表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/50

epilogue

 霧崎邸の門を抜け、挨拶のため二人で洋館へ向かう。

 その段下に広がる庭園。しだれ柳の木の下に、黒い背広姿の男性が居た。


「何してるんだ? あいつ」

「きっと、待っていたのよ」


 もしかしたら最初から。


「貴方はここで待っていて」

「何で」と不満気な彼を押し留め、唇に人差し指を立て微笑んだ。


「私の事情。」

 


  *



「真次さん。ずっと見守ってくれて、ありがとうございます」

 

 穏やかで多彩な日本庭園に、忽然と色を切り欠く黒のシルエットが際立つ。

 男性は読んでいた本をパタンと閉じた。

 柳が風を受けその葉先だけが優美に揺れる。


「貴方に誤算なんて、嘘。だって私は、こうまでしないと気付けなかった。手段はちょっと恨みますけど――真実(、、)への代償なら、仕方ないですよね?」


「君は私を買い被り過ぎだよ、葉那君」

 真次さんは変わらない微笑みを湛えて云う。


「人の数だけ、真実はあるだろう。君は自分で見つけたんだ」


 あの日貴方と出会って、私は『私』ではいられなくなった。

 否定しなければならなかった気持ちは、でもここに辿り着かせてくれた。


「ずっと、貴方の事が好きでした」

 

 この場所まで導いてくれた、私の“理想の人”

 もし貴方さえ「貴方」を演じているのなら


「あなたの真実は、どこにあるんですか?」


 ふっと真次さんは微笑んで、手を伸ばし、私の頬に触れた。嘘みたいに整った顔、吸い込まれるような黒い瞳と見つめ合う。


 庭園が、あの日と同じように鮮やかに色めく。


 花も葉も実もその全ての彩りが一つとなって、とても綺麗。

 嗚呼なにより美しく、なにより苦しめたあの夢は

 今、終わるのね。そっと目蓋を閉じた。

 

 ――この物語に幕を引いてください――


 けれど阻むようになにか立ち塞がって、目を開けると何もかも引き戻す白いシャツが目の前にあった。


「離れろ」


 割り入った彼のそんな威嚇の声にも動じることなく、真次さんは莞爾(かんじ)と笑う。


「ここに在る」


 私達(、、)を抱き寄せて、とても愛しげな眼差しで答えてくれた。


「私の家族――君達が、私の真実だ」


 あたたかくて とても深い

 その黒が見えないのは全ての色を包んでいるから

 もういいだろ、とぼそっと呟いて押し離す彼にだって、きっともう伝わっている。

  

「夭輔、始末は付けて置いたぜ」

「ああ……恩に着る」

「公僕もたまには役に立つだろ?」

「あんたは結構濫用なんだよなぁ。どうせ趣味だろ」


 似ていて違うこの親子は、けれど言外に通じ合っていて。

 ああずっと、焦がれていたんだ。


「趣味と言えば、四人分のチケットが取れたんだ。皆で行こう」

「真次さん、覚えていてくれたんですね」

「何の話だよ?」

「あなたに会う前の、話」

「そこは相変わらずかよ……」

「美しい音楽を聴きながら、夭輔とロゼットの寝顔も見れる」

「まぁ」

 

 真次さんは微笑み夭輔はため息を吐いて、私は笑う。



 かなわなくて――でもずっとずっと、幸せな結び。

 


 恋や愛や

 これが、私達の事情。




 end.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ