episode 056
「無いっ!」
まだ痛む足を引き摺りながら女子トイレに駆け込んだ冬流は、最奥の個室を覗き込んんだ瞬間、大声で叫んだ。
「君、ここにあった女生徒の死体、どこにいったか知らないか?」
どう見ても自分の方が怪しい彼に、たまたま入って来た女生徒は、涙目でぶんぶんと首を振る。
「やめんかいッ!」
ようやく追いついた夏純は、彼の頭を思い切り引っぱたいた。
「また、証拠が逃げて行った……」
まるで何事も無かったような日常感を備えた個室を眺めて、秋希は軽い眩暈を覚えた。
『エンソ様には、もったいないんだナ』
(あれは名前……一体、誰の事だろうか?)
一向に出口の見えないこの超常現象に、おそらく唯一終止符を打つ事が出来る人物であることは間違いない。
(必ず、たどり着いて見せる)
その時、彼女の手首から電子音が聞こえた。
「はい篠原……室長、どこに行っていたのですか。こっちは大変……え!?」
通信機から顔を離した彼女は、冬流と夏純に呼びかけた。
「室長が呼んでいる、緊急会議だって」
「了解」
「分かったわ」
すぐに駆け出していく彼女達を、物陰から見つめる一つの影があった。
「……」
無表情のまま暫く佇んでいた柚香は、やがて踵を返してその場を立ち去って行った。
「……そうか」
5号館校舎の屋上に佇んでいた男は、低い声で携帯電話に話し掛けていた。
「実験体にしては上出来だ。入手した覆面男のデータは、あの女にも送っておけ」
電話が切れると、男はくくくっと押し殺した笑いを見せた。




