episode 059
コーヒーを啜りながら、雑談を混ぜつつ緩やかに作業が再開される。
ある程度話が進んだところで、春都は再び指示を出した。
「では、頭の体操だ。今から言う項目に近い方を、直感で答えて欲しい」
3人が頷いたのを見て、手にした青色の付箋紙を掲げる。
「まずは計画的か、場当たり的か」
「Aは計画的ね。偏差値によって下着を盗んでいるから」
「Bは、事件そのものに場当たり的なものを感じるな。同じ命を絶つにしても、他に上手い方法がある」
「Cは、どちらかというと計画的かな。怪物を裏で操っていた人物は、何か意味があって送り込んだに違いないから」
「うんうん、いいね」
所々頷きながら、満足そうに意見を聞いていた春都は、意見の通りに付箋紙を貼り付ける。
「次は、陰と陽だ」
「Aは間違い無く陰。だって、下着ドロなんか明るくやるものじゃあないでしょう」
「Bは……陰かなぁ。ハッキリとした理由があるというよりも、陽に繋がる要素が無いから消去法でそう思った」
「Cは……陽だと思う。白昼堂々と公衆の面前で暴れ始めた、という点から」
「ふむふむ、成る程……」
秋希の意見に、春都は意味深な反応を示した。
「最後、男性と女性」
「考えるまでもないわ、Aはオトコ」
「Bも、どこか男性の影がチラついているなぁ」
「Cは、基本的に男性なのだけれど……」
秋希は、何かを確信したように言った。
「少しだけ、作為的なものを感じた。何となく女性の要素も存在している気がする」
「よし、ここまでの意見をざっと整理するぞ」
ひと通り話を聞いた春都が、こめかみをトントン叩きながら纏めに掛かった。
「謎が多く、一見複雑に思えるこの事件は、『二人の首謀者』が其々別々に行動した結果が絡み合っているのだ、と推定される」
冬流は、ひゅう、と口笛を吹いた。
「即ち、AとBは男性、Cは女性が計画したものだ。時間的な経過で言えば、AとBは相当事件が進行しているが、Cに関しては序盤戦といったところかな」
「……さすが、としか言いようが無いね」
今更ながら、相談室長である春都の能力を目の当たりにした夏純は、有り難やぁと彼を拝んでいる。
顔色を変える事なく、春都はテキパキと指示を出して行った。
「ここからは、二手に分かれよう。左と夏純はAB担当。特進クラスを含めて、容疑者の割り出しを宜しく」
「了解!」「ラジャ!」
「俺と秋希ちゃんは、怪物事件を担当する。まずは地道だけれど、ひとつでも多くの証拠を集めるところからだ」
「はい!」
立ち上がった春都は、メンバーの顔を見回して言った。
「では解散だ、みんな宜しく頼むよ」
「やっぱり、室長は室長だなぁ」
冬流&夏純と別れたあと、渡り廊下を歩きながら、秋希は前を進んでいる春都にそう言った。
「複雑な問題を一気に整理してしまったのは、正直驚いたわ」
「俺も、この結論に至ったのはつい最近だよ」
春都は正直に答えた。
「それに、どれだけ状況整理や仮説立案が整ったとしても、根本的な解決にはならない。もっと多くの情報……証拠が必要だ」
そう言った春都は、ゆっくりと振り返る。
「さて秋希ちゃん、そろそろ右手の中のものを見せて貰っても良いかな?」
「っッ!」
驚いた秋希は、慌てて口元を押さえる。
彼女が握った右拳の隙間から、付箋紙の端が僅かに姿を覗かせていた。




