表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先輩、コロシです!ver.2 鑑識編  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/11

第2話

春田は、現場に入る前から胸が高鳴っていた。今日は血痕のある事件だと聞いたのだ。ドラマで何度も見た“血痕から犯行の流れを3Dで再現する名シーン”が、ついに自分の番だと思うと、足取りが自然と軽くなる。


「よし……今日は絶対に“血痕の語り”を決めるぞ」


現場前で、春田はスマホを横に構え、ドラマで見た“空中に線を描くポーズ”を練習していた。そこへ、背後から冷たい声が落ちる。


「新人。今日も儀式から始めるのか」


振り返ると、黒江が腕を組んで立っていた。相変わらず表情は石像のように動かない。


「せ、先輩!今日は血痕ですよね!ついに……ついに犯行の流れを3Dで――」


「しない」


黒江は即答した。


「えっ……いや、でもドラマでは……」


「ドラマは血痕がよく喋る。現実は無口だ」


黒江は淡々と現場に入っていく。春田は慌ててついていくが、期待はまだ捨てていない。


現場の床には、確かに血痕が点々と残っていた。春田は目を輝かせる。


「先輩!この血の飛び方……犯人はここからこう殴って――」


「わからん」


黒江は即座に切り捨てた。


「えっ……でも、飛沫の角度とか……」


「角度だけで犯行の流れが全部わかるなら、俺らの仕事はもっと楽だ」


黒江はしゃがみ込み、血痕の位置を一つずつ測り始めた。


「血痕はな、喋らない。語らない。黙ってそこにあるだけだ。そこから何を読み取るかは、地味な積み重ねだ」


春田は少し肩を落とす。


「じゃあ……ドラマみたいに“犯人は右利きだ”とか……」


「言わない。利き手は占いじゃない」


「じゃあ、“ここで被害者が倒れた”とか……」


「断定しない。断定は危険だ」


「じゃあ、血痕から犯人の身長を――」


「無理だ。血痕は身長を教えてくれない」


春田は完全に困惑した。


「じゃあ……血痕って……何を教えてくれるんですか?」


黒江は測定を続けながら答えた。


「事実だけだ。そこに“あった”という事実。それ以上でも以下でもない」


春田は黙り込んだ。

ドラマでは、血痕はまるで語り部のように事件を再現してくれた。

だが現実は、ただ静かに床に残っているだけだ。


黒江は立ち上がり、春田の方を向いた。


「いいか新人。血痕は喋らない。だが、喋らないからこそ信用できる」


「信用……?」


「派手な推理は外れる。派手な演出は間違う。だが、黙って残った痕跡は嘘をつかない。仕事ってのはな、喋るものより、黙って残るものを信じるんだ」


春田はその言葉に胸を打たれた。


「でも……黙ってるものから真実を拾うって、難しくないですか?」


「難しいよ。だから仕事なんだ」


黒江は淡々と続ける。


「血痕は語らない。だからこそ、語らせようとするな。語らないものを、語らないまま拾い上げる。それが鑑識の仕事だ」


春田はしばらく黙って血痕を見つめた。

ただの赤い点々にしか見えなかったものが、少しだけ違って見えた。


「先輩」


「なんだ」


「血痕って……地味ですね」


「地味だよ」


「でも……地味って、強いですね」


黒江はわずかに口角を上げた。


「気づいたか。地味は強い。派手はすぐ壊れる。地味は残る。残るから、真実に近づける」


春田は深く息を吸った。


「……先輩。俺、もっと地味を見られるようになりたいです」


「言ったな。じゃあ今日から、血痕の無口さと仲良くなれ」


春田は思わず笑った。

血痕は語らない。

だが、語らないからこそ、仕事になる。


そして今日もまた、地味のプロへの一歩が静かに積み重なっていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ