episode 050
「よし、充電完了」
携帯端末の画面に表示されたバッテリーの容量がフル充電になったことを確認した春都は、よっと身を起こした。
現在彼は、5号館の屋上に居た。
「時間がない。ナタリー、このまま『イマージング』するぞ!」
『リョウカイ』
彼女は、自分のディスプレイに実行プログラムを入力した。
ややあって、元画像のスキャニングが始まる。
『転送率80ぱーせんと、いまーじ完了マデアト10秒』
両踵のスイッチを入れた春都は、身体を包むバリヤーズフェルトの変化を感じながら、校舎の端に向かって走り出した。
「いくぞッ!!」
思いきり欄干を蹴った瞬間、バシュッと音が響いて、彼の身体は大きく上方へと跳び出して行った。
『か、可愛いんだナ、君達』
怪物は、ニヤニヤしながら二人へと近付いて来た。
『エンソ様には勿体ないんだナ、このオーガが頂いちゃうんだナ』
怯える愛唯の耳元に、熱い息を吹き掛ける。
「嫌っ!」
彼女は顔を背ける。
その仕種が気に入ったらしく、オーガはざわざわと触手を伸ばしてきた。
「やめなさい!」
愛唯の前に立った秋希は、果敢にもそれを払いのけた。
しかし、その後更に伸びて来たもう一方の触手が、彼女の身体をギュッと絡め捕った。
『お、俺……気の強い女も、好きなんだナ』
自分の前に秋希を持って来たオーガは、大きな口を開けた。
歯の間から垂れた酸の涎が地面に落ち、白煙を上げている。
「くっ、このエロ豚が!」
冬流が思わず駆け寄ろうとしたが、オーガの声が彼を押し止めた。
『お前があと一歩近付けば、この娘の命は無いんだナ』
「ちっ!」
『それからそっちの女。無線で仲間に指示するのも駄目なんだナ』
「あーら、バレてた?」
小声で腕時計型の通信機に話しかけていた夏純が、きまりが悪そうに乾いた笑い声を上げた。
『まあ、何をやっても全て手遅れなんだナ』
そう言ったオーガは、ガバッと口を開けた。




