episode 045
クレーターを取り巻いていた生徒達に、どよめきが起こった。
球状の物体が、静かに動き出したのである。
数十秒後、半周した表面に真っ赤な光が現れた瞬間、球は左右にばっくりと割れた。
「爆発するぞ!」
誰かがそう叫んだため、群衆は慌てて物体から距離を置いた。
そうこうしているうちに、半分に割れた球体の表面が盛り上がり、端々から細長い脚の様なものがせり上がって来る。
「うえ……」
完全に変形したその姿を見て、冬流は軽く吐き気を覚えた。
目の前の物体は、それ位強烈なものだったのだ。
体と脚は鳥類のそれであり、角は牛並みのものが二つ。
顔面は豚で、大きく割けた口からは長い舌がいやらしく蠢いている。
腕がわりの触手が、行き場の無いようにゆらゆらと彷徨っていた。
空想の世界から飛び出て来た様なその姿に、生徒達はみな言葉を失っていた。
「そういや映画研究会が、新作映画の撮影やってるって言ってたな」
「違うよ」
冬流の側にいた映研部長、小寺大輔が即座に否定する。
「予算も少ねぇのに、誰があんなグロいもん作るかよ」
「……キメラ、みたいだね」
集団の最前列に座り込んで、ノートパソコンを操作していた白衣の男子生徒が言葉を挟んだ。
「ドクター、キメラって何だ?」
聞き慣れない言葉に、冬流が尋ねる。
生物研究会総代表、ドクターこと笹岡博之が得意気に言った。
「合成獣の事さ、さしずめ鳥とイノシシと牛ってところかな」
「何でも混ぜりゃいいってものじゃねえぞ……」
うんざりした様子で冬流が呟く。
「そんなもの、誰が作ったんだよ」
「知らない」
ドクター笹岡はあっさり言った。
「いつか作りたいとは思っていたが」
「作るな、んなもん」
カウンターで言葉を返した冬流は、さっきから彼の膝元でシャッターを連写していた女生徒に向き直った。




