表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先輩、コロシです!ver.2 鑑識編  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/11

エピローグ

鑑識課の部屋に、朝の光が差し込んでいた。

春田は、いつものように机の上の手袋を整え、道具を点検し、深呼吸をした。


今日も地味な一日が始まる。


だが、数週間前の自分とは違う。

“地味”という言葉の意味が、今はまったく別の重さを持って胸に落ちている。


黒江が部屋に入ってきた。


「新人。準備はできてるか」


「はい。もう、いつでも」


黒江は春田の手袋の付け方を一瞥し、わずかに頷いた。


「手袋の付け方が雑じゃなくなったな」


「触る前に考えるようにしました」


「いい心がけだ」


黒江は淡々と道具をまとめながら続ける。


「今日の現場は大した事件じゃない。派手なものは何もない。地味な痕跡ばかりだ」


春田は微笑んだ。


「地味な方が、強いですから」


黒江は一瞬だけ目を細めた。

それは、春田が初めて見る“先輩の笑い”だった。


「言うようになったな」


二人は車に乗り込み、現場へ向かった。

道中、春田は窓の外を眺めながら、ふと気づいた。


――自分はもう、ドラマの主人公になりたいと思っていない。


現場に着くと、住宅街の一角に小さな家があった。

派手な事件ではない。

だが、誰かの生活が確かにそこにあった。


春田はゆっくりと手袋をはめ、深呼吸した。


「先輩。俺……最近思うんです」


「なんだ」


「鑑識って、事件の中心には立たないけど……

 事件の“底”を支えてる仕事なんだなって」


黒江は道具を肩にかけながら言った。


「中心は派手だ。底は地味だ。だが、底がなければ中心は立たない」


春田は静かに頷いた。


「地味って……やっぱり、強いですね」


「強いよ。派手はすぐ壊れる。地味は残る。残るから、真実に近づける」


春田はその言葉を胸に刻んだ。


現場に入ると、黒江はいつものように淡々と作業を始めた。

春田も隣で、静かに、丁寧に、ひとつひとつの痕跡を拾っていく。


誰にも気づかれない作業。

誰にも褒められない作業。

だが、確かに事件を動かす作業。


春田はふと、黒江の背中を見た。


――この背中を追いかけていけば、きっと自分も“地味のプロ”になれる。


そう思えた。


作業が終わり、外に出ると、朝の光が少し強くなっていた。


黒江が言った。


「新人」


「はい」


「お前、もう“新人”じゃなくなってきたな」


春田は驚いて黒江を見た。


「……本当ですか」


「地味を理解したやつは、もう新人じゃない」


春田は胸が熱くなった。


「ありがとうございます。

 俺……これからも、地味を積み重ねます」


黒江はわずかに口角を上げた。


「積み重ねろ。地味は裏切らない」


春田は空を見上げた。

雲ひとつない、静かな青空だった。


派手さはない。

だが、確かにそこにある。


地味な仕事も、きっと同じだ。


そして今日もまた、

地味のプロへの一歩が静かに積み重なっていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ