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09 同窓会のカンケイ

「同窓会?――知らなかったわ。ああ、嫌だ。貴方と半同棲しているせいだわ。郵便物をチェックしに行かなきゃ……」


 出席をどうするか聞かれたのが寝耳に水で愕然とする。携帯電話ひとつあれば連絡に事足りると思っていたけど、よりによってこんなタイミングで。ポストの不始末さも目に浮かぶ。


「俺が取りに行く」

「何で貴方が取りに行くのよ。そこまでして貰わなくて結構だわ」

「帰ったら葉那、そのままここに来なくなるだろ」

「確かに……そういえば私、何で未だここにいるのかしら。脚も治ったのに」

「未だ治っていない」

「日常生活に支障はないくらい回復したのに」

「今度でいいだろ。ほら、書いてある内容は同じだ」


 と、ハガキが差し出された。国際的な人材を輩出するという特別クラスの理念は概ね実現しているようで、同窓会の、場所はアメリカ。


「ん……この日は仕事ね。ニューヨークじゃ顔も出せそうにないし、残念だわ。貴方は行くの?」

「お前の仕事が上がる前には帰って来る」

「いえ、いいわよ。そこまでされると引くわ……。本当、律儀ね」

「葉那の手料理が食べたい」

「私は負担が増えるんだけど」

「じゃあ俺が作る」

「貴方何が作れるの?」

「……ラーメンとか」

 

 ちょっと目を逸らせて彼は答える。

 モノが少ない家だがキッチンは特にそうだ。


「想像が付いたわ。全く、一人暮らしだからって適当なもの食べていたら体を壊すわよ。真次さんは料理も上手いんだから」

「俺だって練習すれば作れる」

「じゃあ練習すれば? 多分私がいると甘えてダメね。やっぱり一度戻るわ。美味しい料理を作れるようになったら帰って来てあげる」

「……」黙ってぎゅ、と腕を掴まれた。

「何よ。甘えてもダメよ」

「何が好きだ?」

「そんなの、今迄生活してて分からない? 自分で考えるのね」


「パスタ?」

「野菜が色々入った……スープ?」

「肉の塊が入ったシチュー?」


 手料理が食べたいと言う割に普段これと言ったリアクションを取ることもなく黙々と食べていたが、料理名も知らない薄い認識に呆れる。幼少期から当然のように上げ膳据え膳されてきたのだろうけど。


「先ずは正式名称から知ることね……」


 取り合えずのものを鞄に詰めて肩にかける。


「じゃあ、短い間ですがお世話になりました」

「待てって……お前がいてもちゃんと作るから」

「しつこい男って嫌いだわ」


 掴まれた腕を払い落とすとすんなりと落ちた。くるりと背を向く。


「葉那、」

「何よ」

「俺の連絡先、知らないだろ」

「……そういえばそうね」 


 彼が電話機横のメモ帳に二つ番号を記して手渡してきた。


「お前は?」

「必要があれば電話するわ。はい、これは覚えたわ」とメモを返して彼の家を後にした。



 郵便ポストを確認すると、そのハガキの他に手紙が一通入っていた。差出人は高校時代の友人からだった。

 ――やっぱり。帰って良かったわ。

 出て行く時の、何とも言えない寂しそうな表情に後ろ髪が引かれそうになったが、振り払えた事にほっとして封を切る。 


 同窓会に合わせて旅行に来るので高校時代のグループで一緒に飲もないか、という内容だった。日時も合わせてくれるらしい。メールアドレスと電話番号も添えられていた。


 ――そういえば、霧崎君もそう(、、)なのね……


 彼の友人が自分の親友と幼馴染だった関係で、何かとグループ活動で一緒になることが多かった。

 私が霧崎君と表面上とはいえ付き合っていると知れたら少し面倒そうだけど……何なら彼には欠席してもらえばいいわ。


 連絡先を登録して、友人に了承の返事をした。



 ***

 

 

「いや〜、まさか葉那ちゃんと霧崎君がくっつくなんて……でもこうして見るとやっぱ入り込む余地のない美男美女カップルだわ〜」


 正面に座るのは中高時代の親友の今村茜で、隣には彼女の幼馴染の早川達也が座っている。そしてしげしげと見比べられている、自分の隣に座るのが霧崎夭輔だった。

 口封じをする間もなく、彼は自分との交際関係を既に話してしまったらしい。睨む代わりに一度も目を合わせる事無くそっぽを向いていた。


 ――こんなに口の軽い男だとは思わなかった。


 それに、訳ありで付き合ってあげてるだけなのに許可無く言いふらすなんてことあるかしら? こんなの、同窓会なんかで知られたら瞬く間に広まるに決まってるじゃない。

 社交界でお付き合いのある家もあるというのにこの人、そういう世界にいないからって無頓着なんだから。別れ辛くする算段まで踏んでの事なら少しは見直すけど、絶対ただの馬鹿ね。


「お前ら犬猿の仲だったよなあ。いつからだよ?」

「告白はどっちから?」

「最近……俺から」

「へぇー。霧崎君が女の子に告白してる姿とか、全然想像できない。で、葉那ちゃんは? 何て答えたの?」

「……忘れたわ」

「おい茜、聞き過ぎだって。けどまあ、意外だよな。日下(くさか)さんなんて、夭輔(ようすけ)の事包丁で刺そうとしたこともあったよな、ほら、高一の臨海学校で」

「ああ……あったな」


 ほんの少し口端を緩ませる。これが笑っている方だとはたから見ると分からないだろう。


『包丁で刺そうと』


 ……確かに否定はできないが随分物騒に聞こえる。

 料理は殆どしたことのない生徒ばかりで、でもグループでカレーを作ることを課された時のことだ。

 吹きこぼれている鍋を見て彼は「止めた方がいいのか」なんて訊くから「使えない男ね」と言うと、「じゃがいもの皮を剥いて元から身がなかったなんて言う奴に言われたくない」と返された。持っていた包丁を向けると容易に手首を掴んで止められて、また離しなさいよなんて応酬をしていたっけ。


 ――思えばあの頃から、誰にも向けたことのない敵意をどうして彼にはこうもぶつけてしまうのだろう。


「なんか霧崎君、雰囲気暗くなった? 翳りがあるというか。まあそれも色気があっていいんだけどね?」


 そんなことを思い出していると友人が彼女特有の明るい調子で途切れた間を繋げる。


「お前は本当、聞きにくい事突っ込んで行くよな……。人には色々あるんだよ、あれから十年近く経ってるんだし。でも夭輔、相談ならいつでも乗るからな」


 早川達也が彼のまだ半ば入っているグラスにお酒を注ぎ足す。相変わらず彼とは真逆で、面倒見よく誰からも好かれ、日本では出世するタイプだろう。


「――私、そろそろ」


 と言いかけると机の下で手が押さえられる。睨もうとするが彼は素知らぬ顔で正面を向いていた。


「……」

「あ、葉那ちゃん何頼む? グラス空いてんじゃん。モスコミュールとかどう?」

「葉那は弱いからもっと軽いカクテルで」

「おお!」

「お前ちゃんと彼氏やってんだなあ……感慨深いぜ」

「そうか、葉那って呼んでるのね、うわあ、なんか照れる……」    

「霧崎君、余計なお世話よ」

「懐かしいな、日下さんのツン……デレたりすんの?」

「葉那ちゃんも二人の時は名前で呼ぶの?」

「呼ばないわ。私も呼ばないでって言ってるんだけどね」

「何だよそれ、面白いカップルだな」早川達也が可笑しそうに笑う。

「世の中には色々な愛があるのね……」茜がしみじみと言って。


「愛してないわ」

「俺は愛してる」


「何か始まった。やれやれー」

「てか何か夭輔の一方通行みたいだな。本当に日下さんから許可貰ったのか?」

「許可はしているわ」ツンと目を逸らしながら言う。「ただ……急に馴れ馴れしくなるのも可笑しいでしょ」

「そうそう、日下さんは箱入り娘なんだから」

「焦っちゃ駄目だからね、霧崎君」


「……お前らは、いつから付き合っているんだ?」


「え?」彼が正面の二人に問いかけるので、驚いて友人を見る。「茜……?」

「ごめん、葉那ちゃん。隠してた訳じゃないんだけど……」

「俺たち、大学も一緒だったから、……なんか練習で付き合っちゃうか、みたいなノリで」


 照れくさそうにする二人は、よく見ればシンプルだが同じ指輪を付けている。


「結婚したの……?」

「いや、恋人とかはよく右手の薬指に嵌めてるんだよ……やっぱなんか恥ずかしいな」

「達也がくれたんじゃん……」

「お前が欲しそうにしてたからだろ」

「別に、達也から欲しかった訳じゃないんだから」

「やめろよ、ツンデレしていいのは美少女だけだから」

「はぁ? ふざけんなよ達也。色々ばらしちゃっていいのかな?」

「ちょ、待て。ごめんなさい」

「……楽しそうね」ふふ、と笑う。

「ほら、葉那ちゃんに笑われちゃったじゃない」


「そういう指輪って、どこで買える?」


 笑う自分を横目に彼が訊く。


「誰にあげる気か知らないけど私はいらないからね、霧崎君」  

「そうねえ、葉那ちゃんだったら……カルティエとか似合いそう。あ、ちゃんと指輪のサイズは測るように。他のアクセサリーと違って緩くてもキツくてもダメで、ぴったりじゃないと嵌められないから」

「ん……葉那は指が細いから……」


 確かめようと指に手を伸ばすのをぱしりとはたいた。


「調子にのらないで」


「前途多難だな、夭輔」

「まあ今迄女の子につれなくして来たツケだと思って」

「確かに。いい気味だな」


 彼女達の底なしの朗らかさは変わらない。

 高校時代に戻ったような掛け合いで、久しぶりに気が抜けた。

 交際については口外しないと約束してくれたし、この(ニセ)の付き合いを終えて『別れた』後もきっと笑い飛ばしてくれるだろう。




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