episode 063
宝暦5年(1755年)
今の多摩地区にあたる場所に、一人の男が現れた。
彼は、万象森羅全て獣より発するものと唱え、動物の力を人間に取り入れる『獣祠道』を説いて回っていた。
付近の村民などは、最初は戯言と相手にしなかったのだが、彼の巧みな話術や熱演により、だんだんと信望するようになっていった。
彼は自らを、榊原燕鼠と名乗っていた。
燕鼠に関して、今でも伝えられている話として有名なものに、『人獣融合』がある。
見せ物小屋でよく『蛇女』などと言って客を集めているものがあるが、燕鼠のそれは全く違っていた。
彼が観衆の前に引き連れて来たのは、言の葉を理解する獣、まさに『人獣』だったのだ。
それは猪であったり、ある時は身の丈3メートルにも及ぶ大きな熊だったりした。
からくり仕掛けでない本物の人の様な立ち居振る舞いに、村民は度肝を抜かれ、燕鼠の神通力に更なる敬意を表した。
この頃になると、彼を不審がる者は全く居なくなり、村に於いてある程度の人望も獲得していた。
それから2年、一人の男が、ある噂を聞きつけてこの村にやって来た。
彼の名は、平賀源内と言った。
「村娘全員が、からくり人形のような村がある」
彼が着いた時には、噂通り、そこに居る娘は全て覇気が無く、ただ毎日を過ごしている死人のような状態であった。
源内は村長の家に出かけ、そこにいた燕鼠と対面する。
本草学者兼科学者VS獣祠道論者
三日三晩続いた壮絶な論戦の末、源内が勝利し、燕鼠は村を追われることとなった。
その後、彼の消息は分かっていない。
野武士に切り殺されたとか、奥州に落ち延びて行ったとか……




