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インベンションマン|Invention-Man  作者: 黒珈|くろこ


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43/55

episode 042

「何? この匂い」

 彼女がそう思った次の瞬間、絹を引き裂く様な絶叫が、廊下中に響き渡った。

 悲鳴を聞いて驚いた生徒が、次々に窓から顔を覗かせる。

 軽く舌打ちして、声の方向に走って行った秋希は、女子トイレの前でへたり込んでいる女生徒に声をかけた。

「どうしたの!?」

 女生徒は、真っ青な顔を向けて言った。

「ひと……人が、殺されている」

瞬間、秋希の身体を戦慄が走った。


(さっき、独りになるなって言ったばかりじゃない。どうして?!)

 ポケットから透明手袋を取り出し手早く装着した彼女は、トイレ内に歩を進めた。


 室内の其処彼処に、先程から感じていた嫌な匂いが充満している。

 鼻に射す刺激臭は、死の香りだった。


 4つ或る個室の内、一番奥のドアが不自然に開いている。

 慎重に近付いた彼女は、隙間からそれを覗き込んで、うえと唸った。


 便器の座面に、一人の女生徒が腰掛けている。

 焦点を結んでいない虚な瞳は、彼女がもう生きてはいない事を意味していた。


 それよりも凄惨を極めたのは、彼女の額だ。

 鈍器で思い切り叩き割られた様にばっくりと割けた傷口から、脳が半分ほどはみ出している。

 今回も殆ど出血は無かったが、却ってそれが事件の異様さを物語っていた。


「……違う」

 死体は、蜷川早紀では無かった。

 彼女が知らない生徒のようだ。


 初めて死体を目の当たりにした事と、想定と異なる展開に衝撃を受けた彼女は、ふらふらっと後ろに倒れ込みそうになった。

 と、その肩をがっしり抱く者がいる。

「アキちゃん、単独行動は程々にね」

「……左君!?」

 秋希が顔を上げると、冬流がニコッと笑顔を覗かせていた。

「まあ、俺達もヒトの事を言えないか」

「あんた、フツーに女子トイレの中に入ってるんじゃないわよ」

 彼の後ろでは、デジタルカメラを抱えた夏純が呆れた顔をしている。


 普段と変わらない二人の様子に、秋希は思わずぷっと吹き出してしまった。

「殺人現場で、そこまで笑えたら上出来ね」

 夏純は安心して、パンと手を鳴らした。

「それでは、警察が到着するまでに現場検証しちゃいますか」

 その時、三人の耳に、ズズウンという低い地鳴りの様な音が響いて来た。


「何?今の」

「そう遠くない、セスナでも墜落したのか?」

 冬流は既に、廊下へ飛び出していた。


 少し躊躇した夏純だったが、死体は逃げないと判断し「私達も向かいましょう」と秋希の手を引いて、彼の後を追った。

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