episode 064
第一章の歴史篇で、春都は早くも読み進めるのが嫌になってきた。
「文字が踊っている……」
「ん、そうかな?」
既に読み終えていた秋希は、アップルティーを啜りながら不思議そうな顔をしている。
彼等は、一時間程前から伊勢丹内の喫茶店に陣取り、購入した論文の読破に掛かっていたのだ。
「駄目だ、このペースでは日が暮れてしまう。秋希ちゃん要約頼む!」
春都は、冷静な情報分析を得意とする彼女に助け船を求める。
やれやれと言った感じで、秋希は話を始めた。
「簡単に言えば、獣祠道とは『獣と人の等価交換』という事らしいわ」
「等価、交換?」
春都は今ひとつ分かっていない様子だ。
「普通の人獣合成といえば、獣1に人間1で一つの人獣が生まれるという考え方。でも獣祠道では、獣の『ある特徴』と、ヒトの持つ『部分』を交換する事が出来る……単に一つになる事ではないらしいの」
「イイトコ取り、って感じ?」
春都の質問に、秋希はいや、とかぶりを振った。
「獣の方はそうかも知れないけれど、人間はそうならない。機能が著しく低下して、ただ生きている屍のようになってしまう」
春都は、ごくりと唾を呑み込んだ。
「おいおい、まさか『交換するもの』というのは……」
暫く黙っていた秋希は、自分の頭を指差して言った。
「そう……脳よ」




