episode 061
「……さ、さあもう一個の方を開こうか」
「そ、そうね」
乾いた笑いを浮かべて、二人はもう一つのウィンドウを待った。
前が前だっただけに、あまり期待はしていなかったのだが、ファイルが開くと食い入る様に画面を見つめる。
果たして、そこに現れたのはたった一行の文字だけであった。
『榊原燕鼠。江戸時代、獣祠道を唱えた人物』
(さかきばらえんそ? じゅうしどう?)
「これだけ?」
あまりの情報の少なさに、秋希も拍子抜けしていた。
選択肢が少ない場合、人間は非常に慎重になる。
しかも、今回は実質一つしか選べない。
「塩素研究会は無駄骨になりそうだし……」
やがて、春都が口を開いた。
「賭けてみよう、榊原燕鼠に」
「うん」
それから2日、二人は学内の各図書館(大学・高等部・中等部)に足を運び、榊原燕鼠の手掛かりが無いか求め歩いた。
勿論春都は、ナタリーの情報網も駆使していたのだが、これといったものは見つからない。
諦めが見えた時、中等部の図書館司書のお姉さんが声を掛けてきた。
「あなた達、獣祠道の事を調べているんだって?」
「ええ、そうですが……」
人柄の良さそうな彼女は、春都に向かって楽しそうに話しかけた。
「昨日担当の人に、そんな話を聞いたもんだから、お役に立てるかしら」
「どんな小さな事でもいいんです、お願いします」
頭を下げる秋希に、少し考えていたが、やがて意を決した様に話しかけた。
「実はね、大学生時代、ゼミの先生が講義の中で話していた事を思い出したの。確かそんな名前だったと思うわ」
春都と秋希は、思わず顔を見合わせた。
ようやく一筋の手掛かりが見えて来たのだ。
「それで、その教授は今何処に?」
彼女は額に指を置いた。
「うーん、何せ10年も前だから。I大学の生物学部だったんだけど、まだ居るのかなぁ……」
話している内に、記憶が蘇って来たのだろう、彼女は少し吹き出しながら言った。
「それで、その先生が獣祠道についてまとめた論文を本にしたって言ってね。家賃が払えないとか言って、学生達にも無理やり買わせようとしてたなあ。誰も買わなかったけど、大きな本屋さんではそこそこ人気があったみたいよ」
「その教授のお名前、伺ってよろしいですか?」
最後に、秋希が聞いた。
「確か……はいじま……拝島新太先生よ」




