32/55
episode 031
夜が粛々と更けていく中、その一区画だけが生命を持ったかの様に明るく息づいている。
それもそのはず、たまみらい学園高等部の『特進クラス』は、夜間講習が終わる夜10時過ぎまでは、ほとんどの生徒が教室に残っているからだ。
正しい、会話らしい会話は殆ど聞こえて来ず、紙の上をペンが走る音だけが、其処彼処に漂っていた。
「……まるで別世界だな」
うんざりした顔で、冬流がペンを取った。
彼と春都の二人は、7番地のみ特別に作られた外部訪問者用の受付にて、訪問帳の記入を行っている所だった。
「用件は、どうする?」
冬流は、背後で油断無く辺りを見回している春都に尋ねた。
「……特別図書館にて、自主学習だな」
「了解」
再び視線を訪問帳に戻した冬流は、そこに見慣れた名前を見付けて、おやっと思った。
「先客がいるぜ」
誰、と春都が覗き込む。
彼等のすぐ上の行に、ちょうど10分前に入館した篠原秋希の名前があった。
彼女の行き先は、
2年……A組




