episode 052
「何、あのコスプレ君は?」
愛唯を抱えて戻って来た夏純が、不思議そうにケビンを見ながら左尾に尋ねた。
「知らん、だが敵じゃないのは確かだ」
連続して放たれる溶解液を、ケビンは華麗なステップで躱している。
「実力もある。ただ相手はSSRも歯が立たなかった奴だ。このまま逃げ回っているだけでは、いずれ……」
溶解液が、ケビンの右腕を掠めた。
特殊バリヤードフェルトが一瞬蒸発したが、瞬時に回復したので身体的なダメージは無かった。
「ニャロウっ!」
左尾の予想通り、彼は少し焦っていた。
溶解液を防ぐだけでも、確実にエネルギーが減っていく。
イマージングから既に2分が経過したため、あと3分弱で決着を付けなければならない。
「あっ、あの人は!」
ようやく意識が戻った愛唯は、ケビンの姿を見つけるや否や、ガバッと跳ね起きた。
「前回と姿は異なるけれど、私を助けてくれた方に間違いない」
両手を胸の前で組み合わせ、うっとりした表情を浮かべる。
「また、あなたに助けられちゃった……」
「正確には、わたしが引き摺って来たのだけれどね」
すっかり少女漫画モードに入っている彼女を見て、夏純は呆れた顔で呟く。
「絶対勝って、私の為に」
周りが全く見えていない愛唯は、愛しの発明家に向かって熱い眼差しを送った。
そんな彼女の祈りが届いたのか、ケビンの頭にある作戦が閃いた。
「うわーっ、もう駄目だぁ!」
そう叫んだ彼は、オーガの目の前に着地すると力が抜けたように倒れ込んだ。
『ククク、ついに観念したナ』
下卑た笑いをみせた怪物は、すかさず両触手で彼をグルグル巻きにする。
「ああっ!」
愛唯は、思わず顔を覆った。
「ここからどうする気なんだ?」
冬流も、息を飲んで成行を見守っている。
身体の自由を奪われたケビンは、弱々しく言葉を発した。
「ギブアップだ、ひと思いにやってくれ」
『そうだナ』
ガムを咬む様に口をくちゃくちゃやっていたオーガは、満足そうな笑みを浮かべる。
『じゃあ、頭を丸ごと咬み溶かしてやるのナ』
そう言って酸まみれの口を大きく開けた瞬間、ケビンは唯一拘束を免れていた右拳を勢い良く突き出した。
「エアーハンドッ!!」
彼の掌から発射された気弾が、大きく空いたオーガの口内にゼロ距離で吸い込まれる。
ドォウウウンッ!という衝撃音が響いたあと、頭部が後ろ側にねじ曲がった怪物は、ゆっくりと地面に倒れ込んでいった。




