episode 012
「現在地は?」
先回りした春都は、カンカンと音を立てて螺旋階段を駆け上がりながら尋ねた。
影を追いかけている冬流から、怒鳴り声のような返事が来る。
『エリア41を通過!間もなく3号棟のてっぺんだ!』
「真上!?」
慌てて頭上を見上げた彼の視界が、一瞬真っ黒に染まった。
屋上の給水塔から驚異的な飛躍を見せた影は、春都のいる螺旋階段を飛び越え、約2階下にある『屋外プール館』の屋根に降り立った。
振り返った男の口元が、笑っているのか奇妙に歪んでいる。
「こいつ、人間業じゃねえ……」
背筋に軽く戦慄が走った彼は、指をパチンと鳴らした。
左手首の腕時計が鈍く光ると同時に、彼の脳裏では呼び出し音が響く。
コール2回で相手が繋がったのを確認した春都は、意識下で話しかけた。
(ナタリー、どうやら俺達の出番らしいぜ)
『了解、ばっくあっぷシマス』
ナタリーの声を聞いた彼は、その場に座り込んだ。
ア●ィダスのバッシュの踵に仕込まれたスイッチを素早く押下する。
再び立ち上がった春都は、屋外プール館の方角を向いた。
目測を定めたあと、その場で軽くジャンプする。
足が地面に着いた瞬間、バシュッというくぐもった音が響き、彼の身体は宙に投げ出されていた。
そのまま放物線を描いて、プール館へと向かっていく。
「到着、っと!」
絶妙のボディバランスで地面に降り立った春都は、つい先程まで自分が立っていた螺旋階段を振り返った。
「うん、何とかいけそうだな」
これが、彼がナタリー・蔵敷と共に開発した特殊装備『エアーラン』の初披露であった。
靴底に高圧縮ガスを仕込んでおり、ある一定の刺激をセンサーが察知すると、予め設定された量と方向にガスが噴射される。
ある程度の訓練を積んだ春都は、誤差1メートルの範囲で「跳べる」様になっていた。
ポケットからドライバーズグローブを取り出した彼は、両手にそれを装着しながら水泳部の部室に近付いた。
「いま正体がバレるのは、得策じゃないな……」
何かないかと辺りを物色し始めた彼の目に、ロングベンチの片隅に掛けられたゴーグルとスポーツタオルが映った。
「……有り難い」
彼は早速、タオルをバンダナの様に頭に巻き、両目をゴーグルで覆った。
更に、半分開いていた窓からカーテンを拝借して身に纏う。
昔懐かしい『怪傑ハ●マオ』のようになった彼は、姿見に映った自分の姿をチェックしながら呟いた。
「それでは、悪人の成敗に参りますか」




