episode 044
「どけどけどけい!」
既に集まっていた野次馬の山を押し退けて、冬流が最前列に顔を出した。
「何だぁ、こいつは?」
5号館の正面玄関前に、直径10メートル近くの大きなクレーターが出来ている。
その中央に、鉛色をした大きな球体が顔を覗かせていた。
「直径3〜4メーター、ってトコか」
目視でざっと計算した彼は、その流れで頭上を見上げた。
「隕石って訳じゃあなさそうだし、戦闘機の落とし物か?」
集まった生徒達も、得体の知れない物体に手を出す事が出来ず、ただ距離を取って見守るしか出来ない様子だった。
その時、ふた筋向こうの道路では、壮絶なバトルが繰り広げられていた。
地を飛ぶ様に駆け抜けている春都に向かって、数条のビームが矢の様に降り注いでいる。
やや時間を開けて、白衣の男達が小走りに歩を進めていく。
男達はそれぞれ、2丁のレイガンを構えていた。
かなりの手練らしく、付近の建物には全くヒットしていない。
彼らは春都のバリアーにビームを確実にヒットさせて、その効力をじわじわと奪っていった。
「ちいっ!」
『エアーラン』に急制動を掛けて身体を止めた春都は、後ろを振り返りざま両手を前に突き出した。
身体全体に展開していたバリヤーが直径1メートルの鏡に変化する。
丁度レイガンを発射したばかりの3人は、跳ね返された自らのレーザーに胸を貫かれ、もんどりうって倒れた。
「……バリアーには、こういう使い方もあるんだぜ」
「その様だな、意外だったよ」
唯一無傷だったリーダーの男が、レイガンを構えながら言った。
「だが、今の防御でとうとうエネルギーが切れたようだな」
「さて、何のことだか」
春都は無言のまま、左腕に巻いた通信機をチラリと見た。
ディスプレイには、電池交換のサインが出ている。
「こういう事さ!」
一瞬後、春都は予備動作抜きで前方にダイビングした。
頭上をかすめたビームを紙一重で躱わしつつ、横道に飛び込んでいく。
「外したかっ!」
予想外の動きに虚をつかれ出遅れた男は、舌打ちをして後を追った。
このまま闇雲に逃げ回る訳にはいかないと察した春都は、緊急モードでナタリーを呼び出した。
『ン、ドシタノ?』
あまりにも呑気な彼女の声に気が抜けそうになったが、足元近くを次々と着弾しているレーザーがそれを許さない。
「通信機の電池切れだ。バリヤーが使えない」
『アラマア』
ナタリーの口調は、あくまで他人事だ。
それで却って肝が据わった春都は、彼女に尋ねた。
「援護が欲しい、蔵敷……エルビスはいるか?」
『イナイヨー』
ナタリーは当然のように答えた。
『4ジカラ接待ダッテ早引キシテイッタモン』
「正義の味方の自覚ゼロだな……」
こめかみを押さえた春都は、溜息をついた。
「仕方ない、一旦そちらに戻る。最短ルートの分析を……」
広いメイン通りに出た彼は、はたと言葉を区切った。
「ナタリー、やっぱり良いや。作戦変更」
目の前の建物を見ながら、ニヤリと笑う。
「もっといい事を思い付いた」




