episode 060
「エンソ様?」
聞き慣れない言葉に、春都は思わず聞き直した。
「そう、エンソ様」
観念した秋希は、彼に自分が思っていた事を正直に打ち明けたのだ。
彼女は、オーガが自分を見て言ったセリフを思い出していた。
『……エンソ様には、勿体ないんだナ……』
「おそらく、あの怪物を生み出した人物を指していると思うわ」
「あまり聞いた事ない名前だなぁ……ちょっと待って」
春都はキーボードに向き直った。
二人は今、技術準備室に来ている。
内々の話ということで秋希を連れて来た春都だったが、ここに来るまでにナタリーを説得するのは一苦労だった。
(だから、ちょっとの間おとなしくしていて欲しいんだよ)
『ナンデ? イイジャナイ』
彼女は、明らかに不機嫌な様子だ。
(秋希ちゃんには、インベンションマンの秘密を知られる訳にはいかないんだ。頼むよナタリー)
『今週ノ、●ay』
(え?)
『夏服ノ特集号。アレデ手ヲウッテアゲル』
要約すると、人気の女性ファッション雑誌を購入して、夏服の衣装をスキャンしてくれという意味である。
(わ、分かったよ)
『ムフフン、ヨロシイ』
(蔵敷がコソコソ教育してるみたいだが、どんどん俗人的になっていくなぁ)
今は画面の中で、パソコンの壁紙の如くじーっと澄まし顔で固まっているナタリーを見て、春都は苦笑した。
「エ・ン・ソ、と。よし、ネット検索プログラム始動」
すると、画面内のナタリーがとことこ歩き始めた。
壁紙のキャラクターが突然動き出したことで、一瞬ぎょっとした秋希だったが、ナタリーが一生懸命辞書を繰っている姿を見て「かわいい!」と言って顔を綻ばせた。
程なく、検索終了のダイアログが現れる。
『該当件数ハ2件デス』
「ビンゴだな」
ウィンドウに出て来た『2ノ1』というボタンを春都がクリックする。
データを読み込んでいる間、秋希は砂時計のアイコンを眺めながら、ドキドキして待っていた。
10秒後、検索結果が画面に映し出される。
『超強力!塩素殺菌の効果と恐怖~日本塩素研究会調べ~』
春都と秋希は、数分間パソコンの前で固まっていた。




