episode 068
「なに、一緒にお花摘みなんて嫌よ!」
「それは冗談だよ」
真っ赤になって怒る秋希を見て、春都は笑って説明をした。
「これから、拝島教授の部屋を捜索する」
「え、それって不法侵入じゃ……」
「そうだけれど、今回は仕方がない」
春都は力強く主張した。
「唯一に近い手掛かりだ。ここでイチから出直す時間は残されていない。既に犠牲者が2人出ているからな」
それを聞いた秋希は、黙ってバッグから手袋を取り出し両手に装着した。
廊下の見取り図と看板を頼りに、慣れない大学の校舎内を暫く歩いた2人は、ようやく目的の部屋……『拝島研究室』を捜し当てた。
簡単なピッキングスキルで、春都はドアロックを解除する。
静かにドアを開けた途端、モワッとした古い空気が外に向かって流れ出て来た。
顔をしかめた秋希が、ポケットからハンカチを取り出し口に当てる。
約8畳程のスペースに、分厚い書籍がぎっしり詰まった本棚が四方を取り囲んでいる。
中央にある事務机と丸テーブルにも、書籍やレポートがこれでもかと積み重ねられていた。
春都は秋希に目配せをして、室内の捜索を開始する。
秋希も服の汚れを気にしながら、書棚の資料に目を通している。
暫く作業を行った結果、拝島が研究していた『獣祠道』の資料らしきものが数点出て来た。
春都が最も興味を引いたのが、獣祠道の儀式に関する詳細が記された書類だった。
それによると……
まず術者は、仮死状態にした獣とヒトの間に立ち、両者の額に手を当て、念を送りこむ。
ヒトの血流を探り当てた術者の左手は、そのまま一気に額を突き破り、脳味噌を掴み上げる。
同様に獣の脳をすくい上げた右手を眼前で重ね合わせて、取り替えたものを両者に戻す。
文字だけを見れば非常にシンプルな儀式なのだが、現代医学や自然の摂理などを完全に無視した、異常な行為である事は間違いない。
件の書類は拝島にとっても重要なものだったらしく、本文の様々な箇所にマーカーが引かれてあった。
順を追ってページを繰っていた春都は、欄外に書き込まれている幾つかの走り書きに目が止まった。




