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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

子供育て

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 う~ん、こんなことをしていていいのかな……。

 いやね、どうも休みになると不安になってしまう病に、最近おかされているというか。こうしていて、みんなに先を行かれないかとか、考えると落ち着かなくって。


 ――いざというときにコンディションを崩していたら、そんなことなど言っていられないほど、水をあけられるから休んでいろ?


 むむむ、こーちゃんにそういわれるとそうかもしんないとも思えるなあ。

 極端な話、死んじゃったら不安とか、追い付くうんぬんとかも心配する暇なくなるよねえ。ついでに睡眠不足に悩むこともなくなるな。ずっと眠れるわけだし。

 でも、やっぱり生きている間にできることはやりたいしねえ。休む間を惜しんで熱中できる……そのようなものに、早く出会いたいもんだよ。

 ……あ、そうそう熱中といえば。こーちゃんが探しているネタになりそうな話、最近久しぶりに会ったおじさんが話してくれたんだよ。こーちゃんも聞いてみない?


 おじさんが小さかったころ、当時のまわりにナイショにしていた趣味があったらしい。

 それはね、「子供育て」だったとか。

 ああ、いやいや。おじさんが早くもマジモンの父親になってしまいました~とかじゃないよ。さすがにそんなことしたら、こうしておじさんと交流できてないと思うよ、うん。

 おじさんの話だと、自分が昔に住んでいた場所には「こびと」がいたというんだ。不思議と、兄で僕の父は全然見つけることができなかったんだって。父にあらためて尋ねても、弟の妄言のようにしか思えなかったとか。

 そのおじさんはこびとをつかまえて、育てることに熱中していたのだとか。


 学校や習い事など、外せない用事を済ませたあとの空き時間を、おじさんは子供育てに費やしていた。

 こびとを子供と称するのは、その姿が人間の幼子にそっくりなものだったからだ。童話の中だとこびとは羽を持っていたり、普通の人間からかけ離れた容姿を持っていることもしばしば。

 けれど、こびとはそのようなことがなく。ただ、おじさんの手のひらで押しつぶしてしまいそうなくらい、ミニチュアサイズであること以外は他の人間と大差ない。

 彼らはいろいろなところにいた、とおじさんは語った。山の中、川の中といった他の生き物を探す時も足を運びそうなところから、自分たちが学校などで配られたプリント、部屋に置いてある文具の影まで、ひょっこりとこびとは現れる。


 それをおじさんはつかまえて、空き瓶の中へ入れてしまう。そうして育てていくのが楽しみだったんだ。昆虫採集と飼育の派生みたいな感じだったと、おじさんは語ったよ。

 最初のうち、こびとこと子供は長生きできずに1日で動かなくなってしまうことが多かったそうだ。

 死んだ、とは表現したくなかったとは、おじさんの談。自分の考える死の定義が彼らにそのまま当てはまるとは限らなかったし、自分が人に似た姿の者を死なせた、という殺人者的な印象をこばみたい心もあったとか。


 ――どうにかもっと、こいつらを長く動かして育てたい。


 幼いおじさんは、一度思い込んだらそればかりに全神経を注いでしまい、他のことはおろそかにしてしまうタチだったとか。

 水やお菓子のたぐいはダメ。さして彼らをながらえさせる手段にはならなかった。となると人間が食べ物としないもので攻めたほうがいいのか。


 おじさんの探求は続いた。

 やはり、なんでもいいとはいかない。数日を動かし続けることもできれば、食べてすぐに動かなくなってしまうときもあったそうだ。

 その中でおじさんが見つけた、何日も動かすことのできるもの。それは当時の授業で使っていたポスターカラーだったのだとか。

 ただ中身をひねり出して、与えるだけでは他のものと大差ない。しかし、そこは熱中しているおじさんで、ポスターカラーの各色を水に溶かし、混ぜ合わせることで効果が変わるかをつぶさに観察していったみたい。

 そうして全色を絶妙に混ぜ合わせた水でもって、子供を長く動かすのに成功したんだ。


 ――そのときの割合がどんなものか?


 いやあ、教えてもらえなかったんだ。

 おじさん自身はいまだ覚えているようだけど、ひみつだって。


 その理由は、子供が瓶から抜け出したその日にあるらしい。

 夜中、瓶の割れる音とともに目を覚ましたおじさんは、顔面を思い切り踏みつけられたみたい。

 ぐりぐりと踏みにじられながら、声が浴びせられる。


「これはお前がおろそかにした、時間のむくいだ」


 声はおじさんのものだったんだ。

 足が持ち上げられると、一糸まとわぬ姿のおじさんが、寝ているおじさんを見下ろしていたらしいけれど、ぱちぱちとまばたきをしたときにはもういなくなっていたんだって。

 瓶が割れていたから、あれが子供の姿だろうかとおじさんはうすうす察していたそうだ。そしてこれまでは絵心のあったおじさんは、その日を境に絵がど下手になってしまったらしい。

 きっと熱中した時間とともに、あいつが持ち去ったのだろう、と。

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