episode 051
「ちょ、ちょっと待って?!」
秋希の顔色が、サアッと引いた。
逃げようと必死にもがいたが、身体を締めつけている触手はびくともしない。
「ヤダ……やめてよォ」
徐々に抵抗する力が薄れて来た彼女を眺めて満足したオーガは、ニタァッと至福の表情を見せる。
『それじゃあ、頂くとするかナ』
下卑た笑いを浮かべていたオーガの頭が、いきなり胴体にめり込んだ。
触手が緩み、失神した秋希の身体が投げ出される。
それを受け止めた影が、跳躍しながら冬流のそばに着地する。
「頼んだ」
「あいよ」
向こうを見ると、夏純の指示で飛び出した彼女の部下達が、愛唯を救出している。
安堵の溜息をついた影に、冬流はまじまじと尋ねた。
「あんた……流派は?」
「え?」
意外な質問に、ケビンは戸惑った。
反応が無かったので、冬流は質問を言い変える。
「かなりの使い手と見受けられるが、伊賀?それとも甲賀?」
その段階で、ケビンは初めてガラス窓に映った自分の姿を見た。
「なっ、なんだこりゃあ!?」
鎖帷子に黒装束、黒頭巾は口元まで覆われている。
額に輝く三日月型の紋章が、更に彼の奇抜な衣装を際立たせていた。
「ナタリー!!」
ケビンは、通信機に向かって怒鳴りつけた。
「何だこの格好は!これじゃ完全に『忍びの者』じゃないか!」
『アラ、オ洒落ジャナイ』
少しも悪びれる様子も無いナタリーの声が返ってきた。
『苦労シテ、ねっとヲ探シ回ッタノヨ』
「ったく、誰の趣味に似たんだか」
軽く頭を押さえたケビンだったが、ふと風の流れが変わった気配を察知して、頭を斜め方向に倒す。
コンマ数秒後、鋭利な刃物の様な物体が頭上を通過していった。
『よくもやりやがったナ!』
怒りの影響か、全身を真っ赤に染めたオーガは、自らの舌を引き寄せながら叫んだ。
『こうなったら、貴様から血祭りにあげてやるナ』
オーガは口元を窄めて、溶解液をマシンガンのように連射した。
体操選手のように身体を回転させて、これをかわすケビン。
その後を追うように、溶解液に触れた地面が等間隔に蒸発していく。




