見えた。


「先輩」


「なんだ」


「DNAって……地味ですね」


「地味だよ」


「でも……地味って、強いですね」


黒江はわずかに口角を上げた。


「気づいたか。地味は強い。派手はすぐ壊れる。地味は残る。残るから、真実に近づける」


春田は深く息を吸った。


「……先輩。俺、地味を積み重ねられる鑑識になりたいです」


「言ったな。じゃあ今日から、DNAの“のんびりさ”と仲良くなれ」


春田は思わず笑った。

DNAは10分で出ない。

だが、出ないからこそ、仕事になる。


そして今日もまた、地味のプロへの一歩が静かに積み重なっていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ