episode 046
「おい、紀原」
「何ですかあ?」
紀原愛唯は、ファインダーから目を話さずにあっけらかんと答えた。
「仕事熱心なのは分かるが、咄嗟の時に逃げ後れるんじゃねえぞ」
「でも、ここにいればまた会えるかも知れないじゃないですか」
少し頬を上気させて、彼女が答える。
「会えるって、誰に?」
意味が良く呑み込めない冬流の前で、彼女は胸の前に手を組んで、溜息交じりの台詞を口にした。
「ああ……愛しのあの人は現れるのかしら。名前も知らない謎の発明家様」
空中に投げキッスを始めた彼女を無視して、彼は再び怪物に目を向けた。
(まあ、悪戯としても明日の三面記事くらいにはなるかな)
そう思った矢先に、群衆内から新たな騒めきが起こった。
人込みをかき分けて、アーミールックの覆面男が5人姿を見せる。
それを見て、冬流はひゅうと口笛を吹いた。
「とうとう『SSR』のお出ましか」
SSRとは、『生徒会直属秘密連隊(Seitokai-Secret-Regiment)』の略称である。
普段は全く表の世界に姿を現さないが、有事の際には必ず姿を見せる、たまみらい学園生徒会子飼いの特殊部隊だ。
構成人数、正体などは一切分からない。一説によると、学内で腕利きの生徒を引き抜いては、日々特殊な訓練を施しているらしい。
怪物の周りを取り囲んだ5人は皆大男で、Tシャツから筋肉隆々の腕を覗かせていた。
「あの怪物、そんなに難物なのか?」
SSRが出て来た事で、冬流はこれが只の余興ではない事に気が付いた。
「だとしたら、やべえなこりゃ」




